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醜い伯爵令嬢は悪魔な少年に恋をする【10月より更新再開】  作者: 皇 鸞(すめらぎ らん)
本編
20/31

リオネルと過ごす時間

「あ、あの……リオネル様?」


「なんだ。」


「そ、その……少し、離れてくださいませんか?」


リオネル様の部屋で紅茶をいれる私に背後からリオネル様の大きな体で私を覆うかのような体勢を取られていた。


ロマンス小説などでよく見る【壁ドン】と言う奴なのかもしれない。


……私はリオネル様に背を向けているけれど。


「退屈極まりないからな。お前の手際でも見ていようと思っただけだ。駄目なのか?」


「だだ、駄目ってわけではありませんが……。」


リオネル様の体がひどく私と近い距離にある。


それが落ち着かない。


というか、普通に邪魔だ。


(なんて不敬な事を思うのはここ数日、ずっと同じような態度を取られているからかしら。)


気づけば今は金曜日の夜。


明日からリオネル様と泊りでお出かけの予定の日だ。


ここ数日、リオネル様の態度があまりにも好意的すぎて少し怖いほどだ。


「……ところで、あの一年とはここ数日、あっているのか?」


「…………いえ、会っていませんよ?それに多分……――――」


(もう、会う事はない……。)


最後に会った時、まるで私なんか目に入らなかったかのようなそっけないリオの顔。


その顔を今でも私は忘れられない。


きっと、会えばまた同じことの繰り返しだ。


もう、会いたくはない。


「……やはり腹の立つ男だ。」


「え……?」


「いや、なんでもない。今日も泊まっていくのだろう?茶を飲んだら先に風呂に入るといい。」


「あ、ありがとうございます。」


私に背を向け、テーブルのある場所へと歩いていくリオネル様。


……何か聞こえた気がしたけれど、気のせい、だったのだろうか……。


「…………明日も早いし、早めに寝支度は終わらせなきゃね。」


私は用意ができたお茶をリオネル様と楽しむとすぐに湯をいただき、そのままあの日、共にワインを飲んだ日と同じように同じ寝台で眠りについた。


……そんな日がもう数日続いていた。


おそらくそんな心配はいらないだろうけれど、部屋に戻るとまたリオが私の部屋に来ていて遭遇してしまうかもしれない。


万に一つくらいはあるであろうその可能性を恐れ、私はリオを徹底的に避けるためにリオネル様の部屋にお世話になっていた。


顔を合わせることがひどく怖いから……。


(……リオ。)


最後に見たリオの姿が目の奥に浮かぶ。


きっと嫌われてしまったに違いない。


もう、嫌味すら言ってもらえないに違いない。


話しかけてすらもらえないに違いない。


……思い返しても胸が苦しくなるだけなのに何故かふとした瞬間私の頭の中を占めているのはリオの事ばかりだった。


(再会しなければリオとの思い出は綺麗な思い出のままだったのに……。)


私は胸元の布をぎゅっと握る。


リオのどこが好きかなんて今でも説明できない。


でも、私はリオを本当に思っていたのだと実感する。


いや、今も変わらず未練がましく思ってしまうほど、好きでたまらない。


私はどうしてこんなにもリオが好きで仕方ないのだろう……----。





「……おい、フィアナ。お前、本当に街へ行く気はないのか?」


休日、リオネル様の領地にある森へやってきて半日。


森の観光が終わり、次は何をしようとリオネル様の別荘のテラスにてお茶をしながら話していると突然問いかけられた。


「この近くの街は活気があり楽しめると思うぞ?」


出かけるならにぎやかなところは避けたいという私の思いを覚えていてくれたようだ。


けれどそのうえでやはり街はおすすめで行きたいということなのだろう。


正直なところ私だって行ってみたくないわけではない。


けれど――――――


「私、人前に出るのは苦手なので……。」


この顔の事があるからどうしても注目される。


だから、街に出るのが怖いというのが一番強い思いだ。


「お嬢様、これも良い機会です。町へと出かけられてみては?」


「フェ、フェリア……。」


私ににっこりと笑いかけ、提案してくれるのは親友のフェリア。


二人きりなんて言っていたにもかかわらず、驚くことにリオネル様はフェリアにも声をかけてくれていたのだ。


私の気が少しでも楽になるようにと誘ってくれたらしい。


そんな感じで招待の手紙をもらったフェリアは何だかんだ出せていなかった私の手紙を読むまでもなく、リオネル様への考えを変えていた。


すこしだけは信頼を置いているようにうかがえるのだ。


「ふむ、飾りが目立つというのであればそれを取ればいいではないか。お前の長い前髪で隠せるだろう。」


「か、風が吹いたりでもしたら大変です。」


「ふん、その際はこの俺がどうにかしてやろう。……フェリア。主の引きこもりを治したくばすぐに用意をさせろ。俺も俺で用意をしてくる。」


「はい、かしこまりました。」


フェリアに言葉を投げ捨てるとリオネル様は邸の中へと入っていかれてしまう。


先程は一応意見を聞いてくれていた風に見えたがやはり私の意見は関係ないと言いたげなほど勝手に決められてしまったお出かけ。


「ど、どうしましょう、フェリアっ……!!」


焦らずにはいられない。


「ふふっ、どうもしませんよ、フィアナ様。動きやすいけれど可愛く、素敵な感じに着飾りましょうね。」


「フェ、フェリアっ!?」


フェリアは嬉しそうな笑みを私に向けるとリオネル様が私に与えてくださった部屋に無理やり私を連れてくる。


だけど、飾りはどうしても目立つから飾りをして街へ行くのは嫌だけれど、飾りを外していつ表情がばれるかわからない状況でのお出かけなんてさらに嫌だ。


「大丈夫です、フィアナ様。フィアナ様への愛にかけて、私は火傷痕が見えぬように髪を結わせていただきます。」


にっこりと優しい温かなフェリアの笑顔。


正直、賛成なんてできるはずがない。


出来るはずがないのだけれど――――――


「絶対、だからね……?」


数日ぶりの私のお世話が嬉しいのか、目を輝かせるフェリアを見て私は断る気力を失ってしまう。


後はフィアナがいざという時の為に持ってきていた動きやすい服に袖を通し、髪をセットしてもらう事となったのだった。


「――――にしても、大変驚きました。リオネル様がいきなりあんなお優しくなっているとは。今までまるで汚物でも見るかのようにフィアナ様をご覧になられていたまなざしが今じゃあんな色恋――――じゃなかった、妹でも見るかのような瞳になっていらっしゃるとは。」


「妹?私は同じ歳よ?」


「例えでございます。」


(確かにリオネル様は落ち着いてらっしゃるし、大人に見えるけど……。)


私、そんなに幼く見えるだろうか。


「生まれ変わってまでとは全く腹の立つ。」


「え……?」


気のせいだろうか?


今一瞬、ひどく低い声でフェリアが何かをつぶやいた気がする。


「あぁいえ、まるで生まれ変わられたかのようだなぁと。別人の様で驚きました。」


「そうよね、そうよね!……私、ずっとリオネル様の事が怖かったけれど、少しだけリオネル様と親しくなりたいって思うようになったのよ?」


「は?」


私の髪を結っていたフェリア。


そんなフェリアに私は髪を結ってもらうため背中を向けて座っていたわけだけれど、そんな私の背後からなんだか金属が壊れたかのような音が聞こえてきた。


「フェ……フェリア……?」


音が怖くて振り返りもできない私は気のせいであることを祈ってフェリアに声をかけてみる。


すると、フェリアは予想外な明るい声で返答してきた。


「ふふ、申し訳ありません。壊れかけていたピンが取り付けようとしている最中壊れてしまいました。」


「え?あ、そ、そう……。」


「ふふふ……はい。」


不自然な笑いが背後から聞こえる。


正直、怖い笑い声だ。


(そ、そっとしておきましょう。きっとその方がいいわ……。)


下手に何かを問いかけるのがさらに怖い。


こういう時は関わらないのが一番だろう。


……恐らく。


「ところでフィアナ様?ここ最近何か変わられたことはありませんでした?リオネル様の心情の変化以外に。」


「え……?」


「例えばですが、リオネル様以外に執拗にフィアナ様に接触する者がいた……とか。」


「っ!!」


「……その反応。いらっしゃったんですね。」


真剣な、それもどこか不機嫌そうに問いかけてくるフェリア。


その真意は解らない。


でもどうしてそんな反応をするのだろうか。


「わ……私に友達ができたら貴方は面白くないの?」


少し嫌な言い方かもしれない。


だけど、そんな反応をされたような気がする。


……接触。


その表現の仕方が私と新しく関係を持つ人間を歓迎していない事を感じさせるのだ。


「……接触してきたのはフィアナ様が大事にされていた指輪の持ち主ですね?」


「っ!!!ど、どうしてそれをっ!?」


学校についてきていないはずの、リオにあった事のないはずのフェリアがリオの存在を言い当てた事にひどく驚く。


というか、そもそもリオの指輪の話をフェリアにしたことがないのに、どうして指輪の事を知っているのだろうか。


「フェリア……貴方は、一体――――――」


「……なんとなく、です。明らかにお嬢様の趣味ではなさそうな指輪でしたが、大事そうに持たれていたので。それと、私も昔、実を言えば魔法を習っていたことがあるんです。」


「え……貴方が……?」


魔法を習っていたなんて初耳だ。


というより、フェリアから魔法についての話題を初めて聞いた。


使っているところを見た事がないところを見ると、あまり魔法を好んではいないのかもしれない。


「指輪と同じ魔力の波長をフィアナ様から感じたので、まさかと思いお聞きしました。……フィアナ様。【普通】のご友人ができたというのであれば何も反対しません。ですが、その者とだけはどうか、お近づきにならないでください。」


「え……そ、それはどうして……?」


「……勘でございます。女の勘。きっとそのものと居れば貴方様は不幸になります。魔法の学持ちの勘は意外と当たるのです。……私は貴方様の幸せをずっと願い続けてきました。ですからどうか、そんな私を信じてくださいませ。」


「…………。」


私の髪に飾りをつけるフェリア。


もういつも通り穏やかな声でフェリアは話す。


だけど、そんなフェリアと違い私は穏やかな気持ちにはなれない。


(……もう、自分で近づく気はない。無いけれど……――――)


どうしてそんな風に言われなければならないのだろう。


そんな事を考えてしまう。


(もともと、交わってはいけない運命だった……みたいなものかしら。)


そんな事を考えているととたんに胸の奥が苦しくなった。


なんだかわからないけれど悲しくて、切なくて、やりきれない気持ちが溢れてくる。


だけど……――――


「わかったわ、フェリア。というより心配しないで?もとよりもう、彼には近づかないつもりだから。」


「……そうなんですか?何があったかはわかりませんが、とりあえずその言葉にフェリアは安心しました。」


髪に飾りをつけ終わったフェリアの方へと向き直り、そう伝えるとひどく嬉しそうにフェリア笑った。


そんなフェリアを見ながら私も笑みを浮かべる。


心からの笑みではなく、精一杯作り上げたつくり笑顔を。


「さぁ、リオネル様がきっと御待ちだわ。急いでいかないと。」


「そうですね、フィアナ様!」


私の言葉を聞いてフェリアは急ぎ扉へと駆けより、扉を開けた。


そして開いた扉をくぐり抜け、私はリオネル様の元へと急ぎ向かったのだった。

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