可愛げのない態度
「えぇ~、それでは皆さん、今日は野外授業になります。春の訪れにより美しさの増した庭園の好きなところをスケッチしてください。」
昼一番の授業は美術の授業。
しかも野外授業だ。
野外といってもあくまで学校の敷地内ではあるけれど、天気のいい日に外での授業。
先程の居心地の悪い食事会で溜まった不快感が晴れていく気がした。
「フィアナ、私と共に描こう。」
「あ、はい、リオネル様。」
美術教師のグランドル先生による授業の説明が終わるとリオネル様が私に近づき、肩を抱く。
その行動を見た周りの人たちはひそひそといろいろな言葉をつぶやき始めた。
「本当に不釣り合いね、あのお二人。」
「リオネル様は本当にお優しすぎる。あんな得体の知れぬ化物にすら愛情を注がれるとは。」
「いや、単にリオネル様は悪趣味なだけなんじゃないか?」
「俺だったら無理だね。あの飾りの下、かなりやばいんだろ?絶対見たくないんだけど。」
様々な言葉が飛び交う。
聞きなれた言葉だけれどそれでもやはり気にしないだなんてできない。
……気にしないで居ようとしても気になってしまうのが事実だ。
拭えない不快感に私は視線を落とす。
せっかく天気も良く、空気も気持ち良いのに私を取り巻く環境がそれらを感じ、安らぐことさえ妨げてくる。
何でそっとしておいてくれないのだろうか。
「……静かな場所に移動しよう、フィアナ。」
「……リオネル様。」
リオネル様は私に笑いかけ、優しくエスコートしてくれる。
いつもとは違い、優しく私の肩を抱くリオネル様の手。
そんなリオネル様の行動に何とも言えない感情を抱きながら、私はリオネル様のエスコートの元、陰口が聞こえなくない人気のない場所まで移動した。
「ここでいいか……。おい、フィアナ。週末の予定について話すぞ。」
「え……?」
「何を間抜けな声を出している。口裏を合わせておかねばあの女にいろいろ聞かれた際に不便だろうが。」
「そ、そうですね……。」
エリリアナ様との食事会が不快だったのか、どこかイライラされているリオネル様。
なのに力強く肩を抱かれなかったことにやはり少し戸惑ってしまう。
いつもなら間違いなく、イライラしてらっしゃるときは力をこめてくるのに。
「……おい、お前は行きたい場所などあるか?」
「……え?」
「だから一々間抜けな声を出すな。口裏合わせでもと思ったが、いっそどこかに出かけた方が面倒なことが起きずに済むかと思っただけだ。だが、俺には行きたい場所など思いつかんし、仕方がないからお前の行きたい場所に連れて行ってやる。」
「わ、私の行きたい場所に、ですか……?」
「……何度も言わせるな。そうだといっている。それで、週明けにあの女に感想でも聞かれたら事細かに週末の出かけ先のことを話し、楽しかったとでも答えてやれ。お前の入る隙などないといわんばかりにな。」
苛立ちながら言葉を発しているリオネル様は言葉を終えた後に大きなため息をつくと、芝生の上に座られる。
そして、近くに立っている私の手首をつかんだ。
「見下ろされるのは好まん。早く座れ。」
「は、はい。」
不機嫌な声で言われたのもあり、私は急ぎリオネル様の隣に座る。
(お、驚いたわ……いきなり手を掴むのだもの。)
好き好んで私に触れようとはしないリオネル様。
人目がない場所で暴力以外の目的で触れられる事があるだなんて思いもしなかった。
いや、まぁ、単に手をつかまれただけなのだけど……。
「で、先ほどの質問の答えは?」
いつも通りこちらには向かず話しかけてくるリオネル様。
急にそんな質問をされても困るわけで、どう返答していいものかわからない。
基本的に私はこの見た目だ。
ひどく目立つから外には出たくないのが本音だ。
それこそ、どこかで過ごすにしても静かな場所がいい。
こんな庭園のように。
「……すみません。私のような引きこもりにはいきたい場所など思いつくこともできません。」
「……だろうな。」
膝を立てて座っているリオネル様はため息をつきながら膝に肘をついた。
思いつかないから聞いてみた。
そんな感じだろう。
「……俺の部屋で過ごすか?」
「え……?」
「……よく考えれば俺はお前をよく知らない。もしあの女にお前のことをいろいろ聞かれたとしてしっかりと答えられる自信が俺にはない。あの女に疑われ、付きまとわれるのは迷惑だからな。そうなるよりはお前と過ごし、お前という人物について理解を深めるほうが幾分もましな時間の使い方だと思い提案しただけだ。」
「……リオネル様のお部屋……ですか……。」
リオネル様のお部屋ということは人目につかない。
……あの部屋に伺えば絶対に何かしらの暴力を振るわれているのもあり、あまり快くこの提案に賛同することができない。
どうしたものだろうか。
「それとも何か、お前は週末はあの生意気な一年と約束をしていたりするのか?」
「え……?い、いえ、しておりませんが……。」
「本当か?特別な仲ではないといいつつ、ずいぶん仲がいい様に伺える。ご丁寧に自分のだとでも言いたげな証までつけられているではないか。」
「…………証?」
何のことだかわからず首をかしげる。
もちろん今日もリオからもらった指輪はつけてはいない。
リオの所有物の証なんてどこにもないはずだ。
「……気づいていないのか?鈍感なのか化け物と呼ばれすぎて女ですらないのかどちらだ?しっかりと濃いキスマークがついているぞ。」
「キス?…………―――――――っ!!」
一瞬、何のことだろうかと思ってしまうものの、すぐに何のことか理解する。
昨日リオに啄まれた首元を私は急ぎ抑えた。
(あ、あれって、キ、キスマークをつける行動だったの!?)
悔しいけれどリオネル様の言う通り、私は愛情表現の一種であるそういった行為に疎い。
ただ啄まれただけだと思っていたけれど、キスマークが付けられているだなんて……。
「……お前はそういう顔もするのだな。」
「え……?」
どこか寂しげな声で言葉を紡ぐとリオネル様は私から視線をそらした。
そんなリオネル様の心情が理解できなくて私は首を傾げた。
「俺の知るお前はいつだってほぼ真顔だ。笑顔も嘘くさいしな。……見た目だけでなく心も人間味がないと思っていた。だからという訳ではないが、私は…………――――――」
「……リオネル様?」
急に言葉を途切れさせて黙り込むリオネル様。
いったいどうしたのだろうと思いながらお顔を覗くとリオネル様と視線が合った。
すると、リオネル様は不快そうに視線をそらされた。
「ふん、一応人間ではあったようだな。」
「は、はぁ……まぁ……。」
一応人間をやめるつもりはないし、やめているつもりもない。
ひどく失礼な話ではある。
だけど、なんでだろう。
私の見方が変わったのだろうか。
リオネル様の口調がいつもより少しだけ優しいような気がしてくる。
……いや、単純に怒鳴りつけられ、怒りをぶつけられ、暴力を振るわれるなどの行為が行われていないからかもしれない。
でも……
(私を化物じゃなくて、人として見てくれている……?)
今日は一度も私のことを化物扱いしてこない。
だからなのだろうか、なんとなくそんな風に思えた。
それこそ今のリオネル様の発言でわかる通り、私はきっと、ずっと人間として思われていなかったのだろう。
だからこそ人間の姿をした醜い何かの様に思われ、気味悪がられていたのだろう。
でも、人間と分かったから、私を人として扱ってくれている。
……そんな感じなのだと思う。
「…………。」
突然会話が途絶え、黙り込んでしまうリオネル様。
そんなリオネル様につられるように私も黙り込む。
二人共が何も話さない無言の時間が流れ出した。
だけど、不思議とこの時間が苦ではないと思える私がいた。
単純に二人とも相手に必要以上に興味がないという事、無関心という事が解っているから、必要以上に親しくなる必要がないと思えるからこそ無言がそこまでつらくない。
いつもならこういった状況ではリオネル様が無言の際は腹の中のお考えを意味を考えてしまい、落ち着いてはいられないだろう。
リオネル様とこんなに静かなで、心穏やかな時間を過ごしたのは初めてかもしれない。
(……私が、私がこんなに醜い顔でなければ、私とリオネル様はお友達にでもなれていたのかしら……。)
リオネル様が忌み嫌っているのは化物の様な私の赤い瞳と焼けただれた皮膚の左側の顔。
それがなければもしかしたら私たちの関係は、何か変わっていたのかもしれない。
でも、それはあくまでもしもの世界の話。
現実的ではないあくまで想像の世界の話だ。
「……先ほどの食事会でひどく疲れた。俺は少し眠る。お前は好きにしていろ。」
リオネル様は突然私に話しかけてきたかと思うと、すぐ様眠るといって私がいないほうへと体を倒し始めた。
そんな動作を見て私はあることを思いつき、リオネル様に声をかける。
「あの……良ければ膝でもお貸ししましょうか?地面は固いですし。」
「は?」
私の言葉を受けてリオネル様は奇怪そうな顔をなさる。
そして、そのお顔を見た私は今の私の発言が失言だったことをすぐに理解した。
「し、失礼しました、出過ぎたことを……。私のようなものの膝を枕にして眠るなど、かえって不快ですよね……。」
なんでこんな提案をしたんだと自分に問いたくなる。
差し出がましい提案にもほどがある。
正直これを思いついたのは昨日、私はリオに膝枕をしたもらったおかげでゆっくり休めたことがあったから提案したことだった。
でも、それは相手がリオだったからだと言われればそうかもしれない。
心を許している相手だから、心を寄せている相手だから、あんなにも穏やかに眠れたのかもしれない。
それを考えると私の膝でリオネル様が同じように安らかに眠ることは不可能だろう。
「……まぁ、ないよりましか。借りてやろう。」
「っ!!」
自分の発言を失敗だったと思っている私の膝……というか、太もものの上にリオネル様の頭が乗っかかる。
思いがけないリオネル様の行動に提案した私が驚いてしまう。
「……適当に起こせ。」
「は、はい!」
私に適当に起こすように告げるとリオネル様はすぐに寝息を立てられる。
早々と夢の世界の中へと入られたようだ。
(……疲れていたのかしら……。)
一瞬にして眠ってしまったリオネル様のお顔を私は見つめる。
私と違いきれいなお顔。
……羨ましくなるほどだ。
「ふふっ……。」
私の膝枕で眠るリオネル様を見て私は少し嬉しくなって笑みをこぼしてしまう。
まるで、私という存在を認めて貰えたかのような、そんな気持ちになってくる。
少なくとも、膝枕を使ってもらえるほどには気を許していただけたのかもしれない。
(でも、私っていつもリオネル様が言う様な人間味のない感じだったのかしら……。)
自身にそんなつもりがないからか、すこし悩んでしまう。
もし私がみんなから遠巻きにされる理由にそういった態度というか、私自身の行動に問題があるのであれば改めてみたりすれば何か変わるのだろうかなどと思ってしまう。
リオネル様の私への接し方が少し、変わられたように……。
「ふ~ん、俺の膝枕はあんた専用なのに、あんたの膝枕は俺専用じゃないんだ。」
頭上から突然聞き覚えのある声が聞こえ、その声に肝を冷やしながら上を向く。
するとそこには私が背もたれにしている校舎の壁にある窓の向こうから顔を出しているリオの姿があった。
「リ、リオ!?どうしてここにっ……。」
思いもよらない人物の登場に驚かずにはいられない。
そして驚く私に対し、リオの表情は面白くないという感じの表情だ。
「別に。授業なんてかったるいしサボってただけだけど。……ねぇところでさ、あんまり大きな声出すとあんたの暴力的な婚約者、目覚ましちゃうよ?いいの?」
「っ……よ、よくない……。」
リオのせいで一瞬忘れてたけれど、そうだ。
今私の膝枕でリオネル様が眠っていらっしゃるのだった。
うっかり声を上げて起こしてしまうところだった。
「にしてもさ、あんたって俺の所有物でしょ?なんでほかの奴に使われてるわけ?」
リオは窓辺に肘をつき、頬杖をついて私の膝枕で眠るリオネル様を見ている。
その顔はやっぱり面白くないという表情だ。
「あんたさ、俺の所有物だって自覚ある?あんたは俺の。ほかの奴にあんたを貸し出したりしてないんだけど、俺。」
「う……。で、でも、その、リオネル様お疲れみたいだったし、堅い地面で眠ったって疲れなんて取れないだろうし……。」
不機嫌そうなリオを見て申し訳ない気持ちにはなるけれど、けれど昨日のリオの行動がとてもうれしかったのだ。
してもらってうれしいことをほかの人にもしてあげたい。
これはおかしい事なのだろうか。
「へぇ、お優しい事だね。あぁ~あ、昨日あんたの頭地面にでも落としとくんだった。じゃあ膝枕なんて思いつかなかったかもしれないもんね。」
「そ、そんな言い方……」
「するよ。あんたがほかの奴に膝枕してるのとか面白くないし。」
「っ……。」
真面目な顔、真面目な声でだけどどこか少しすねたように私に言葉を投げかけてくるリオ。
その表情や声に私の胸は大きく跳ねた。
……これがよく聞く嫉妬、と言う奴なのだろうか。
たくさん嫌味ったらしい言葉を言われたのに、嫉妬と分かれば不謹慎だけど、リオの嫌味が嬉しく感じてしまう。
私はそんな自分の考えがばれないように、私をまっすぐ見つめてくるリオから視線をそらした。
そして――――――
「べ、別にあなたの膝枕だって、私専用である必要はないと思うわ。」
「……は?」
自分の考えがバレないようにと思いながら余裕なく私の口から出てきた言葉はひどく可愛げのない言葉だった。
(や、やばっ……。)
今の発言はよくなかった。
そうは思うけど何故か私はひどい焦りからさらに失言をつづけた。
「だ、だって、貴方と私は特別な仲でも何でもない訳だし、その、だから――――」
「……それ、本気で言ってる?」
「……。」
不快そうなリオの声が聞こえ、私はそらした視線をリオに戻す。
するとやはり視線の先には不快そうなリオの顔があった。
「ま、確かにそうだよね。俺とあんたは別に特別な仲じゃないし?確かに俺があんただけに尽くしてあげる必要もないっちゃないよね。」
「あ……。」
(ど、どうしよう……私が言いだしたことなのに……。)
私の発言を肯定するリオの言葉を聞きたくない。
……そんなずるいことを思ってしまう私がいた。
気恥ずかしくて不要なことを口走ったのはほかでもない、私なのに……。
「……あんたってバカだよね。」
「…………。」
いい返したいけれど言い返せない。
事実私は馬鹿だ。
人と言い合うことに慣れていないくせに冷静さを欠いて不要な発言をしては自分が傷ついている。
らしくない……。
リオネル様と話すときはいつだって失言をしないように気を付けられるのに、どうしてリオが相手だとうまくいかないのだろう。
本当に馬鹿だ……。
私専用といってくれたリオの言葉が、すごく嬉しかったくせに……。
……ほかの人に膝枕をしているリオは、想像もしたくもないのに。
「俺の気持ち、ちょっとはわかった?」
「…………貴方と同じ気持ちかはわからないけれど、少しは、わかったかも……。」
「なら、今日はあんたの婚約者様に貸してあげるけど、あんたの膝枕が本来は俺専用って忘れないでよね。大体、俺だってまだ使ってないんだからさ。」
ふてくされたように、だけど少し調子をつけて話すリオ。
そんな暗くなった雰囲気を明るくしてくれようとしてくれているリオのおかげだろうか。
私の沈んだ気持ちはすこし浮かんできた。
「で、婚約者様はあんたにつけた俺の証についてなんか言ってた?」
「……え?」
「っていうかさ、昨日もせっかく挑発してあげたのに全然キレて取り乱したり暴れたりしてくれなかったよね。あぁ~あ。なんか損した気分。」
つまらない。
そう言いたげなリオの反応。
やはりリオはリオネル様の反応を見て面白がっていたらしい。
それで私が暴力を振るわれたというのをわかっていたくせに。
「……リオ、貴方、本当は所有物を大事にしない人でしょ……。おもちゃとかだってすぐに遊びつくして壊すタイプなんじゃ……。」
「……さぁ?どうだろうね。」
目を細めて楽しげに笑うリオ。
所有物は大事にするだの言っていたくせに、私の体の事よりリオにとって面白い事の方が優先されている気がする。
だから私はリオが私というおもちゃを乱暴に扱っているように思えてきた。
「リオは私がリオネル様に怒りを向けられてるのを見て楽しんでいたの?そうだとしたら……そんなの、あんまりだわ。」
「あ~はいはい。ごめんごめん。」
「…………。」
リオから出た声音は面倒くさそうで、とりあえず謝っておこうみたいな感じの声だった。
全然、こんなの――――――
「……謝る気ないでしょ。」
「まぁね。」
「っ…………。」
……ひどく、胸が痛くなる。
今の今まで少しでも好かれてるかもとか、大事にされているかもと思っていたことが馬鹿らしくなる。
自分の楽しみのために私の身体が傷つけられても、私が苦しい思いをしても、リオにとっては何でもないことなのだと気づかされる。
私、何でこんなひどい人が好きなんだろう。
そう思わずにはいられないこの態度。
本当、こんな意地の悪い人の一体何処が良いのかわからなくなってくる。
(……そういえば、昨日リオネル様にも聞かれたっけ……。)
改めて考えてみるとどこだろう。
最初は私を化物じゃなくて、普通の人として見てくれるリオの目が、そんなリオの言葉が私の心を高鳴らせた。
リオを【特別】と私の中の何かが認識した。
あの時私は初めて他人から「優しさ」をもらった気がした。
……でも、リオとこうして過ごして、リオという人を知って、リオに優しさという言葉がどれだけに合わないか理解してきたというのに、それでも私は更にリオという人に溺れていっている。
その理由が何かよくわからなくなってくる。
「……何で私はリオが好きなのかしら……。」
考えれば考えるほどわからない。
「……何か失礼じゃない、その言い方。」
「っ!!や、やだ、私、口にしてた!?」
「してたしてた。何でこんなひどい人好きなんだろーみたいなこと口にしてた。」
「そ、そんな事思ってないわ!」
「本当に?」
焦る私を訝し気に見つめてくるリオ。
リオの言葉に間違いはなく、確かに今私はそんなことを思っていた。
でもだからといって思っていたなんて言えるわけもない。
バツが悪くなった私は静かにリオから視線をそらした。
「た、多分……。」
「……何それ。」
リオの言葉が完全に違ってはいなかった分、違うという嘘をつき切れなくなり曖昧な言葉が出てしまった。
でもその言葉が失言ということに気づくのにそう時間はかからなかった。
嘘をつけばよかった。
そう後悔した時にはすでにもう遅かった。
「何で、か……。でもそれ、俺も聞きたいんだよね。あんたは夜会の時言ってたけど、8歳の時から俺が好きなんでしょ?っていうか、そんな子供の時からよく好きだのなんだのってわかったよね。感心するよ。」
「…………。」
嫌味ったらしい最後の言葉。
いや、これはきっと嫌味だ。
それがわかるとひどく怒りがこみあげてくる。
私の気持ちを馬鹿にされている気持ちになってくる……。
「……教えない。」
「は?」
「意地悪なリオには教えないわ!それに、私ばっかり好きを伝えるのも馬鹿みたいだもの。」
リオは全然私をそういう意味で好きにはなってくれない。
面白いおもちゃで遊んでいるような、そんな感じがなんとなくわかってきてしまったのだ。
……もしリオが同じ気持ちであれば迷わず伝える。
だけど、今伝えるのはなんだか悔しい気がする。
それ以前に私が今、どうしてリオを好きなのかが今の私が自分自身でわからないのに伝えられるわけもないから。
「なんかかわいくないんだけど、その態度。」
「……どうせもともと私は可愛くないもの。」
どうせ私はもともと醜い。
今更可愛くないなんて言われたって…………――――
正直、ちょっと胸は痛い。
なんていったらまた「自分で言ったくせに」とか言われてしまうのだろう。
でも、これが私がリオにできる最大限の抵抗だった。
「泣いてる時は可愛げあるのに、泣いてない時は憎たらしいね、あんた。」
「可愛げについては貴方にだけは言われたくないわ。」
「ま、それもそうか。俺も可愛げある方じゃないしね。」
リオは大きなため息をつき、両手を前にぐっと伸ばす。
そして、姿勢を正すと静かに私を見つめてきた。
「じゃあね、フィアナ。」
「あ……。」
目を細め、つまらなさそうな顔をしながら愛称ではなく、普通に私をの名前を呼んで去っていくリオ。
その表情はすこし不快そうにも取れた。
よく解らないけれど、怒らせたかもしれない。
「……リオ……。」
(嫌われて、しまったかしら……。)
今追いかけたら、すぐに私の態度を謝罪すればすぐにまたフィーと呼んでくれるだろうか。
だけど、そんな事を思うのに私の体は動かない。
今動けばリオネル様を起こしてしまう。
そんな言い訳をして私はその場にとどまったのだった。