とある天人族と魔族の物語
「ん……んん……?」
辺りが暗い闇に包まれている中、大きな寝台で眠っていたディオス。
そんなディオスの瞼がゆっくりと開く。
すると、誰もいないはずの部屋に綺麗な赤い瞳を光らせた青年がすぐそばでディオスの顔をなでいた。
「……リオ……また君は……こんな所に来て……。」
まだ眠たいのかかすれた声で言葉を紡ぐディオス。
ディオスは自信を見下ろしながら自身の頬を撫でるリオの頬を撫でた。
「ねぇ……俺の為に起きてよ、ディオス……。退屈なんだけど。」
リオは柔らかな声でそうディオスにつぶやくとディオスの唇に自身の唇を重ねた。
しばらくお互いの唇を重ね合う二人。
やがてリオが唇を離すとディオスはゆっくりと体をもちあげた。
「君は本当に我がままだね……。でも、そこがとても可愛いよ……リオ……。」
ディオスはリオの髪を綺麗な長い指でかき上げ、耳にかける。
そして今度はディオスの方からリオに口づけをした。
だけど、それは唇ではなく頬だった。
「……何でそこなわけ?するなら唇にしてよ。」
「はは、ごめんね?……たくさんキスをしすぎたら君が消えてしまうような……そんな気がしてきてね。」
「はぁ!?何バカなこと言ってるわけ?いなくなる訳ないでしょ。俺はあんたのモノだよ、永遠に。」
そういうとリオはディオスの胸に自身の体重を預けた。
体格の差はかなりあり、身長の高いディオスに小柄なリオ。
その差はまるで大人と子供のようだ。
「……好きだよ、ディオス。あんたも俺だけのモノだよね?」
「あぁ……勿論だよ、リオ。」
「……俺の事、ちゃんと好き?」
「勿論。」
静かな夜に合わせて静かにゆっくりと話す二人。
ディオスはリオの髪をなでながら父親のようにリオを愛しげに見つめる。
だけど、そんなディオスとは反対にリオは不服そうな顔をしていた。
「……また好きって言ってくれないんだ。」
「…………。」
すねたようなリオの声にディオスは困った顔で笑う。
そんなディオスはリオの顎を持ち上げ、今度はディオスの方からリオの唇に口づけをした。
「リオ……何して遊ぼうか。」
「……抱きたい、ディオスを。」
リオはディオスの長い髪をすくい上げてキスをする。
見た目はひどく若く、人間でいうと16歳くらいの見た目のリオ。
だけどその瞳はひどく妖艶で、不思議な魅力を感じさせる。
勿論、その魅力に捕らわれているリオはそのままディオスの願いを聞き入れ、恋人として言葉ではなく、身体で愛を確かめ合う。
リオはディオスの首元に顔をうずめ、ディオスの白い首筋を啄みだした。
「リ……リオ……少し待って……首は……んっ……駄目だ……誰かに痕でも見られたらっ……。」
恥ずかしそうにリオを止めようとするディオス。
けれどどんなディオスの言葉にリオは耳を貸す様子はない。
「ディオスが悪い。あんたのすべてが俺の欲望を刺激するんだから黙って俺に愛されててよ。――――ディオス……愛してる。」
リオは静かにディオスを押し倒し、愛をささやくとまたもディオスの唇に口づけをした。
「…………ありがとう……リオ……。」
唇が離れた瞬間、ディオスは柔らかな笑みを浮かべながらリオの頬をその大きな手でなでながらお礼を言った。
そんなディオスの言葉を聞いてリオの表情は曇りを見せた。
決して口にしてもらえない喉から手が出るほど欲しい言葉。
【愛している】。
それは何度も恋人として身体を重ねていても一度も聞いたことのない言葉。
聞きたくてたまらないのに言ってもらえないことに切なくなったのだ。
意地の悪いことにリオがその言葉を求めている事をディオスは知っていた。
だけど、ディオスは決して口にしない。
(……言ってよ、ディオス。何でいってくれないわけ?……いや、本当は俺だってわかってるよ。俺たちは魔族と天人族。本来は穏やかな言葉すら交わし合う事は許されない。なのに、俺たちは……)
許されないとわかっていながらも惹かれ合い、恋に落ちた。
ひどくまじめなディオスが体を許しているという事にリオはちゃんと愛は感じていた。
だけど、それでもディオスの口からきいてみたいのだ。
リオへの愛の言葉を。
(……解ってる。俺たちが男同士だからか、種族が違うからか、許されない関係だからディオスは決して愛の言葉を口になんてしてくれない。……いつだって俺に同調するだけだ。)
リオは悔しさがこみあげてくる。
誰かが決めたルールを壊すことのできない無力な自分に苛立ちすら覚えていた。
(――――――逃げたい……ディオスと誰もいない、俺たちを縛るもののない、誰の目も気にならないところに。…………もし、もし俺たちが敵対している種族じゃなくて、その上、異性であったら……変にまじめで頑固なあんたは言ってくれたのかな……。俺に、愛してるって。)
リオは知っていたのだ。
自身の事を愛しそうに撫でてくれるディオスの大きく温かな手。
だけどいつもどこかには罪悪感があるという事を。
いけない事をしているという考えがある事を。
だから決して、ディオスの方からはリオにキス以上に恋人らしく触れることはなかった。