リオネルと過ごす時間②
「いやぁ!お嬢ちゃんは別嬪さんだからおまけしちゃおうかな!ほら、これも持ってった持ってった!」
「あ、ありがとうございますっ……!」
リオネル様と街に繰り出し、露店を回っていると明るい男性が私におまけだといってカコの実がたくさん使われたサンドウィッチと別にフルーツがたくさん使われたサンドウィッチも渡してくれる。
生まれて初めて受ける扱いに戸惑いながら受け取るとリオネル様が隣で笑いをこぼしていた。
「別嬪などといわれたのは初めてか?」
「は、はじめてに決まっています……。」
綺麗な笑顔で穏やかに笑うリオネル様。
そんなリオネル様を見ていると気恥しくなってきて私は頬を膨らませてしまう。
「いやぁ、お嬢ちゃんもだが、兄ちゃん、あんたもひどく綺麗な人だよ!あんたら二人、お似合いの恋人だねぇ。かぁ~羨ましい!」
「っ!!」
(こ、恋人っ!?)
はたから見たらそう見えるのだろうか。
しかし、店主のその発言はまずい。
リオネル様は本来私との婚約を煩わしいとまで思っていらっしゃる方だ。
もしかすると店主の発言にお怒りになっているかもしれない。
そう思いリオネル様へと向き直った、その瞬間だった。
「ふっ……そう見えますか?」
(……え?)
何故か楽しそうに笑うリオネル様。
でもそれは演技なんかじゃない。
きっと、心の底からの笑みだとなんとなくわかった。
(……どうして……?)
確かにリオネル様は私を人として扱ってくれるようになった。
でも、それがあったとしてもリオネル様は私を元々嫌ってたほどの方で、仮に私に対する感情が普通にまでなっていたとしても、恋人といわれて喜ぶことは理解ができない。
(……どうしましょう。最近のリオネル様は理解できないわ。)
人として見てくれていなかった時の方が解りやすかった。
嫌というほどストレートな嫌悪感と分かりやすい反応。
だけど、今はそうじゃない。
何を考えているのかと考えなければ理解できない。
というか、考えても理解できない。
だから、なんだかなれなくて……
だけど、それは決して嫌なわけじゃない。
ただ、ひどく戸惑ってしまう。
どういう発言、行動が正解なのだろう。
それが解らない。
でも、だからだろうか。
解らないからこそ、ドキドキさせられるけれど、傍にいて楽しいと思えるのは。
「フィアナ。どこかに腰を下ろして食べようか。」
「は、はい!」
リオネル様は柔らかく笑い、私に腕を差し出してくれる。
そんなリオネル様を見ていると本当に機嫌がよさそうに見える。
なんだか雰囲気が柔らかすぎるリオネル様が珍しくて、私は少し気恥しさを覚えながらリオネル様の腕に手を置いた。
本当にリオネル様の私への態度は変わられた。
……それを嬉しいと感じるのは勿論だ。
だけどその代わり様は何故か少しだけ私の心を不安にさせる。
まるで、嵐の前触れかの様な平穏さ。
そう感じてしまう自分がいた。
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カコの実のサンドウィッチを食べ、リオネル様の為に海鮮が売っている露店へも行った。
私とリオネル様のお出かけはほぼ食べ歩きという無いようだ。
時折アクセサリーなど、工芸品も立ち止まり見てはいるのだけれど、基本的に本当に見ているだけ。
欲しいと思えるものは売っていないため、ある意味冷やかしになっていた。
「お前は着飾るという事に興味はないのか?」
「え……。」
「……先程からどの飾りにも突出して興味を示していないではないか。」
「あ、あはは……そうですね。どれも自分がつけている姿は想像できないというか……。誰、とはわからないんですけど、自分ではない誰かに似合いそうだなぁんて思いながら見ていました。」
思い浮かぶようで思い浮かばない、靄のかかったかのようにぼぉっと心に誰かを思い、飾りを付けた姿を想像する。
誰とはわからないのに不思議と似合うとか似合わないとか感じてしまう。
ちょっと不思議な事を体験中だった。
(長い金髪に碧眼。目つきは鋭く、性格は凛々しい。……それだけは解るんだけど……。)
フェリアかな?と思わなくもないけれど、多分その相手はフェリアではない。
だとしたら私は誰に似合うと思い見ていたのだろう。
(お母様……とか……?)
目の色までは覚えていないけれど、お母様は金髪だった。
いつも背筋がピンとしていて、目つきだって鋭かった気がする。
……心に浮かんでいる相手はお母様なのだろうか。
「……不思議と俺もわからん。お前に似合いそうなものが。隣にいるというのに不思議だな。」
「そういうものなのではないのでしょうか。だって、私たちはあくまで契約の関係。愛だなんてものは私たちの間に存在しませんし、それに何より、今までお互いに無関心でしたから。向き合い始めて数日。理解し合っているほうが難しいと思います。でも……――――」
近くの露店に赤いバラを売っている花屋があり、私は立ち止まる。
「すみません、これ、一本下さい。あ、包装は大丈夫です。」
「はいよ。赤バラね。」
店主に赤いバラを花瓶から一本抜きとってもらい、そのまま手渡してもらう。
そして、それをリオネル様の襟元に刺した。
「お、おい、一体何を――――――」
「……やっぱり、リオネル様は情熱的な赤バラがお似合いになられますね。」
「なっ!!……は、恥ずかしい奴め。」
私の言葉にリオネル様は顔を赤らめられる。
そして、私から気恥しそうに視線を外された。
そんなリオネル様がどこかお可愛らしく、私は小さく笑う。
何故かひどく、懐かしい気持ちになりながら。
「……お、お前は何か好きなものなどはないのか?」
「え……。」
「こ、このバラの礼はしてやるといっている!……言ってみろ。」
「お、お礼なんてっ……。でも、好きなものは情報としてお伝えしておいた方がいいですよね……。」
食堂の時と同じでいきなり好きなものといわれても簡単にはぴんと来ない。
辺りを見回して何かないかとみてみると、花屋の隣の露店のガラス細工の店にある物が目に入る。
「……しいて言うなら花や物ではないですが蝶や森などに棲む小動物……でしょうか……。」
「……何だ、その好みは。」
「すみません、こんなのしか思いつかないんです。……さぁ、リオネル様。そろそろ参りましょう?もう日も傾いてきましたし、ここでじっとしていては時間がもったいないです。」
「……そうだな。」
望んだ答えを得れなかったからか、少しだけ表情が晴れないリオネル様。
だけど、私の言葉に耳を傾けてくださり、一緒に歩き出してくれる。
(……お礼なんて必要ない。真にお礼が必要だったのは私の方だったのだから。)
リオとの事があって傷ついていた私の心を軽くしてくれたのはリオネル様だ。
今まで出来るだけ接したくなかった相手だというのに、私の心の中では早くもその感情は消えつつあった。
それどころか、こうして隣を歩くことを心地いいとすら感じられるのが現状だ。
……不思議な感覚だ。
だけど、ここ数日良く思う。
(リオネル様の隣が……とても落ち着く……。)
今までとは真逆の感情。
だけど、この感情を知ってから思うのは何とも不思議な感覚だ。
まるでそれこそ、今までの私たちこそ喧嘩でもしていたかのような偽りの関係で、今のこの心和やかにともに歩ける姿こそ真の姿なのではないかと感じてしまうのだ。
でも、だけど――――――
(……本当、不意に貴方が頭の中にちらつくのは何故なの?リオ……。)
忘れよう。
リオへの気持ちとはしっかりとけりをつけよう。
そう決意したはずなのに思えば思うほどまるで心がそれを拒むようにリオの存在が私の中で大きく膨れ上がっていく。
(……本当は貴方ともこうやって街を回ってみたかったわ……リオ……。)
口にしてはいけない。
思ってもいけない。
解っているけれど私の心はその感情を捨てきれないまま、リオネル様と帰路へとついたのだった。




