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醜い伯爵令嬢は悪魔な少年に恋をする【10月より更新再開】  作者: 皇 鸞(すめらぎ らん)
本編
15/31

葡萄酒の色と瞳の色

「おい、いつまでそうしているつもりだ、フィアナ。」


「……い、いつまでといわれましても……。」


食後、何故かリオネル様の部屋に連れてこられた私は連れてこられた理由が解らずリオネル様の部屋の扉のすぐ前で立ちつくしていた。


「あの、リオネル様……そろそろ私を連れてこられた理由をご説明頂けないでしょうか……?」


とりあえず、怒ってはいなさそうだ。


ただ、今の私の行動に若干苛立たれているのはなんとなくわかる。


でも、とりあえず警戒というか、あまり近寄りたくはないわけで……。


「良い葡萄酒をもらった。付き合え。」


「え……?」


「ん?まさかお前、飲めないのか?」


「の、飲んだことはないですけど、多分飲めなくは……。」


この国では17歳になれば飲酒が認められているため、年齢的には勿論飲めなくはない。


お父様はとてもお酒に強いお方だったし、飲めると思う。


私は早く座れと促してくるリオネル様を苛立たせないためにも席に着く。


(一体、何をお考えなのかしら……。)


出来る限り私を視界に入れたくない。


今まではそんな感じだったのに、今日は何故かひどく構ってくださる。


腹の中が読めなさ過ぎて少し怖いくらいだ。


「たんと飲め。お前にはもったいなさすぎるほどの良い酒だ。」


「あ、ありがとうございます。」


リオネル様によって注がれる葡萄酒。


薄くてきれいな赤色の葡萄酒はまるで宝石の様だ。


「重さは軽い葡萄酒だからな。初心者のお前でも飲みやすいだろう。ただ、年代物ではあるからな。舌に合わなければすぐにいえ。子供でも飲めるような安めの飲みやすい葡萄酒をお前だけに出してやろう。」


「あ、ありがとうございます……。」


少し小馬鹿にしたように笑うリオネル様。


そもそもそんな安いワインを何故持たれてるのですか?という怒りを買いそうな言葉を発言しかけたが、私はその言葉は言ってはいけないと思いとどまり、言葉を飲み込んだ。


……酒乱だったら最悪だし。


そんな事を思いながら私は葡萄酒を一口口に含んだ。


葡萄酒というのだから甘いのかとも思ったけれど、そんな事はない。


下がピリッとするような感覚を覚えたかと思うと、不思議な風味が広がり、最後にはすっと消えていく。


どちらかというと透明感のある感じだ。


よく知る葡萄らしさはあまり感じられないけれど、甘くないのが逆においしく感じられた。


「……口にはあったようだな。」


「は、はい。これが葡萄酒なんですね……。不思議で、美味しいです。」


「……お前の父親が送ってきた。」


「え……?」


(お父様がリオネル様に……?)


思いもよらない言葉に私は驚かずにはいられない。


でも、リオネル様のご実家の領地にて療養中のお父様がリオネル様に宛てて送られたというのなら普通に感謝の意を込めた贈り物なのかもしれない。


(……それを私が飲んでもいいのだろうか……。)


なんて思いつつも葡萄酒が気に入ってしまいもう一口口に含む。


ちらりとリオネル様を見るとリオネル様はじっと葡萄酒を見つめていた。


「……【娘の片目と同じ色のワインです。】と、送られてきたのだ。」


「え……。」


リオネル様は手に持っているグラスを私の目と同じぐらいの高さまで持ち上げた。


見比べようとしたのだろうか。


でも、私の瞳は飾りで隠しているため見える事はない。


「【娘を気に入ってくださった貴女様であれば私の大好きなワインも気に入ってくださるかと願い、お送りさせていただきます。】そう手紙に記載されていた。」


「…………お父様。」


自身の大好きなワインといってくださるワインの色とを私の固めと同じ色といってくださるのがとても嬉しくて胸が熱くなる。


なんだかとてもお父様に会いたくなってきてしまった。


(お父様、お元気かしら……。)


リオネル様のお家の領地に移られてから、順調に回復しているとお父様から手紙が送られてきている。


早くお父様のご尊顔をまたお目にかかりたいものだ。


「……魔族と同じ色の瞳など不吉なものだとずっと思っていた。」


「……思っていた?」


過去形に話すリオネル様の言葉が気にとまり、私は言葉を聞き返してしまう。


するとリオネル様はワイングラスの中の葡萄酒を丸を描くように揺らしながら私に視線は向けずに話し出した。


「……私は葡萄酒は好きだ。味はもちろんだが、何より葡萄酒の……色が好きなのだ。」


「……色が……ですか……?」


「あぁ。このワインは寮へと戻った際、寮監に渡された。丁度お前について考えていたからなのかはわからんんが、お前の瞳と同じ色……その言葉にひどく引っかかった。そして思ったのだ。」


すこしトロンとした力ない瞳でリオネル様が私を見つめてくる。


赤みを帯びた頬、細められた目。


どこか色気を感じるリオネル様。


ひどく綺麗なリオネル様に私は視線を外せない。


そして、リオネル様を見つめていると、私を見つめるリオネル様がそっと私の飾りに指をあてた。


「……俺はお前の瞳を見たら、美しいと思うのだろうか……。」


「え……。」


「醜い顔だと聞き、見た事もないお前の顔を俺は醜いだなんだと思い、忌み、嫌ってきた。だが……ここ数日のお前を見ていると不思議だがお前をもっと知りたい、そう思うようになってきた。……いつか、お前の赤い瞳も見てみたいものだな。」


「……リオネル様……。」


人目もないのにどこか優しいリオネル様。


……きっと、酔われているに違いない。


よって言った譫言うわごとの様なものなのだろう。


浮かれてはいけない。


この言葉に、浮かれては絶対にいけない。


興味を持たれているだなんて……思ってはいけない。


酔いがさめたらきっといつも通りのリオネル様なのだから。


「……フィアナ。今夜はこの部屋に泊まれ。」


「え……。」


「拒むことは許さん。お前がこの部屋にとどまるれば明日、面白いことが起きるだろうからな。」


「面白い事、ですか……?」


それは一体どんな事?と、問いたくなるけれど、問うたところでおそらく答えは返ってこないだろう。


リオネル様を見る限り、おそらく今日は害されることもなさそうだ。


泊まる事は別にリオネル様のご要望だ、仕方ないと納得できる。


でも……


(……一体何処で寝ろと?)


リオネル様の部屋は特段質素というか、何もない。


小さなテーブルにクローゼット、鏡、そして寝台。


まぁ、花があったり小物が会ったりはするけれどそんな感じだ。


ソファもないし、私は何処で寝ろというのだろうか。


(床?まさか床なのかしら……。)


なんとなくそうは思うけれど、流石にそれはないような気がする。


一応、伺いは立てておかなければ。


「あの、リオネル様?泊まるとなれば、私は何処で眠れば……」


「……何を言っている。寝台でに決まっているだろう。」


「え……?で、ですが、そうなればリオネル様はどちらで――――」


「寝台以外にあり得るはずがないだろう。」


「……え?」


驚かずにはいられない発言を聞き、私は言葉を失い固まる。


だけど、しばらくして――――


(う、嘘でしょ!!??)


心の中で一気に何かが爆発した。


(だだだ、だって、いいい、一緒に寝るって、むむ、無理よ!無理!!!)


寝るときは顔を隠す飾りを外さないと正直、邪魔だ。


つけたまま眠れない事もないけれど、できればしたくない。


「ふん、案ぜずともお前なんかに手を出したりはしない。」


「そそそ、そんな心配はしていません!!私はただ、一緒に寝ては私の醜い顔が見えてしまうかもという心配を――――――」


「ならば俺に背を向けて眠る事を許してやる。背を向けて寝ろ。」


「えぇっ!?」


(せ、背を向けて寝ろって言ったってっ……)


背中を向けて寝たところで寝返りを打ってしまえばリオネル様にお顔が見えてしまうかもしれない。


それは、それだけは避けたい。


「リ、リオネル様!包帯などはありませんか!?」


「包帯?……あったかもしれんな。」


「でしたら包帯をください!そちらを巻いてまいります。」


「……まぁいいだろう。待っていろ。」


「あ、ありがとうございます!」


リオネル様は呆れたような物言いでけだるげに立ち上がると、クローゼットの引き出しから包帯を取り出して来てくれた。


私はそれを受け取ると急ぎバスルームに駆け込み、顔に包帯を巻いた。


そして――――――


(酔ったリオネル様は酔ったリオネル様でたちが悪いわ……。)


驚きの連続でドキドキする胸が静まるまでしばらくバスルームで時を過ごしたのだった。



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