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醜い伯爵令嬢は悪魔な少年に恋をする【10月より更新再開】  作者: 皇 鸞(すめらぎ らん)
本編
1/31

醜い令嬢と不思議な少年

「うっ……うぇ……うぅっ……。」


幼い頃の私はどんな子?と聞かれたら私はまず第一に【泣き虫な女の子】と答えるだろう。


いつもいつも泣いてばかりだった。


そう、意地悪だけど優しい貴方に出会うまでは――――――






「フィアナお嬢様、御着替えのお時間です。」


「あら、ありがとうフェリア。」


綺麗な金髪碧眼。


この邸一の美少女メイドフェリアがウェイルズ伯爵の一人娘である私、フィアナ・ウェイルズの着替えを手伝うために私の部屋へとやってくる。


ちなみに歳は17で、世間一般的には今が一番楽しい時期なのらしい。


そんな世間一般的には楽しい時期なはずの私と美しいメイドのフェリアの姿が鏡に映るといつも思う事がある。


名前は似ているのに似ても似つかない顔についてだ。


美しいフェリアとは対照的で私の顔はひどく醜い。


世界は不公平だ、と。


私の顔の左半分には大きなやけどの跡がある。


もちろんこれは生まれつきなんかじゃない。


生まれついて変だったのは、右目が緑色の目をしているのに対し、左側が血のように赤い目をしていたことだけだ。


でも、それが亡き母にとっては気味が悪くて仕方がなかったらしい。


瞳は病気で色が違うのだと聞いた母は、薬草にもなるハーブなどを使ったハーブティーをまだ泣くことしか出来ないほど幼かった私に迷うこと無くかけたらしい。


その際、故意かそうでないかはわからないけれど、

ハーブティーは酷い熱さで、私の皮膚を焼いた。


ただでさえ気味の悪い娘は醜い娘へと変わり果てた。


叶うことならば永遠に人目につかずに生きていきたい。


そう願ってはいたけれど、私は伯爵家に生まれた娘、それも一人娘だ。


物心付き、簡単なマナーを覚えると私は社交の場に連れ出された。


そして夜会などに顔を出してはいつもいじめられていた。


噂とは不思議なもので、何処からか静かに広がっていく。


私の顔の半分が醜いことは飾りで隠し、誰にも見せないようにしていたのにも関わらず、夜会に参加する誰もがひそかに飾りの下に醜い顔があることを知っていたのだ。


噂によれば母がお茶会で私の醜い顔について嘆き回ったせいだとか。


真実はわからないけれど酷く納得出来る話だ。


だから私は夜会に出れば大人には左右の目の色が違うことで気味が悪いだの、悪魔の子だの、不吉の象徴など影でヒソヒソと陰口を叩かれ、そして同じ年の子供たちにいじめられ、心無い言葉を浴びせられ続けた。


社交界にではじめてしばらくした頃だった。


夜会なんて出たくない。


何度もそうお父様に泣きついた。


けれど、父は頑なに私の願いを拒んだ。


私の願い。


それがかなわないには理由があった。


私はこの国を現在治められている女王陛下、ヴェリアナ女王陛下の亡きご息女にひどく似ているらしい。


そんな私はヴェリアナ女王陛下はご息女が亡くなられてすぐに私が生まれたということもあって、私をご息女の生まれ変わりなのではないかと思っておられるのだ。


ご息女と同じ顔、そして同じ目の色を右目に持つ私。


夜会を開くたびに女王陛下は私と言葉を交わすことを願われるのだ。


……優しく、温かい愛情を向けてくれる亡き母より母らしい女王陛下に会うのはとても幸せな気持ちになれるから正直嫌な気持ちはしない。


けれど、同じ時を過ごせるのは一瞬。


ひとたびその幸せな空間から出てしまうと、待ち受けるのは女王陛下の寵愛を受けている私への僻みやら、単純に私を気味悪く思う者たちからの攻撃。


……それはどれだけ大きな愛を受けても癒える事のないほどの傷だった。


……だけど――――


「フィアナお嬢様。お召替えが済みましたわ。よろしければモーニングティーのご用意でも致しましょうか?」


「えぇ、お願いするわ。」


フェリアは綺麗なお辞儀をして部屋を去っていく。


フェリアが立ち去ったことを確認して、

私は綺麗な指輪を机の引き出しから取り出した。


「……あの日、貴方に出会えてから私は何も怖くなくなったのよ。……愛しの人、リオ。」


……あれは忘れもしない。


私が8歳だったある夜に行われた夜会でのことだ。


いつもなら醜い左側の顔を隠すために大仰な飾りを身に着けている私。


そんな私の飾りが私をいじめる貴族たちのご子息に奪われてしまい、醜い顔が露わになってしまったのだ。


異形な私に、私の飾りを奪い取った貴族のご子息たちは心無い言葉をたくさん投げつけ、怯えて立ち去った。


私はもう、消えてしまいたいと願いながら涙を流していた。


そんな時だった。


「ねぇ、うるさいんだけど。」


何処からともなく声が聞こえてきた。


その声に驚き、私は泣くのをやめて声の主を探した。


すると、近くの木の上からいきなり小さな子供が飛び降りてきたのだった。


「泣かれてると寝れないんだけど。ふあぁぁ……こっちはまだ眠たいってのにさ。主も人使い荒いよ、ホント。」


「……子供……?」


私よりも幼く、だけど口調はひどく大人びている子供が不機嫌そうに私へと近づいてきた。


そして首に手を当て、ため息をつきながら座り込む私を睨むように見下ろし語り掛けてくる。


「で、何泣いてたわけ?しょうもない理由なら俺の睡眠妨げた責任とってもらうから。」


冷たい口調。


そんな口調で私の悲しみを知りもしないのに「どうせ大した理由でもないんでしょ?」とでも言いたげな感じに私はすこし腹が立った。


「しょ……しょうもなくなんかっ……。」


「それは俺が決めるから。あんたはとっとと話せばいいんだよ。」


「…………。」


明らかに年下なのに偉そうな態度。


そんな態度に苛立ちがこみあげてくる。


……だけど、不思議とどこか胸があったかい。


……初めてだったのだ。


人に、同年代の子供に、まっすぐ、怯えでも嫌悪でもない。


普通の表情を向けられたのは。


「……私の顔の左側……おかしいの。だから隠していたのにそれを無理やり見てきたのに、化物を見るように逃げられて、それで……。」


興味半分で暴いて、それで怯えて、気味悪がって。


残酷すぎる行動。


その行動に私は理解ができなくて、苦しくて、悔しくて、悲しくて……。


またジワリと目に涙が浮かんだ。


「ふぅん。馬鹿でしょ、そいつら。自分から暴いて何様だよってね。」


少年は呆れたように言葉を吐き捨てながら私のすぐ近くまで歩み寄ってくる。


そして急にしゃがみ込み、顔の左側を隠すために伸ばしている髪に向かって手を伸ばしてきた。


「や、やめてっ!!!」


私はとっさに伸ばされた少年の手を払う。


せっかく怯えなんてない、嫌悪感だってない、そんな瞳を向けてくれているのに、そんな瞳を私に怯え、気味悪がる瞳に変えられるのは我慢がならない。


そう、とっさに感じてしまったことで取ってしまった行動だった。


「……いい度胸じゃん、この俺の手を払うとか!!」


私にはらわれたことで一瞬遠のいた少年の手は一間開けて私へものすごい速さで伸びてくる。


そして、少年は私の髪を掴んでしまう。


「や、やめっ―――――」


やめて。


見ないで。


お願い。


そう心の中で願っていた私の願いははかなく消え、

私の前髪は持ち上げられ、私の醜い顔が夜の風に触れた。


「…………。」


次にぶつけられる言葉に私は怯え、涙をにじます。


この子だって絶対気味悪がるに違いない。


絶対、絶対。


「……ふ~ん、確かに醜いね。」


「…………。」


やっぱりそう思うのかと思いながら私の胸は苦しく締め付けらる。


だからみないでほしいのに。


暴かないでほしいのに。


どうして皆みんな、興味半分で暴こうとするのだろう。


なんで皆こんなに残酷なんだろう。


……涙がもう、こらえきれずに頬を伝いだす。


一滴や二滴じゃない。


それはもう、滝のように。


「ちょ、何泣いてんの!?……自分で言ったんじゃん。自分の顔が醜いって……。同意しただけなんだけど。」


解っている。


そんなことは解っている。


彼はただ素直に思った事を口にしただけだ。


でも、きっと、きっと彼は知らないんだ。


醜いといわれることがどれだけ傷つくかを。


とてもきれいな顔立ちの彼には、理解できない事なんだろう。


言っても仕方がない。


仕方がないけれど、それでも私はどこかで期待してしまっていたんだ。


初めて私をまっすぐ見つめてくれた彼に、【別に醜くない】と言ってもらえることを。


お世辞とすぐにわかる言葉だけれど、そんなあったかい言葉を、期待してしまったんだ。


「……綺麗。」


「……え?」


「あ、いや……………その……あ、あんたの顔は確かに醜いけど………あんたが流してるこの涙は綺麗だと思う。あんたの涙には嘘も、計算も、欲望も見えない。純粋な涙っていうやつ?まぁ、そんなもの流せるあんたは見た目は醜くても心はまぁまぁ綺麗だと、俺は思うけど?」


「っ…………。」


【綺麗】。


そんな事を言葉は生まれて初めて向けられた。


誰にも言われたことのない言葉。


醜いとばかり言われる私が、かけられる事などあるはずもない言葉だ。


だけど、この少年はその言葉を私にかけてくれた。


【綺麗】とこぼした後に慌てた態度を見せたからだろうか。


彼の言葉はお世辞でも、同情からくる慰めの言葉でもないと思えた。


そんな生まれて初めてかけられる嬉しい言葉に心が躍る。


私の胸の鼓動はひどく早くなり、自分でも信じられない高鳴りを見せ始めた。


「……ねぇ、あんた名前は?」


「フィ、フィアナ……。」


「……じゃあフィーね。俺はフェミリオル。近しい存在にはリオって呼ばれてる。あんたには特別、リオって呼ばれてあげてもいいよ?」


「い、いいの……?――――――…………リ、リオ……。」


呼んでもいいといわれた愛称で目の前の彼の事を恐る恐る呼んでみる。


呼んだあとに駄目とか言われないだろうか。


なんて不安になりながら呼ぶ私に彼は目を細めて笑いかけてくれる。


「用もないのに呼ばないでよね。」


「っ……。」


つれない言葉を発しながらもその様子はどこかうれしそうなリオ。


そんなリオの言動を見て私はリオのことを子供っぽいけど大人っぽい人だ、なんて思ってしまう。


矛盾しているけれど、そんな感じに思えたのだから仕方ない。


無邪気な笑顔なのに、どこか大人っぽい雰囲気。


……リオ…………不思議な子だ。


(……リオ……リオ……。)


心の中で教えてもらった愛称を忘れないように繰り返す。


まさか、誰かを愛称で呼べる日が来るだなんて思いもしなかった。


そんな事の出来る親しい友人なんていた事のない私にとって、愛称というものはひどく温かなものに感じられた。


呼ぶと胸があったかくなる。


特別な宝物のように愛しくなる。


誰かを愛称で呼ぶという事がこんなに素敵な事だなんて初めて知った……。


なんて素敵な事なのだろうか。


「……ねぇ、あんたっていつも周りからいじめられてるわけ?」


「い、いじめって……。」


「泣かされてるって事はそういう事でしょ?」


「……そ、そういわれると、そうかもしれないけど……。」


なんというか、聞こえの良くない言葉に私は返答に困ってしまった。


リオの言う通り、そうなのだろうけれど、そうだと認めたくない自分も居たりと……少し面倒な感じなのだ。


「ま、何にせよあんたはよく、周りと群れる事でしか強く出れないようなガキ共に泣かされてるわけだ。なんかそれ、面白くないな。」


「お、面白くないって言われても……。」


勿論私だって面白くなんてない。


酷い言葉をぶつけられ、その言葉に心を痛め、一人悔しくて、悲しくて涙する。


そんな事が面白いはずはない。


だけど、やめてといってもやめてもらえない。


どうすればいいのかと問いたくなるほどに。


「はぁ……仕方ないね。あんたの事なんか気に入ったからいいもの上げるよ。手、だして。」


「…………いいもの?」


私は首をかしげながら言われた通り手を差し出した。


するとリオはポケットから何かを取り出し、それを私の手の上に置いた。


そこには私の瞳の色によく似た赤い宝石が埋め込まれたちょっとごつい指輪があった。


「これ、あんたにあげるよ。俺の所有物の証。あ、いらないなんて言わないでよね。あんたに受け取らないなんていう選択肢はないんだからさ。」


「い、言わないよ、そんなの……。」


言い方は少し気になるけど、要はプレゼントという事だ。


友人から贈り物をしてもらうなんて今までなかった私はどんなものをどんな理由で、どんな意味でもらってもとてもうれしく感じられた。


「その指輪には俺の魔力が込められてるんだよね。だから、今日みたいに誰かに嫌なことされそうになったらその指輪をぎゅっと握るといいよ。そしたら指輪があんたを守ってくれると思うから。」


「指輪が、私を……」


リオを疑うわけじゃないけれも、いまいち信じられない話に私は本当にこの指輪にそんな力があるのかと思いながら指輪を見つめてみる。


そんなにすごい指輪なのだろうか。


「さっきも言ったけど、それはあんたが俺の所有物だって証。だからちゃんとその指輪肌身離さず持って、自分が俺の所有物だって事一瞬でも忘れないでよね。」


「う、うん……。」


「……その指輪を持ってる限り、俺の魔力であんたを護ってあげる。……だからもう、俺以外の前で泣いたりしないでよね。フィー、あんたはもう俺の物。あんたの涙も、俺の物だからね。」


リオは優しい声でそういうと私の左目に口づけをした。


その行動に驚き言葉を失いながら固まる私を見てリオは「アホ面」と小さく笑いこぼして夜の闇に消えていった。


不思議な不思議な男の子。


後々気づくことになったのだけれど、このときに私はそんな不思議で、優しい彼に心を奪われて恋に落ちてしまったのだった。


(……でも、あれから一度も会えていないのよね……。)


リオの身なりはよかったから貴族ならもしかして――――


と、夜会に行くたびに会えるかもと思い、指輪をもって夜会に参加していた。


リオに言われた通り私はリオにあってからというもの、人前では泣かなくなった


いつも私に醜いだの化物だの言ってくる子供たちが私に関わらなくなったのも一つ理由だといえなくもない。


リオに言われた通り、心無い言葉を投げかけられ、暴力を振るわれた際に指輪をぎゅっと握りしめてリオの名前を心の中で呼んだ。


すると、私にひどい言葉を投げかけてきた男の子たちに急な不幸が訪れ始めたのだ。


私への悪口を口にしようとされて私が怯え、指輪を握りながらリオの名を呼ぶと近くの木が私と男の子たちの間に倒たり、急に天気が悪くなり雷が私と男の子たちの間に落ちたり。


その他にもいろいろあったけれど、私に酷いことをするとそういった不思議なことが起きるという噂が広まり、私に直接ひどい言葉をぶつけてくる人はほとんどいなくなった。


そして、それらのどれもが別に相手側に怪我を負わせるような不幸ではなかったけれど、不幸な目にあうことを恐れ、いじめてきていた男の子達はもちろん、今まで恐る恐る挨拶を交わしてくれていた令嬢達も私に近寄らなくなったのが現状だった。


遠巻きにされる。


そんな状況はとても寂しくもあったけれど、安心もできた。


陰口をたたかれるのはとてもつらいし、ひそひそと声をしのばされても悪口は聞こえる。


だけど、直接的に言葉の暴力などを振るわれない限りはこらえる事が出来たのだ。


……リオ以外の前で泣かない。絶対に。


その想いが醜い姿の私を堂々とふるまわせてくれた。


……会えなくてもリオが護ってくれている。


指輪に触れる度、そう思えたから。


でも……。


(……会いたい。会いたいわ……リオ……。)


会えなくてもリオが私を護ってくれているとは感じられる。


だけどそれは会えなくてもいいという事ではない。


会いたい。


会って、もう一度まっすぐな瞳で私を見つめてほしい。


色々な負の感情など混ざっていない、強く優しい貴方の瞳で――――



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