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醜い伯爵令嬢は悪魔な少年に恋をする【10月より更新再開】  作者: 皇 鸞(すめらぎ らん)
本編
3/31

再会の夜

翌日、私はリオネル様の用意してくださった馬車に乗り込み、夜会へとやってきた。


「さぁ、愛しいフィアナ。お手を。」


「……はい。」


周りを欺くために繕われた笑顔の仮面。


その仮面の笑みに私も仮面の笑みを返す。


そう、これは演技だ。


二人が親しくあり、他の王族が入り込むすきなどないと見せつけるための。


それに、次期王ともなれば名声だって必要だ。


醜い化物のような娘ですら人として愛する事が出来る心広き王。


それがリオネル様の演じている姿。


……私はリオネル様を引き立てる引き立て役。


……見世物のような気がして、リオネル様のパートナーとして参加する夜会は本当に苦手だ。


だけどこれは仕事だ。


お父様の治療の対価だと思えば頑張れる。


(悔しいけれど、リオネル様の領地のお医者様は王国一ともいわれている方。お父様の領地の医者の方ではお父様のご病気は治せないといわれてしまった。もう、リオネル様に頼るしかお父様を助けられないのだものね。)


だから私はお父様のために働く。


心を無にして。


「女王陛下にご挨拶を。」


「ご挨拶を。」


女王陛下の前で膝をつき、頭を垂れて挨拶するリオネル様に続き、私も挨拶をする。


「面を上げなさい。」


女王陛下のお言葉で頭を上げると、女王陛下は私を見てにっこりと笑いかけてくれた。


「リーシャ、婚約おめでとう。」


「ありがとうございます、女王陛下。」


リーシャというのは女王陛下のご息女の愛称だ。


私にご息女を重ねられる女王陛下が私を誤ってリーシャと呼んだ際、女王陛下さえ良ければそうお呼びくださいとお伝えしたことから、女王陛下は私をリーシャと呼んでいる。


「貴方の幸せそうな笑顔が見られて何よりだわ。リオネル・ロンズデイル。リーシャ、私の娘のように愛しいフィアナを絶対幸せにするのですよ?」


「はい。もちろんでございます。」


女王陛下の言葉に力強く答えるリオネル様。


……けれど、私は知っている。


結婚したところで私たちが【夫婦】という関係にはなれない事を。


リオネル様から契約を結ぶ上で既に結婚後の話をされているからだ。


私はほぼ、幽閉に近い状態となる。


リオネル様が適当な女性に子を産ませ、その子を私が出産したことにする。


そして、出産の際に私は衰弱したこととなり、その後は与えられた部屋でのみの生活となる。


どの段階で王位を継げるかは解らないため、王宮に上がれても上がれなくても実行することは変わらない。


そうリオネル様から最初に言われていた。


つまりは【お前に女の役割は求めない】という事なのだろう。


……普通の女性ならそんなことを言われたら悲しむかもしれない。


だけど、私はその言葉を聞いて嬉しかった。


だって、心も身体も要らないから籍だけを、未来だけを売れ。


そういわれたという事だ。


だから、私たちは決して普通の夫婦の様にはならないだろう。


夫婦を演じる役者二人。


それがあくまで私達だ。


お互いの利の為に。


「……陛下へのあいさつは終わった。お前は好きにしていろ。俺は他の貴族たちに挨拶へ行ってくる。わかっているとは思うが余計なことは口にするなよ?余計なことを口にしてみろ。その時は――――」


「……わかっております。そのような事は致しません。」


もし私が何かをやらかし、リオネル様が王位を継承できなければそこで契約はなかったことにされる。


つまり、お父様の治療が終了するという事だ。


リオネル様の事だ。


そうなれば二度とその名医の元でお父様が治療することは叶わなくなるだろう。


それだけは何としてでも避けたい。


「……少し、夜風にでもあたりましょう。」


笑い声溢れる会場。


その中でひそひそと聞こえる私に向けられる【醜い】だの【身の程知らず】だのの言葉たち。


その言葉から逃げるように、関わらない様に、私はテラスへと急ぎ出た。


その瞬間だった。


「ねぇ。」


「っ!!」


テラスへと足を踏み出したその瞬間、私の手首が何者かにつかまれる。


一体誰がこんな無作法な事をと思い、私は声をかけてきた人物を見る。


その瞬間、目に入った姿に私は息をのんだ。


「ちょっと、あんたに話があるんだけど。」


私より少し背の低い少年。


その少年の容姿に私は見覚えがあった。


「ついてきなよ。あぁ、言っとくけどあんたに拒否権無いからね?」


悪戯な笑みを私に向ける少年。


そんな少年に私の胸はひどく高鳴る。


ひどく上から目線な口調。


貴族とは思えない無作法な話し方。


だけどそれがひどく心地いい。


間違いない。


この少年は私が待ちわびていたあの子、リオだ。


そんな久々に会えた感動に身を震わせる私を置いてリオはさっさと歩き出すし、さらに、リオは身軽にテラスの囲いの柵を飛び超えて、外の芝生へと降り立ってしまう。


「ま、まって!私、無理だわ!こんな所から外に出られないわ!」


まず柵に上るのも大変だし、テラスの外の芝生に降り立とうと思ったら、いくらここが一階でも多少高さがある為、動きなれていない私ではうまく着地できないと思う。


「はぁ……あんた、手がかかるね。」


リオはそういうと両腕を広げ、両手を私に向けて差し出してくる。


「……え?」


差し出された手の意味が解らず私は首を傾げた。


「テラスの柵には自分で上りなよ。でも、そっからは仕方ないから俺が手伝ってあげる。」


「て、手伝ってあげるって……。」


辺りを見回すとちょうど中でワルツの音楽が流れているせいか、誰もテラスにはいない。


今ならはしたない行為を咎める人もいないだろう。


でも、そもそも柵に登れないわけで……


「さっさと上りなよ、それくらい。俺の事待たせないでよね。」


「っ~~~。」


呆れてため息をつかれる。


そんな行動に私の胸が焦ってしまう。


上らなきゃ。


何度も登ろうとして登れないなんて事が数回続く。


そして――――


「やった!行け――――――っ……!!」


柵の上に登れた。


そう思った瞬間、私の手が柵から滑り落ちる。


「きゃぁぁっ!!」


勢いに乗って柵の上に上った私は滑り落ちた手のせいでそのまま前のめりにテラスの外へと体が落ちていく。


だけど――――


「……やればできるじゃん。」


そんな私をリオは抱き留めてくれたのだった。


「……あ、ありがとう。」


「はいはい、どういたしまして。」


私を抱きとめてくれたリオからゆっくりと名残惜しくも身体を離す。


(私より、小さいのに……。)


ドレスの重さだってある。


きっと私の方が体重も重いはずだ。


なのに軽々と受け止めてくれたリオ。


……小さくても男の人なんだと私は胸を高鳴らせた。


そして、それからどれだけ歩いただろう。


人気のない場所までやってくるとリオは足を止めた。


でも、リオは足を止めると固まったように動きもしないし話もしなくなる。


「リ、リオ……?」


不安になってリオに問いかける。


次の瞬間だった。


「っ!!」


右肩を掴まれ、近くの木に体を押し付けられると木とリオの間に挟まれてしまう。


そしてそんな突然の出来事に驚く私の顔のすぐ近くにはリオの整った顔があった。


「リ、リオ?どうしたの……?」


リオは私の顔をじっと見つめてくる。


それも、とても真剣な面持ちで。


(ま、まさか私が解らない?でも、そんな事って……。)


自分で言うのもなんだけれど、普通の人ならともかく、こんな醜い顔の私を簡単に忘れられるはずがない。


そう思っていた次の瞬間だった。


私の顔を隠す飾りがリオの手によって取り外されてしまう。


「リ、リオ!?ま、まって!飾りを外さないで!貴方だって知ってるでしょ!?その飾りの下にあるのは醜い顔だけなのよ!?」


いくらこの醜い顔を知っているからと言ってもリオは私にとって特別な人だ。


醜いと思われるような顔を見せたいだなんて思えない。


だけど、8年前の様に私の醜い顔はリオに暴かれる。


無駄な抵抗かもしれないけれどそれでも私はとっさに左手で左側の顔を隠した。


(……見ないで。私の醜い顔を……見ないで……!)


暴かれた恥ずかしさとリオの顔が近くにある恥ずかしさで私の胸がはち切れそうなくらい早く鼓を打つ。


リオが何も話さないせいでこの鼓動が聞こえてしまいそうでさらに恥ずかしさを感じる。


「ど、どうしてこんなことっ……。」


リオの行動が読めずに搾り出すかのように声を出す。


するとリオは私の前髪から手を離し、今度は私の左手を掴んだ。


「醜い顔。」


「っ……。」


吐き捨てられた言葉に私の胸にまるで矢でも刺さったかのような衝撃が走る。


……8年前にも言われたことはあるのに、何故だろう。

やっぱりと思うわけじゃなく、ひどく胸が痛む。


「……醜い顔しかないって……言ったじゃない……。」


醜いといわれたことがあるから知っていた。


醜いといわれることが解っていたから暴かないでといったのに。


意地悪だ。


リオは、意地悪……。


「あぁ、何?コンプレックスだった?ごめんごめん。一度見てみたかったんだよね。俺の所有物の顔。」


「……え?一度……見てみたかった……?」


悪びれずとりあえず謝罪の言葉だけを発したかのような口調のリオ。


そんなリオの言葉の中に捨て置けない言葉があった。


以前にも見た事があるはずなのに、どうして一度も見たことないようなことを言うのだろう。


「貴方は……こんな醜い顔を覚えていなかったの……?」


8年前、出会ったあの日の事を。


私の顔を暴いたことを。


そして最後には【綺麗】と言ってくれたことも。


「悪いけど俺、多分あんたとあったすぐ後ぐらいだと思うんだけど、大怪我してさ。その時に記憶失くしたらしいんだよね。」


「え?お、大怪我!?大丈夫だったの!?もう平気なの!?それともまだ――――」


「ちょっ、うるさいんだけど。」


「ご、ごめんなさい……。」


驚きのあまり逆に私がリオにつかみかかってしまい、落ち着いた声でうるさいと怒られてしまう。


でも、それだけ心配だったのだ。


その、好きな人の事だから。


「それもさ、あんたと一緒に居た前後の記憶だけがよく思い出せないんだよね。なんとなく女と一緒に居たって事と、俺の指輪を渡したって事だけは覚えてたんだけど、それ以外はまるで覚えてなくってさ。あんたを探すのは苦労したよ。」


「……私を探す……さ、探してくれていたの!?会いたいと思っていたのはその、わ、私だけじゃなかったの……?」


探してくれていたという事はそういう事なのだと思う。


というか、そう思いたい。


「リ、リオ……私は貴方に会いたかった。ずっと。貴方が覚えていなくても私はずっと、あの時の事を忘れた事なんてなかったわ。貴方が、ずっとずっと好きだった。」


リオの探してくれていたという言葉に長年、胸に押し込めていた言葉があふれだしてきてしまう。


リオはそんな風に思っていないだろうけれど、私はずっと、ずっと好きだった。


「……リオ……会いたかった……。」


嬉しくてにやけてしまう顔。


だけど、会えない切なさに耐え忍んできた日々の思いからか、涙が頬を伝ってしまう。


泣くようなところじゃないとわかっている。


だけど、涙がこらえきれない。


「……あんた、名前は?」


「フィアナよ。……貴方はフィーと呼ぶといってくれたわ、フェミリオル。」


「……何でそこでいきなりそんな他人行儀に呼ぶわけ?そこは愛称で呼ぶもんじゃないの?フィー。」


「だ、だって……。」


あの日、愛称で呼ぶことに対して【特別】に呼ばれてあげてもいいとフェミリオルは言った。


……その【特別】は今のリオに許されたことではない。


私に愛称で呼ぶことを許してくれたのは昔のリオで、今目の前にいる私との記憶がないフェミリオルではないのだから。


「……呼びなよ、俺をリオって。あんたに呼ばれるのは嫌じゃない。あんたの泣き顔見ててそう思った。」


「な、泣き顔って……ふふっ……貴方って、本当に変な人。どれだけ私の泣き顔が好きなの?」


「……は?」


私の吹き出した理由が解らず首をかしげるリオ。


そうだ。


今のリオは私の泣き顔を綺麗と言った事も覚えていないのだ。


……覚えていないのにまた好意的な感情を向けてくれるという事は、あの時の言葉に嘘はなかったのだと思う。


「……よくわからないけど、そのあんたがマウントとってる感、なんかムカつく。」


むくれた顔を私に向けるリオ。


そんな年相応な子供らしいリオの表情に私はいけないと思いながらもいっそう笑ってしまう。


「なんでもいいけどさ……」


「え……?」


なんでもいいといいながら私の腰に手を回すリオ。


一体何をする気だろう。


そう思った瞬間だった。


「なっ!!リ、リオ!?何をっ……!」


私のドレスの紐がリオによって緩められてしまう。


重さのあるドレスはすぐさまズレ落ちてくる。


私は急ぎしゃがみ込み、ドレスがこれ以上脱げ落ち無い様に支えた。


「俺より優位に立てる時間なんてそう長くないって覚えときなよ?ほら、もう俺が優位。」


「ゆ、優位とかそういう問題じゃないわ!いきなり何をするの!?私、自分ではドレスを着れないのにっ……!」


普通の服はともかく、ドレスなどはいつもフェリアが腰ひもを頑張って閉めたりして着せてくれている。


自分でなんて着たことがない以上、脱がされてしまってはもう着ることは出来ない。


(ど、どうしましょう。また後でリオネル様の元に戻らなければいけないのにっ……!)


こうなってしまっては戻れない。


けれど戻らなければ怪しまれる。


きっと、リオネル様は例えどこかの男性と私が何かをしていても気にはなさらない。


相手が王族の血を引く公爵家の人間ではない限り。


でも、私が戻らないとリオネル様の体裁が悪くなってしまう。


そうなったら怒るだろう。


彼を怒らせることは出来ればしたくないのに……


「はぁ……人間のお嬢様ってそんな簡単なことも自分でできないわけ?」


「え……人間の……?」


「仕方ないから後でこの俺が【特別】に着せてあげるよ。」


「っ!!」


特別。


久々に聞いたその言葉が私の胸をはやらせる。


なんて、嬉しくて良い響きなのだろう。


「ありがたく思いなよ?下女でも下男でもない俺があんたの世話してあげるんだからさ。」


「リオ………………って、待って!どうして貴方が着せ方を知っているの!?」


「は?そんなのどうでもいいでしょ?答えなきゃダメなわけ?」


「だ、駄目っていうか、気になるっていうか……。」


今思えばリオは脱がし方も知っていた。


それでいて着せ方も知っている。


……それこそ、下女でも下男でもないのにそんな事が出来るだなんて、大人の経験豊富な男性ぐらいだと思う。


……リオは何処からどう見ても子供なのに、まさか……


「貴方、女性との経験が豊富なの……?」


「……さぁ?どうだろうね。」


「っ!!」


私の言葉にニヤつきながら答えるリオ。


私の反応を見て遊んでいるのが私にも簡単にわかる。


「まぁ、仮に俺が経験豊富だったとして?それで何かが変わるわけ?」


「っ……!」


しゃがみ込む私に追い打ちをかけるようにリオもしゃがみ込み、私へ体を寄せてくる。


そして、ドレスを抱きかかえる私の手をそっと取り、ドレスを掴む私の指をそっとなで、ドレスから私の指を一つずつ外していく。


「リ、リオ……あの……。」


「あんたは俺の所有物なんだから口答えはさせないよ。」


耳元で小さくささやかれる声。


息が耳にあたりながら聞こえてくるその声に私の体が痺れたかのように動かない。


「俺の指輪をちゃんと持ってるって事はあんたは俺の所有物なんでしょ?ねぇ、違う?」


「っ……ち、違わない……。」


8年前からずっと自分に言ってきた。


私はリオの所有物だと。


言い方は悪いけど、でも不思議と相手がリオだからだろうか。


所有物という言い方に【特別】感を感じていた。


「あんたのこの醜い顔も、うるさくわめいてばっかの声も、あんたの涙も。全部俺の物だって証拠に指輪を持ってるんだよね?」


顔、喉、そして目元。


リオは順番に私の体に口づけていく。


口づけられたところから体に熱が伝わる。


……その熱に頭が侵されていくような、そんな感覚だ。


どんどん何も考えられなくなっていく。


「あっ……!リ、リオ……コルセットは緩めちゃっ……」


体のラインが綺麗に見える様に無理やり締め付けるコルセット。


そればかりは流石に緩められては困る。


つけるのにかなりコツがいるものだ。


流石にそんなものはリオには扱えないはず。


「安心しなよ、これも俺がしっかりしめ上げてあげるから。内臓が出るって思うくらいさ。」


「なっ!!い、意地悪――――――――――――んんっ!!」


あまりの意地の悪さに叫びかけた私の口をリオの手が覆う。


意地悪そうな笑みを向けてくるリオに私は「ずるいなぁ」と感じつつも口を閉じた。


そして、その後はただ……


所有物らしく私は求められるがままにリオに体を委ね、リオから体中にたくさんの口づけをもらったのだった。

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