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醜い伯爵令嬢は悪魔な少年に恋をする【10月より更新再開】  作者: 皇 鸞(すめらぎ らん)
本編
10/31

就寝前の来訪者

リオネル様の付き添いの元、部屋へと戻った私はリオネル様に「しっかり休め。」とお言葉をもらい、リオネル様のお言葉通りに夕食まで寝台でしっかりと休んだ。


その後、食堂で食事を取り終え、お風呂にもしっかりと入り、寝る準備を始めていた。


(そうだわ……。フェリアに手紙を書きましょう!)


フェリアはリオネル様との仲をひどく気にしている。


今日、リオネル様にお優しくしてもらったという内容の手紙を送れば少しでも安心できるだろう。


……乱暴をされたことは絶対に記載しないでおこう。


(えっと、便箋便箋……――――――)


部屋の机の引き出しを開け、便箋を探す。


そんな時だった。


「ふぅん、結構綺麗な部屋じゃん。」


「っ!?」


聞き覚えのある声が窓の方から聞こえてくる。


驚き振り返ると、夜風に吹かれるカーテン向こう側に私の愛しい人物、リオの姿があった。


信じられない事に、3階のこの部屋に窓から入ってきたのだ。


「なな、何をしているの!?危ないわ!!」


「はっ!誰にいってんの?俺にとってはこんなの全然危なくないんだけど。」


危ない。


そういって心配する私に見せつけるかのように窓の外側に体を倒すリオ。


今にも落ちてしまいそうなその体勢に私はハラハラせずにはいられない。


というか……


「や、やめて、リオ!もしも貴方に何かあったら、私っ……!!」


気が気でいられなくなるとはこの事だろう。


もしもが怖くて涙が目に滲む。


そして、恐怖からか声や体まで震えてしまっている。


リオに何かあったらなんて考えたくもない。


だけど想像してしまう。


……私の心が耐えられないような事を。


「……くっ……!はははっ!何その顔!だから俺を誰だと思ってんの?こんな場所から落ちるほど間抜けじゃないに決まってるでしょ!?」


「っ……!」


私の心配をあざ笑うかのように大きな声で笑いだすリオ。


外に向けて倒していた上体を戻し、普通に窓辺に腰掛けるリオ。


馬鹿にするように笑うリオに私は怒りを覚え始めた。


「わ、笑い事ではないわ!!絶対だなんてないのよ!?お願い、ハラハラさせないでっ……。」


怒りから私は夜だというのに叫んでしまう。


幸いなことに部屋の壁が厚いからお隣さんに聞こえる事はない。


でも、そんな心配がないからか思い切り叫んでしまった。


馬鹿にされたような笑い方に感じる怒り、そしてリオが窓から落ちる心配がなくなった安堵。


それらからやっぱりにじみ出ていた涙は滴となって流れ始め、私は生まれて初めて怒り泣きをしてしまう。


「馬鹿っ……馬鹿っ……!!」


安心して力が抜けた私は床に座り込む。


そして、とめどなくあふれてくる涙をこらえきれず、リオに顔を隠しながら泣き始めた。


「……あんたって何?泣き虫なの?」


「っ!!」


涙を流している私の顎をリオが持ち上げた。


顎を持ち上げられたことで私の視線が上がる。


私の顔の目の前には楽しそうな顔をしたリオの顔があった。


「いい顔……。」


「っ……意地……悪……。」


そうだ。リオは私の泣き顔が好きなんだ。


私を泣かせるために講じた悪戯に違いない。


私を泣かせるためにわざとあんな危ないことをしたのだ。


きっと、私がこうなるだろうとわかって……。


「あぁ~あ、泣かせるつもりなかったのになぁ~。」


「っ……。」


嘘だ。


絶対泣かせるつもりだった。


泣きすぎて言葉にできない言葉を心で唱える。


しらじらいしい話方が何よりそれを物語っているように思える。


「あ、信じてないでしょ。あんたを困らせるつもりはあったけど、泣かせるつもりはなかったんだって。ま、信じてくれなくてもいいけど。」


涙を止めることができずに泣き続ける私の頭をリオがそっとなでる。


その手は夜風にあたっていたからかとても冷たい。


だけど、私をやさしくなでるリオの手からはぬくもりのようなものが感じられる気がする。


ずっと、撫でていてほしいと思うほどに心地いいぬくもりのようなものを。


「あ……。」


温もりに心地よさを覚えていた私の醜い顔を覆う飾りがリオの手によって外されてしまう。


急いで顔を隠すように手で顔を覆う私。


だけどリオは顔を覆う私の手首を優しくつかみ、顔を覆っている手を顔から離させる。


「リ……オ……。」


どうして?


どうしてそんなにも私の醜い顔を見たがるの?


誰もが見たくないと思うほど異形で、醜い私の半顔。


それをどうして、貴方は……――――


「本当醜い顔。」


「……。」


火傷の後をリオの手が撫でる。


わざわざ言わないでほしい、そんな事。


醜いのなんてわかっている。


焼けただれたこの顔を、そう思わない人なんてきっといない。


なのに、なのにどうして――――


(……なのにどうして、こんな顔に貴方はキスをするの?)


醜い顔と言いながら愛おしそうに、優しく口づけをしてくるリオ。


リオの考えている事が解らない。


まるで醜いものが好きなのかとでも問いたくなるほどだ。


いや、もういっそ……――――


「リオは……醜いこの顔が好きなの……?」


そんな事はない。


そう思うけれど私は勇気を出して聞いてみる。


だって、こんなに愛おしそうにキスをされたら、そうなのかもしれないと思わずにはいられない。


期待はしない。


してはいけない。


そう思いつつも私は期待を胸に抱きながら返答を待つ。


「……何を言い出すのかと思ったら……はっ、醜いものが好きなわけないじゃん。」


「……そう、よね……。」


呆れたかのような言い方に私は肩を落とす。


期待してはいけないと思いつつ期待を膨らませた胸がずきずき痛みだす。


嘘でもいい。


【好き】と言ってくれるのを愚かにも期待したのだ。


……そう、8歳の出会ったあの日の様に、愚かにも期待したのだ。


答えは解っていたはずなのに……。


……いや、違う。


期待させるようなそんな行動をリオがしたからこそ私は期待してしまったのだ。


醜いものが好きなわけがない。


それはそうだ。


でも、それならばどうして―――――


「……どうして……そんなに優しく私の顔に触れるの……?愛おしそうに私の顔にキスをするの……?醜い顔、好きじゃないんでしょ……?」


大事に触れられる理由が解らない。


愛しそうにされる理由も。


だけど、その理由を問うた瞬間、私は失言に気づいた。

たった今、好奇心から出た言葉が私の胸を傷つけたばかりだ。


変に期待を持てばまた傷つく。


疑問に答えを求めて、その答えを知れば傷つくぐらいなら勝手な妄想をしていた方がまだ幸せというものだ。


なんにでも答えを求める事は、きっと、良くない――――


「ご、ごめんなさい、リオ、今の言葉は忘れ――――」


「あんた馬鹿なの?」


「……え?」


急ぎリオに返答はいらないと言おうとした瞬間瞬間、リオはため息をはいた。


それも、ひどくあきれた様子で。


そして――――――


「っ!!!」


気がついた時には私は静かに床に押し倒されていた。


私に覆いかぶさるかのように両腕で私の体を挟むリオ。


悪戯な笑みが部屋のシャンデリアの逆光のせいでなんだか色っぽく見える。


まだあどけなさが残る子供の顔なのに、ひどく大人びた表情だと錯覚してしまう。


そんなリオの手はまたも優しく私の顔の左側、やけどの跡のある顔をなで始めた。


「ねぇ、あんたは俺の所有物なんだって忘れてない?…………自分の所有物を愛でる事の何がおかしいわけ?」


「っ!!」


リオはひそめながら言葉を放っているせいか、息交じりな声のせいか、ひどく色っぽい声を出しながら私へと体を寄せてくる。


そして床に寝ころぶ私の顔の左側にまたも口づけした。


「でも、なんでだろうね。あんたの醜い顔見てるとさ、なんか安心するんだよね。俺も、あんたと同じで……素顔はひどく醜いから仲間意識でも感じちゃってるのかなぁ。」


「え……?」


「ね、どうなのかな。」


「そ、そんな事聞かれても……。」


口調は軽い。


だけど、その言葉を語る声は重い。


どこか寂し気な声で私の顔をなでながら語るリオ。


だからか素顔が醜いというリオの言葉は冗談でも、からかっているわけでもない。


リオが真に思っている事なんだとなんとなくわかってしまう。


でも……


「……貴方はとても綺麗よ。私と違って血のように赤い瞳をしていなければ、皮膚が焼けただれた醜い顔もしていない。私は醜いけれど、貴方は違うわ。」


一体、誰がこんなにも美しいリオの顔を醜いというだろうか。


性格こそ少しねじくれているとは思うけれど、リオはとても美しい。


美しい髪に美しい瞳。


そしてあどけなさがあるから故なのか中性的な美しい顔。


「……羨ましいわ、本当に。」


リオを見上げながらリオの頬を撫でる私。


その私の手をリオがそっと掴む。


「本当の俺を知らないくせに、勝手だね。」


困った顔をしながら笑いをこぼすリオ。


そんなリオを私はまっすぐ見つめる。


誰が何と言おうと私はそう思う。


「……綺麗なのはあんただよ。醜いけど、綺麗。綺麗すぎてまぶしいからめちゃくちゃにしたくなっちゃう程にさ。」


声を潜ませ、言葉を放つとリオは私の首元に顔をうずめた。


そしてリオは突然私の首を啄み出した。


「ちょ……リオっ……!」


突然の事に驚く私。


なんだか慣れない感覚が私を襲った。


くすぐったいような、痛いような……そんな感覚。


それからしばらくしてリオはゆっくりと私から離れていった。


「もう……。」


なんだかリオの唇が振れていたところが熱い。


そこだけが、ひどく。


「……ねぇ、あんた、体調はもういいわけ?」


「え……?え、えぇ……。」


突然すぎる話題の転換に私は少し驚いた。


それ、今聞くの?なんて思ってしまう。


「さ、さっきも言ったでしょ?貴方の膝で眠れたおかげで体調は良くなったって――――」


「へぇ、俺の膝で眠れたおかげ?」


「っ!!」


私の言葉を受けて悪戯な笑みを浮かべるリオ。


そんなリオの表情を見て言わなくてもいい言葉を言った事に気づく。


「ち、ちがっ!あ、あの!深い意味は――――」


「恥ずかしがらなくてもいいんじゃない?あんたは俺の事大好きだもんね。」


「なっ……!!」


余裕たっぷりな表情を浮かべるリオ。


確かにそうだ。


そうだけれどその顔はなんだか腹が立つ!!


「べ、別に貴方の膝でなくても体調は良くなったわよ!本当に、深い意味はないんだから!」


腹立たしいのと、気恥しいのでリオからあからさまに視線を逸らす。


素直にリオのおかげだというのがなんだか癪だと思ってしまう自分がいるのだ。


するとリオは何故かそんな私の手を取り立ち上がった。


手を持ち上げられている状態の私はそんなリオの行動が理解できずに頬を膨らませたままリオを見つめる。


「何……?」


ふくれっ面の私がおかしいのかリオは楽しそうな笑みを浮かべている。


ひどい話だ。


「俺の膝、良かったんでしょ?また貸してあげてもいいけど?」


「なっ……!だ、だから、深い意味は――――」


「あぁ、それとも俺を抱き枕にでもしてみる?」


「なっ……!」


いきなりすぎる発言に私は顔に熱が宿る。


いきなりの発言。


だけど想像してしまったのだ。


リオを抱き枕にしているところを。


「良かったね。この俺を抱き枕にして眠れるなんてあんたくらいだよ?俺、自分のものは大事にするタイプだからかなぁ。あんたにとことん甘いよね。」


調子に乗った言い方をするリオ。


その口調からからかわれている事がなんとなくわかる。


というか、やっぱりリオらしいというか、かなり上から目線発言。


それすらかわいく見えるのはやはり恋は盲目と言う奴なのだろうか。


憎らしい発言や口調なのに、それがどこか可愛くて。


リオにどんどん夢中になってしまう。


……行動が読めないところも含め、魅力を感じてしまう。


「ほら、立ちなよ。まだ夜は冷えるんだし、床で寝るとか普通にバカのやる事なんだけど。」


「バ、バカのやる事って……貴方が押し倒したくせに。」


私の手を引いて起き上がらせてくれるリオ。


そんなリオに文句を言いながら私は立ち上がった。


そんな文句を言ってふくれっ面になっている私にリオは色っぽい顔で笑いかけてくる。


「ただの抱き枕でいてほしいならその生意気な口、そろそろ閉じなよね。」


リオは人差し指を私の唇に押し当てながら表情だけでなく、声まで色っぽくして私に語り掛けた。


(本当、ずるい……。)


なんで、何でリオはこんなにも私をドキドキさせるのだろう。


きっと、私ばかりがリオにドキドキしていて、リオはこの状況を楽しんでいるだけなのだろう。


ずるい。


私ばかりがこんなにもリオに溺れさせられていくなんて……何かずるい。


そんな事を思いながら私はリオと共にまだ温もりも何もない毛布の中へと入り込んだ。


どうすればこの余裕たっぷりでいたずらな笑みを崩せるのだろう。


どうすれば私のこの胸の高鳴りを少しでもリオに思い知らせられるのだろう。


どうすれば――――


(……どうすれば、貴方も私を好きになってくれるの?)


リオが私に抱いている感情が私と違うものだという事はよくわかる。


興味からくる好意。


そんな感じのものだと思う。


……なんとなくだけれど、それは解る。


(リオに想われてみたい……私が抱いている想いと同じ想いで……。)


リオには私をつなぎ留めておくものがあるけれど、私がリオをつなぎ留めておくものはない。


こうして、今温もりを交わしているのに、すべてがまるで、泡沫の夢の様で……


次に目を覚ました時にはすべてが夢で、リオは私の傍にはいなくて、感じた温もり全て偽りで……――――――


そんな朝が来る気がして怖いのに、なのに私は愛しい人のぬくもりを感じながら夢の中へと落ちていった。

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