恋人のような時間
リオネル様と改めて婚約を決めた夜が明け、翌日、私はリオネル様と共にお父様がお世話になっている病院へとやってきた。
「さぁ、お手を。」
馬車から降りたリオネル様が私に手を差し出し、エスコートしてくれる。
私はその手を取り、馬車から降りる。
演技じゃないリオネル様の優しさに私はくすぐったさを覚えた。
そんな私にリオネル様は腕を差し出してくれて、私はその腕に手を置かせてもらう。
(……本当の恋人みたい。)
慣れない感覚に私はひどく照れ臭かった。
「窓から見ていたよ、フィアナ。ひどく素敵な二人に私は見とれてしまったよ。」
病室に入るや否や、私とリオネル様は父に気恥ずかしくなる言葉を向けられた。
お父様はもう何か月も私たちが婚約者としての時を過ごしたと思い込んでおられるけれど、実際はまだ1日もこういったような過ごし方はしていない。
いや、同室で寝たりと、もっとすごいことはしているからしていないは違うかもしれない。
でも、なんだか全然なれなくてひどく照れ臭くなってしまう。
「伯爵、この間はワインをありがとうございました。フィアナと美味しくいただきました。」
流石リオネル様というべきか、リオネル様は全然恥ずかしがる事無くお父様と会話を始めた。
こう言った事にはなれているのか、演技モードなのかはちょっと今は解らない。
でも、流石だなと思い私はリオネル様の横顔を眺めた。
「……安心しましたよ、リオネル殿。うちの娘はどうやら貴方に大切にしていただいているようだ。私はこのように誰かの隣で自然な姿をしている娘の姿を今まで見た事がありませんでしたから。」
穏やかに笑いながら私を見るお父様。
そんなお父様の顔色はとてもよくて、私は順調に回復されているのだと安心を覚えた。
精神的なものから倒れたお父様。
私にリオネル様という素敵な婚約者がいるおかげで回復も順調なのかもしれない。
それからしばらく、私たちは何でもない会話をつづけた。
まだお父様に語れるほど婚約者としての日々を過ごしていない私たちは偽りは語らず、なんでもない話をすることにしたのだった。
そして、お父様の体をいたわり、私たちはそう長いすることなく病室を後にした。
「……回復が順調の様でよかったな。」
「はい。」
私の事を気遣ってか声をかけてくれるリオネル様。
私はそのリオネル様の言葉に自然に笑みを浮かべて答えた。
「……ところで、何故急に街に来たいなど言い出したのだ?」
不思議そうな顔で私と共に街中を歩くリオネル様は私を見つめる。
昨日も来たのにと言いたげだ。
……まぁ、その通りなのだが……。
「そ、その、買いたいものがあって……。」
(フェリアったら全然リオネル様へのプレゼントを用意してくれないのだものね……)
そう、つまりリオネル様へのプレゼント探しだ。
以前お会いした時とは違いどんどん顔色がよくなっているお父様。
そんなお父様を見ていると今までの感謝を込めて今すぐ贈り物がしたくなったのだ。
(あ……これいいかも。)
近くの露店に並ぶ綺麗なアクセサリーたち。
私はその中にあるロザリオのネックレスに惹かれ、立ち止まった。
シンプルなつくりのおかげか別に男性がつけていてもおかしくなさそうなデザインだ。
しかも、そのロザリオのネックレスの中心にはリオネル様の瞳と同じオレンジ色の宝石がついている。
リオネル様にぴったりだ。
(とはいえ、この場で買うのもあれよね……。)
どうにかばれずに買いたい。
「何か欲しい物でもあるのか?」
「えっ!?あ、いや……――――」
ペンダントを見つめている私にリオネル様が後ろから声をかけてきた。
商品を無言でじっと見ていたらばれるに決まっているのに私ったら……。
(えぇい!もうっ!!)
「すみません、これください!!」
どうにかばれずに買いたいと思ったけれど、私はロザリオのネックレスを店主に渡した。
その瞬間だった。
「私が払おう、いくらだ、店主。」
まさかのリオネル様が財布を取り出したのだった。
そしてそれを見た瞬間私は――――
「だ、駄目っ!!!!」
自分でも驚くほど大きな声をあげてしまい、リオネル様をはじめ、辺りの人たちから視線を集めてしまったのだった。
「フィ、フィアナ?」
「も、申し訳ありません、突然っ……でも、その、これは――――――私がリオネル様に贈りたいんです!!」
覚悟を決め、私は言葉を紡いだ。
そんな私の言葉にリオネル様は目を大きく見開いて、驚きを見せる。
私が贈り物をしたいと思っているなど、もちろん知らなかったであろうリオネル様。
驚いて私を無言で見つめだした。
(い、今のうちにっ……!)
私を見て固まっているリオネル様を見て今がチャンスと思い支払いを済ませる私。
しかし、支払いを済ませてもなお私を黙って見続けているリオネル様。
私はあたりの人から視線を集めてしまった事もあり、驚きかえるリオネル様の手を取り、その場を離れ、馬車の中へと戻ってきたのだった。
そして――――――
「あ、あの、リオネル様。先ほども言いましたけど、これをその、プレゼントしたくて……。受け取って頂けるでしょうか……?」
固まり続けるリオネル様。
そんなリオネル様に私は恐る恐る問いかけた。
するとリオネル様は無言で私からネックレスの入った袋を受け取ると静かに中身を取り出した。
「……安物だな。」
「っ!!」
(し、しまったわ……公爵家の方だもの。露店で帰るような安い物じゃかえって不快に――――)
自分のとった行動が誤りだったと今になって気づく私。
でも、送ってしまったものは仕方ない。
どうにか不快な気持ちを払しょくしなければ。
「ああああ、あの!すみません!決して安物を送ろうと思っていたのではなくて、何か贈り物がしたくて、それでその、あの――――――」
なんていおうか。
なんて事を考えながら焦って言葉を並べる私はいっそう焦ってうまい言葉が出てこない。
なんといえばリオネル様を不快にさせずに済むだろうか。
そう思っていた時だった。
「ふっ……なんて面白い様だ、フィアナ。」
リオネル様が私を見てとても優しい笑みを浮かべられた。
「……安物をというのは冗談だ。嬉しい物なのだな。自分の事を思い、選んでもらったプレゼントをいただくのは……。大事にしよう。必ず。」
優しく穏やかに笑みを浮かべるリオネル様。
元々ひどくお美しいリオネル様のその笑みはまるで天使の様に美しかった。
私はそんな美しいリオネル様の笑みに見惚れてしまい、
今度は私の方が言葉を失い、黙り込んでしまったのだった。




