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醜い伯爵令嬢は悪魔な少年に恋をする【10月より更新再開】  作者: 皇 鸞(すめらぎ らん)
本編
17/31

変わり始める感情

「おい、おい!!起きろ、フィアナ!!」


「んっ……。」


大きな声が聞こえ、重たい瞼を持ち上げる。


瞼を持ち上げた瞬間、明るい光が私の世界を照らしていた。


「全く、いい加減起きろ!今何時だと思っている。」


「も、申し訳ありません……。」


まだ意識がはっきりしない。


……というか、こんなことがなんだか前にもあった事がある気がする。


(……いつだったかしら。う~ん……。)


思い出そうにも思い出せない。


というか、あったとしても絶対相手はリオネル様ではない気がする。


……そもそも、起き抜けリオネル様の顔を見るのは今日が初めてだ。


(でも、何故かしら。リオネル様の怒鳴り声は苦手だけれど、あんまり今のは嫌じゃなかったわ……。)


なんだか今朝の私はすこし、おかしいのかもしれない。


まだ夢の中にいるような、そんな感じだ。


「おい!しっかり起きろ!もう7時だぞ!!」


「も……申し訳ありません……なんだかこう……意識がふわふわしてまして……。」


「二日酔いか?はっ……だらしのない。」


(一杯分も飲まずに酔い始めた人に言われたくない……。)


なんて思うものの言い返す元気もなく、私は力なくベッドに倒れこむ。


もう一度寝たい。


「おい、寝るな!おい、おい!!!!」


私に声をかけるリオネル様の声がどんどん遠くなる。


私はそのまま再び意識を闇の中に落としてしまったのだった。




「あ、あの、本当に申し訳ありません。」


「ふん、もう良い。周りはいいように勘違いしてくれたみたいだからな。」


「は、はぁ……。」


私が二度寝して起きなかったせいで一限目の授業を二人してさぼる事になってしまった。


そして、二限目の授業からはしっかりと参加していたのだけれど、一限目の終わり、二人して登校してきているのが何人もの生徒に見られ、昨夜は絶対お楽しみだったとか噂されている。


そんな訳で、いつものご友人と食事をとってはいろいろ詮索されそうで面倒だという理由で私は昼休みである今、リオネル様に連れられて人目のない場所で静かに昼食をとることになったのだった。


「特にエリリアナ、あいつの顔はお前にも見せてやりたかったくらいだ。三限目の魔法応用学の授業中、ずっと悲痛そうな顔で俺を見ていたぞ。」


「は、はぁ……。」


エリリアナ様の恋心を知っているからか、実に笑えない話だ。


とはいえ、私たちは別に何もしていないのだけれど……。


(……でも、エリリアナ様は噂を聞いてきっといろいろ想像してしまったに違いないわ。……私がリオとあの女子生徒の仲が気になったように。)


それこそ、私ならまだあきらめがつくというものだ。


この醜い顔だ。


誰も本気で愛してくれるはずが無いと。


だけどエリリアナ様は違う。


お美しいし、リオネル様に見合う地位だってお持ちの方だ。


……私の顔が陛下の亡きご息女様に似ていなければ……。


「……思いつめた顔をしているな。」


「え……。」


「何を考えている。退屈をしていたところだし聞いてやらなくもないぞ?」


「……い、いえ、その……私の顔が陛下の亡きご息女様に似ていなければ、エリリアナ様がリオネル様のご婚約者でもおかしくなかったのかと……そんな事を……。」


「はっ!冗談をいうな!!死んでもあんな女は御免だ!女くさい女など吐き気がする。」


忌々し気に顔を歪められるリオネル様。


その表情から本気でエリリアナ様を嫌悪していらっしゃるのが見てわかる。


……でも、その表情は今まで私に向けられていたどの表情とも似て異なるものだった。


「……意外です。リオネル様は女性らしい方を好まれていると勝手に思っていました。」


「実に勝手な話だな。」


「では、どのような方がご好みなのですか?」


「……は?」


私の何気ない質問に対し、低い声が返ってくる。


これは怒らせてしまったのかもしれない。


私はすぐ様に頭を下げた。


「も、申し訳ありません。変な事を聞いてしまって。」


「あ、あぁ……いや、怒っているわけではない。……意外だと、思ったのだ。」


「え……?」


「……お前が俺の事を聞いてきたのは……恐らく、初めてだからな。」


「…………。」


初めて。


そういわれて今までの事を思い返してみる。


確かに今まで、私はリオネル様の怒りを買わないよう、不要な発言などはしないように心掛けていた。


だから会話だっていつだって早く切り上げたくて、自分から会話を広げるようなことはしなかった。


……なのに、私は……――――


「……フィアナ。週末の話だが、やはり二人で出かけないか?」


「え……。」


「い、嫌なら構わん。……お前が俺を怖がっている事は知っているつもりだ。だが、俺たちは互いに互いを知らぬが故に距離の測り方を間違えているような、そんな気がするのだ。……互いを知れば俺たちは……親しくなれるかもしれん……。」


私から視線を外し、口ごもりながらほんのりと顔を赤らめつつ話すリオネル様。


……何だろう。


そんな表情を見ていると私の胸がとても温かくなってきた。


「……あの、でしたら一つだけ我がままを聞いていただけませんか?」


「……お前からそんな言葉を聞くのは初めてだな。良いだろう。言ってみろ。」


「痛いのと苦しいのだけは遠慮願いたいです。」


真剣に、という訳ではなく、冗談交じりのように小さく笑いながら話して見せる。


真剣に懇願でもされたら気分が悪くなりそうな気がする。


だから少し冗談交じりで話してみると、それは成功だったのかリオネル様は恥ずかしそうに頬をかき始めた。


「わ、解っている。お前もちゃんと人間だとわかったしな……。」


思い当たる行動がいろいろあるからか、ばつが悪そうなそんな感じのリオネル様。


そんなリオネル様を見ていると不思議と私から小さな笑みがこぼれた。


大人っぽく、ひどく堂々として、毅然とした態度ばかりのリオネル様ばかり見てきたからだろうか。


冷たい人にしか見えないような言動や態度を見てきたからだろうか。


どこか子供っぽいリオネル様を見て私はひどく温かな気持ちになった。


「そ、そうと決まればあの一年には絶対に声をかけるなよ?出かける事も隠して置け。……よくわからんがあいつはそういう事に鋭い気がする。」


「はい、リオネル様。」


「……それとだ。食事をとったら少しばかし眠くなってきた。だから、だな……。」


「ふふっ、リオネル様が不快でないのであれば私の膝などいくらでもお貸ししますよ。」


「……は、話が早くて助かる。」


顔を赤らめながら私の脚に頭を乗せるリオネル様。


慣れない事をしているからか、ひどく顔を赤らめながら問いかけてくる姿がとても可愛らしくてまた温かな気持ちになってしまう。


そしてリオネル様は私の膝枕ですぐに眠りについたのだった。


そしてその次の瞬間、私は昨日のことを思い出してしまう。


(そういえばリオに俺専用って言われたばかりだったわ……。)


だけどそんなことはもう気にしても仕方ないのかもしれない。


私はリオを怒らせたし、きっとリオの膝だって私専用じゃない。


(リオのことを考えるのはもうやめましょう……。)


私は失恋した。


はっきりリオから伝えられたわけじゃないけど、そう思うことにしたのだ。


そう考えると幾分気持ちは楽な気がした。


諦められる、と。


(……にしても今日は少し風が冷たいわね。)


季節はまだ春先。


風邪はまだ冷たい。


リオネル様が風邪をひかれては大変だと思い、私は上着を脱ぎ、リオネル様の体にそっとかける。


女性もので短くて申し訳ないが、ないよりはましだろう。


(それにしても驚いたわ。リオネル様が女性らしい人が御苦手だなんて……。)


となれば、いずれ作るといっていた外での恋人はそれこそ探すのこそ困難かもしれない。


女性らしくない女性。


それはきっと、リオネル様のように堂々としていて、凛々しくて、逞しい……だけど美しい人なのだろうと、想像せずにはいられない。


きっと、私の大切な親友。


フェリアの様な……そんな人なのかもしれない……。


(フェリアは本当に素敵な女性だものね……。)


ひどく美しいのに時々男性かとすら思ってしまうそんな猛々しさを感じる事が多かったフェリア。


離れてまだ数日だというのになんだかとても長くはなれているような気がしてきてしまう。


(手紙、なんだかんだでかけていなかったけれど、ちゃんと送りましょう。私は大丈夫だという事。そして……リオネル様が急にとてもお優しくなったことも。)


新学期が始まってからここ数日で本当にリオネル様はまるで別人かのように私を見る目が柔らかくなった。


私への扱いだって……。


あんなにリオネル様に怯えていたことが嘘のようだ。


(今の私ならきっと、リオがいなくたってリオネル様と生きていける気がする。……忘れてしまおう。リオが好きだったことなんて。)


辛いだけの想いは抱き続けていたって苦しいだけだ。


なんとなくだけれど、リオネル様はこの先、お父様やフェリアのように私の味方になってくれるような気がする。


リオネル様に傷つけられた言葉や暴力を忘れたわけじゃない。


だけど、そんなのがどうでもよくなるくらい私は今、普通に人間扱いをしてもらえている。


いつまでも過去の事ばかりを考えるより、今を、前の事を考えなければ。


(……だけど、必要以上にリオネル様を好きなってはいけない。もし、リオの様に好きになってしまったら……。)


いつかリオネル様は外で愛する人を見つけ、その人と子を成すと既に分かっている。


……なら、つらい思いだけはしたくない。


「……誰も、愛すことなんてできない、心を持たない人形でいれたらよかったのに……。」


期待なんてしない。


希望なんて持たない。


心だってありはしない。


他人の望むままに存在し、動く人形。


そうあれたらどれだけ幸せだったのだろうか……


(不思議。あれだけ何年もの間リオと会いたいと願い続けたのに、今は、会いたくない……。二度と会わない事を願ってる。私って、とっても勝手な人間ね……。)


優しくしてくれたからまた会いたい。


そっけなくされたからもう会いたくない。


勝手すぎるその感情を知って私は自分が見た目だけではなく心まで醜い存在だということに気づいてしまう。


こんな私なんて、愛されなくて当然だとひどく思った。

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