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醜い伯爵令嬢は悪魔な少年に恋をする【10月より更新再開】  作者: 皇 鸞(すめらぎ らん)
本編
22/31

リオネルからの提案

「う~ん……どこに行ったのかしら……。」


リオネル様と別荘へと戻り、食事を終えた私はフェリアを探している。


だけどどこにもフェリアの姿は見当たらず、私は途方に暮れていた。


(お願いした物を用意してくれているのかしら?)


フェリアには一つ、お願いをしていた。


それはリオネル様へのプレゼントを買ってきてほしいというものだった。


最近のリオネル様を見る限りもう不要かもしれないけれど、リオと再会した日の非礼を詫びるために贈ると決めた謝罪の品を送りたいと思ったからだ。


……いや、今は謝罪の品というよりは普通に贈り物がしたいという感情なのだけれど。


出来ればこの遠出中に渡したい。


なのにフィアナからはその話題が振られることがないという事はまだ完成していないのだろうか。


「ここにいたのか、フィアナ。」


「っ!!リ、リオネル様!!」


私の背後から歩み寄ってくるリオネル様。


リオネル様は信じられない事に穏やかに笑みを浮かべていた。


不覚にも私はその笑顔に胸を高鳴らせてしまう。


(……ずるい。)


今までと打って変わったリオネル様の態度に戸惑わずになんていられるわけがない。


もう天と地ほどの差に私は戸惑いが隠せなかった。


「……髪がまだ濡れているぞ?」


リオネル様が私の髪をそっと救い上げて静かに言葉を紡ぐ。


なんだか気恥しくなった私はうつむきながら口を開いた。


「……その、フェリアを探していて。」


「……居なくなったのか?あの侍女は。」


「は、はい……。」


「そうか……では今は二人きりという事か。」


「……え?―――――――っ!!」


リオネル様の言葉に驚き顔を上げると、リオネル様は私の長い髪を指で救い上げ、私の髪に口づけをする。


私の髪に口づけながら私を見つめてくる瞳。


その瞳はどこか色っぽくて私の顔は一瞬で熱を帯び始めた。


「……フィアナ。散歩に出かけないか?お前に見せたい場所がある。」


「み……見せたい場所……ですか……?」


「あぁ。」


「…………。」


有無を言わさない力強さ、だけど優し気な感じで私に話しかけてくるリオネル様。


断れない私は静かに頷いた。


そして、リオネル様としばらく夜の森を歩いた。


すると、突然夜の森の中にぼんやりとアカリが見え始めた。


そして――――――


「わぁっ……!」


ぼんやりとしたアカリの近くまで歩み寄ると、そこには光を放つ花々の畑があった。


「私のお気に入りの場所だ。……普段であれば誰にも教えたりしないのだが、一応エリリアナには花を見るといっていたからな。見せるならこれと思っていた。」


「い、いいのですか!?こんな、私にはもったいないっ……!」


「……別に構わん。好きなのだろう?こういうのが。」


そっけない言い方。


だけど明るい花々のおかげで見えるリオネル様の頬がなんとなく赤らんでいる事が解る。


そんなリオネル様を見たらなんてかわいい人なんだと思えてきて笑みがこぼれてくる。


……やはりリオネル様は悪いお人なんかじゃ無いようだ。


「……変な話をするが、構わないか?」


「はい、もちろんです。」


恐る恐る口を開くリオネル様。


そんなリオネル様に明るく返事を返した。


するとリオネル様は照れくさそうに頬をかきはじめ、私から視線を外しながら口を開いた。


「……お前と偽りではなく、正式な婚約者になりたい、と、思わなくもない。」


「…………え?」


「……お前が妻というのも悪くはない、と、思わなくもないという事だ。」


「…………。」


何故だろうか。


私の体はまるで血の気が引いたかのように冷えていくような感覚を覚えた。


(……どうして?どうしてこんな感情を抱くの?)


つまりはだ。


リオネル様は私を大事にしたいといってくれているという事だ。


王座に就くための道具ではなく、家族になってもかまわない。


そういってくれているのだというのに、何故こんな感情を抱くのだろうか。


そんなことを言わないでほしいという嫌悪感を……。


(正式な婚約者になるという事はいずれリオネル様の御世継ぎを私が産まなければいけないという事……それを考えるとどうしてこんなにも……絶望してしまうの……?)


ずっと、リオネル様の子供を作る必要がないと思っていたからこそ気楽な気持ちで居られた。


あくまで契約の関係だと思えた。


でも、今は違う。


リオネル様がどんどん私の目に一人の男性として見えてくる。


本当の、婚約者に。


「……明日、お前の父に面会予定を入れておいた。」


「え……。」


「……お前が了承してくれるのであれば学生の身だが、婚姻の儀を近々行いたいと思う。」


「っ!!」


(ま、まって……!?何で、そんなっ……急すぎるわ!!)


何に焦っているのか、信じられないほど急すぎる話だ。


それこそ、私は卒業してから結婚だと思っていた。


もしくはお父様が完全によくなって、その恩に報いるために私の人生をささげるのだとばかり思っていた。


……なのに、なのに――――――


(いくら何でも心の準備だって――――――)


「騙すようなことをしたくないから先に言っておくが、婚姻の儀を終えた日、私はお前を抱く。」


「っ!!」


「自虐精神が強いのが少し問題だが、家庭を任せるには悪くない相手と思っている。……いつかお前の火傷だって、私が治すと約束しよう。醜いと自身を卑下せずに済むように。」


リオネル様は私の髪の上から私のやけどの跡がある方の頬を撫でる。


きっとリオネル様は真面目だから約束を交わしたら交わしたでいつか必ず果たしてくれるのだろう。


……でも、だからと言ってあまりに急すぎる。


「……リオネル様は一体どうなさったのですか……?ここ数日でまるでお人が変わられたよう。また変わられるのではないかと……正直思います。」


「……腹立たしいことにあの生意気な一年の影響だ。」


「え……。」


(どうしてそこでリオが……?)


思いがけない発言に私は驚かずにはいられない。


リオネル様はリオの事を口にしたせいか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべられている。


いっそう、意味がよくわからない。


「私はその、嫌いなのだ。嘘で塗り固められた表情が。」


「え……。」


「……私の周りの者たちは皆そうだ。本心から浮かべる表情でなく、私の家を恐れ、怒りを買わない様に偽りの仮面をかぶり私と接する。幼いころからそれを見続けてきた私はその表情をひどく忌んでいる。……だからお前の人形のような感情のない表情を見る度イラついていたのだ。」


(……知らなかったわ、そんな事……。)


いや、もしかしたら知らなくて当然だったのかもしれない。


婚約が決まった日から私はあくまで彼と契約関係と思っていた。


取引先。


それ以外を思う事はなかった。


だからこそかもしれない。


深く知ろうと歩み寄ってこなかったのだ。


……知る事が出来ていないのも無理はない話だ。


「だが、あの一年が入学してきて、お前は感情のままに表情を出すようになった。……変わったのは私だけじゃない。お前もだ。」


「わ、私も…………変わった……?」


思いもしない言葉をかけられて私は驚いた。


まさか自分が変わっていたなんて、気づきもしなかった。


「昔のお前は気味が悪いが、最近のお前を見ていると生涯寄り添ってもまぁ構わんかと思えるようになってきた。……いや、というよりあれだな。人間らしいお前を見ているとひどく当たりたくはなくなったというのだろうか……。イラつかないどころか、壊れそうで大事にしてやりたいと思うようになったというかだな……。」


(……大事にしたい……。まさかリオネル様からそんな言葉を聞く日が来るなんて。)


恥じらいながら言葉を紡いでいくリオネル様。


そんなリオネル様に私は驚きを隠せず、口をはしたなくもぽかーんと開けてしまっていた。


……私は夢でも見ているのだろうか。


こんなリオネル様、初めてだ。


(……でも、よく考えたらまだ出会って数か月なのよね?)


知り尽くせていなくたって仕方がない。


むしろこれからなのだ。


私とリオネル様がお互いを知り、寄り添っていくのは。


(……ちょうど、良いのかもしれない。)


気持ちの整理はつかないし、正直心の奥にはリオだけの所有物で居たい気持ちがある。


でも、私は決意したんだ。


(リオを忘れる……そう決めたでしょ?私。)


もう、リオへの恋心を捨てると。


「……それともお前はやはり、あの一年がいいのか?」


「…………。」


人の偽りで固めた表情が解る程鋭い観察眼を持つリオネル様には流石という言葉しか出てこない。


……私が今、リオの事を思い浮かべていた事すらお見通しなのだろう。


だったら、正直に話したほうがいいのかもしれない。


「……私はリオが好きです。」


「…………そうか。」


「…………でも、もうリオの事は良いんです。」


「……どういうことだ?」


気を落としたような言葉をこぼしたリオネル様がその後に続けた私の言葉で気を取り戻したように問いかけてくる。


きょとんとされているリオネル様に私はにっこり微笑みかけ、リオネル様の手を握った。


「……忘れるって決めたんです。……傍に居たいと思うのにいてはいけないと思う私がいます。忘れたいのに忘れられない私がいたりだってします。でも、忘れなければいけない気がするんです。だから……」


すぐに忘れるだなんて事はきっと無理だ。


それでも、こうして私と手を取り合ってくださるリオネル様を大切にしたい。


そう思う。


だから――――――


「……フィアナ。どうか、改めて言わせてくれ。私と、婚約してくれ。」


私の顔を見つめ、真剣なまなざしで語り掛けてくるリオネル様。


私は複雑な気持ちを抱きながらもリオネル様に頷いて見せた。


そして――――――


「喜んで。」


リオを忘れる為、私は一歩を踏み出したのだった。

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