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醜い伯爵令嬢は悪魔な少年に恋をする【10月より更新再開】  作者: 皇 鸞(すめらぎ らん)
本編
4/31

特別な仲

「おい、フィアナはまだ見つからないのか。」


「も、申し訳ありません。すぐに見つけますので今しばらくお待ちくださいませ。」


夜会ももうお開きの時間になり、皆が帰路へとつく中、私と帰ろうとリオネル様が王城の入り口で待たれている。


……ひどくご立腹な様子で出にくい。


(……身だしなみ、大丈夫かしら……。)


正直、服は何とかなった。


……というか、リオはすごく楽しそうに私のコルセットを締め上げてくれて、それはもうフェリアがやってくれるよりも力強かったせいか、着た時より見栄えのいい感じに仕上がった。


……でも、問題は髪型だ。


(……気づくかしら。さっきと違う事に。)


遊牝つるんでいる間に髪まで乱れてしまい、焦る私の髪をリオが直してくれた。


元通り、という感じではないけれど、そこまで大きな違いはないから気にするほどでもないかもしれない。


(って、考えている暇はないわね。すぐに戻らなきゃ――――)


「フィー」


急ぎリオネル様の元に戻ろうと足を踏み出しかけたその瞬間、愛称で呼ばれて私のことを呼ぶ声が聞こえたほうへと振り返る。


「リ、リオ!?」


そこには先ほど別れたはずのリオがいつの間にか私の後ろにいた。


「ど、どうしたの……?」


さっきの今だからか、リオの綺麗な顔が見づらくて視線を外しながら問いかける。


するとリオはそんな私には目もくれず、私を待ちながら密かに苛立ちを見せるリオネル様に視線を向けた。


「はっ……いろいろ小さそうな男だね。アレがあんたの婚約者?」


「…………え?」


「あんたもひどいよね。婚約者がいるのに簡単に体差し出してさ。」


「ちょ、ちょっと待って!貴方、どうしてそれを――――」


ため息交じりのリオの言葉に焦りを感じて言葉を叫びかける。


その瞬間、私の口をリオが自分の唇でふさいでくる。


「聞こえるよ?婚約者様に。」


「っ……。」


悪戯な笑顔が語る。


俺はバレてもかまわない。とでも言いたげな顔。


その言葉に私は言葉を飲み込んだ。


「……で、良いわけ?早く戻んなくて。」


「……え?」


あっさりと駆けられる言葉に私はすこしだけ驚いた声を出してしまう。


そんな私の声を聴いたリオは訝しげな顔を私へと向けてきた。


「何、その間抜けな声。あぁ、もしかしてあんたは俺にさらってほしいとか?あの王子様から。」


「そ、それは……。」


お父様の事もある。


そんな事思っていたとしても口にできない。


だけど、もし口にしたらリオは、私をこの場から連れ去ってくれるのだろうか。


「連れ去ってあげてもいいよ?あんたは俺の所有物だし。所有物は普通、肌身離さず持っておくか、邸に置いておくものだしね。俺の邸に連れ去ってあげようか?」


私の頬に触れ、語り掛けてくるリオ。


そんなリオの言葉に私の心は揺れずにはいられない。


「……リオ……私は……――――」


「――――――なんてね。」


「え……。」


覚悟を決めて望みを口にしようとした瞬間、私の言葉を遮るリオ。


そんなリオの発言に私は口をぽかんと開けて呆然とせずにはいられなかった。


「冗談だよ。あんたを攫うとかそんな事するわけないじゃん。俺とあんたはそんな特別な仲じゃないしさ。」


「……え?」


(そ、そんな特別な仲じゃない?だ、だって、さっき……)


私はリオに体を委ね、愛を確かめるような行為をしながら同じ時を過ごした。


私にとってそれは初めての事で、まだ体にリオの熱だって残っている。


なのに、リオは、リオは……


「特別じゃなくても、さっきみたいなことをするの……?」


「……さぁ?」


「っ……。」


悲痛な心情の私をあざ笑うかのような、小悪魔な笑みを浮かべるリオ。


そんなつもりはないとはなんとなくわかるけれど、今の私にはそう見える。


……これ以上、一緒に居ては傷つくだけだと私の本能が心の中で叫び始めた。


「か、帰ります!!」


張り裂けそうなくらい痛む胸を押さえながらリオに背を向け、リオネル様の元へと歩き出す。


(私は、なんて思い上がっていたのかしら……。)


醜い私。


そんな私とは対照的に不思議な魅力があって、綺麗な整った顔立ちのリオ。


私なんかと違い、リオには数多の人が寄ってくるだろう。


孤独な私にとっては数少ない心を開けた相手。


でもリオにとってはきっちとがう。


……思い上がりも甚だしい。


自分が恥ずかしくなるほどに。


「フィー。」


「っ!!」


リオから離れようとした私の手をリオが掴んでくる。


手を掴まれたから立ち止まりはするものの、私はリオの方に顔は向けられない。


今、ただでさえひどい顔なのに、もっとひどい顔をしている自覚があるから。


「俺と特別な仲になりたいならその気にさせてみなよ。あんたの持ってる全部でさ。」


「……え?」


「8年前、なんで俺があんたにその指輪を渡したのかは正直解んない。それ、結構大事なモンなはずなんだけどね。でも、俺が意味もなくそれを渡す方があり得ないっていうか、理解できない。だから、あんたには何かある。俺の興味を引く何かがさ。だから頑張ってみなよ。そしたらなれるかもね、特別な仲に。」


「……リオ……。」


なんてひどい人だろう。


望みがないように見せて一抹の望みを与えてくる。


あきらめられたら楽なのにそれを許してくれない。


本当に、悪魔みたいな人だ。


「でも、あんた本当悪い女だね。婚約者がいるのに俺の心まで欲しがっちゃうとかさ。何?もしかして本当は無害そうな顔した悪女なの?」


「なっ……!ち、ちがっ……!」


「ま、悪女でも何でもいいけどさ。俺を退屈させないでね、フィー。」


「っ!!!」


色っぽい声で私を呼んだリオは私を愛称で呼んだ後、私の頬にキスをしてきた。


温かくて柔らかな唇。


その感触が私の顔の体温を一気に上昇させた。


「はは、あんたってからかいがいがあって面白いよね。あぁ、からかいがいっていうかいじめがい?」


「なっ……!」


楽しそうに笑うリオに私はまたすこし腹立たしさを覚える。


間違いなく私の方が年上なのにこの小馬鹿にした態度だ。


人をドキドキさせるのもうまいし、本当にムカつく……。


「……さて、俺は眠いし帰ろうかな。じゃあね。俺の可愛いおもちゃのフィー。」


「おっ……おもちゃじゃないわよ!!!」


気取った感じで歩きながら去っていく小さな背中。


背丈に不釣り合いな大人びた歩き方。


だけど、それが妙に愛しくて、別れが寂しくなる。


(私っておかしいわ……。言いたい放題言われているのに、今みたいな言い合いができる事が【楽しい】と感じてしまうだなんて……。)


こんな風に感情をぶつけあうなんて事、したことがない。


いつもはこの胸の中に押し殺してばかりで、感情を表に出す事なんてめったにない。


……誰かに対して今みたいにムッとして言葉を感情的に返すなんて事、初めてしたかもしれない。


(……気持ちいいものね……こういうの……。)


馬鹿みたいな話かもしれない。


でも、こんな気持ちを教えてくれたリオの事を私はまた一段と愛しくなってしまう。


……愛しくなればなるほどつらくなる。


なんとなく、わかっているのに。


それでも止められないこの感情は、どうすればよいのだろうか……。


「……おい、何をしている。」


「っ!!!」


背後から聞こえた声に驚き、急ぎ振り返る。


そこには深いそうな顔をしたリオネル様が私を睨みつけながら見下ろしている様があった。


「リ……リオネル様……。」


「この俺を待たせるとはいい度胸だな、化物女。」


「っ……。」


向けられる嫌悪からくる言葉の暴力。


いや、嫌悪というよりは苛立ちだろう。


彼もまた、リオとは違う意味で私をモノと思っている人間だ。


モノに自身の時間を奪われて不機嫌なことはすぐさま理解できた。


「も、申し訳ありません。」


冷たく、汚物を見るような目。


これが私の日常で、リオと過ごす時間が夢のような時間だとすぐさま思い知らされた。


……リオネル様のこの反応こそ一般的なものだ。


それこそ何故リオは私にこんな瞳を向けないのだろうか。


「もういい。こい、帰るぞ!!」


「っ!!」


乱暴に手首を掴まれ、その私の手首をつかむリオネル様の手に苛立ちからか、女性にとってはひどく痛みを感じる強さの力をこめられる。


痛い。


けれどそんな事を発言する事なんてできない。


(耐えなきゃ……痛くても我慢しなきゃ……。)


そう、彼の機嫌を損ねてはいけない。


彼は取引先なのだ。


この人の気を逆なですることは得策ではない。


ただただ黙って結婚して、幽閉される日を待つのが私の仕事だ。


その仕事を出来るだけ平穏に進めるために怒りを買うのは避けたい。


(……どうして、どうしてもう少し早く会いに来てくれなかったのかしら、リオ……。もし、もしもう少し早くに貴方に会えていたら私は………リオ……貴方に攫ってほしいと願えたのに。)


願ったところで攫ってくれるかはわからない。


だけど、それでも……。


リオ。貴方と居られるかもしれない未来が欲しかった……。


そんな事を考えながら帰りの馬車にて私は揺られていた。


夜の空に瞬く星を見上げながら。


同乗していたリオネル様にずっと、睨みつけられていたとも知らずに。

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