1 気がついたら美少女でした
飯テロ要素があるので空腹時の閲覧はご注意下さい。
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……
WARNING! There are very few people who still have memories!
──
気がついたら、知らない場所に居た。
感覚的には知らない場所が視界に飛び込んできたという方が近いくらいに、それは突然だった。
「へ……?」
視界を埋めるのは、天蓋付きのベッドや貴族っぽい机など、お姫様の部屋としか言いようのない巨大な部屋。
お姫様に夢を見る女子高生ならこの状況に喜んだかもしれないが、生憎元男子高校生の俺に少女趣味は無い。
うへぇ……と呆れながらキョロキョロ辺りを見渡すと、恰幅のいいメイドさんが近くに居た。
「あの……」
声をかけてみるが、やけに発音が舌っ足らずになる。
「起きられましたか、お嬢様」
にっこりと、何の他意もない満面の笑みで言われた言葉に固まる。
オジョウサマ!?
いやまあちょっと女らしい名前とか言われてイジられたことはあるけど、それはないよメイドさん!
と思いつつ、自分の身体を確認する。やけに小さな手に、やけにいい手触りのネグリジェが目に入って、思考停止。一縷の望みをかけて股間を確認。
案の定、息子は家出していた。
…………
嘘だろ?
「どうなされました?」
「……あの、鏡って、ありますか」
「ありますよ、今日はあちらでお着替えなされるのですか?」
「……はい」
「まあ、まあ!」
あちら、というのはよく分からなかったがとりあえず頷くと、ワンピースをさっと着せられて別の部屋に案内された。
目の前を歩くメイドさんは何故かとても嬉しそうだ。
そしてメイドさんが扉を開けると、見渡す限りのドレス、ドレス、ドレス……。
さすがお姫様……いや、お嬢様か。まさか衣装部屋があるとは。
呆れとかを通り越して、自分が女子でないことがなんだか申し訳なくなってきた。すみません、ドレスの良さが分からない野郎がこんな所に居て。
身体は女子という事実は見ない方向でお願いします。
「お嬢様、こちらのドレスはどうでしょう?」
「勘弁してください」
恰幅のいいメイドさんがうきうきとした様子でふりっふりなドレスを次々に勧めてくる。
それを必死で拒否する。ああ、しょんぼりした顔が胸に痛い!
「あ、あの、ズボンとかって、ないですよね……?」
すると、メイドさんがぴしゃーん、とショックを受けた顔をした。
「ああ、やっぱりお嬢様はお変わりになられないのですね……こちらに来てくれるというから、期待した私が馬鹿だったのです……」
さめざめと泣くメイドさん。ズボンを要求して『お変わりになられない』って、この身体の女の子はどれだけやんちゃだったんだ……?
「言葉遣いも綺麗になっておりますし、今日こそお嬢様として目覚めて下さったのかと思いましたのに……」
おい女の子!お前どれだけやんちゃだったんだ!!
すっかり気落ちしてしまったメイドさんを慰めるべく、比較的地味な黒のドレスを見つけて手渡す。
「今日は、これで……」
「まあ、まあ!」
途端に有頂天になったメイドさんに引っ張られて、俺は化粧部屋へと連行された。
いいのかな、メイドさんがお嬢様の腕引っ張って。
とにかく、そうしてやっと見れた鏡に映ったのは──
めちゃくちゃ可愛い美少女だった。
キラキラした銀髪に真っ青な瞳、真っ白な肌という、雪の妖精みたいな美少女。正直、さっきまでのやんちゃ小僧みたいな評価が信じられない。
ああでも、これだけの美少女であれば着飾らないことを嘆かれるだろう。あれだけふりふりを推してきたのも納得だ。
まあ目立たないレースがついたこの地味な黒いドレスの方が、大人っぽくて綺麗に見えると俺は思うけどね。
他意なんてないよ。
「とてもよくお似合いです。お嬢様」
恰幅のいいメイドさんに嬉しそうに微笑まれて、曖昧に頷く。
鏡の中の美少女は、俺がほっぺを触ると一緒にほっぺを触っていた。未だに実感は薄いけれど、どうやらこの美少女が、今の俺らしい。
つまり。
男、水無 葉月は、貴族のお嬢様に転生してしまったようです。
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今後の身の振り方は後でゆっくりと考えるとして、差し迫った問題がある。
それは、家族の揃った朝食だ。
いや、朝食を食べること自体はいい。お腹も空いてるし。
ただ、俺はテーブルマナーなんてからっきしだし、何より父母の名前も、顔すらさっぱり分からない。
そもそも朝食が家族揃って行われることも、さっきメイドさんから盗み聞きしたくらいだ。
テーブルマナーだけならやんちゃっ子らしいし大丈夫だろうけど、問題は家族の顔すら分からない、ということだ。
呼ぶだけなら父上、母上と誤魔化せばなんとかなるだろうが、叔父とかいたら父と間違えそうで怖い。頼むから居ませんように。
……まあ、間違えても、美少女だし。まだ4、5歳って感じだし。見分けがつかなかったとでも言い訳しよう。うん。
などとつらつら考えている内に、居間に辿り着いた。
「シフェリア……!?」
父らしき人がガタンと音を立てて立ち上がる。母らしき人も何故か驚いたように、俺を見て口を押さえている。
俺の名前がシフェリアというらしいことは分かったけど、俺、何かしたかな。
「アリア、シフェリアがドレスを着ているぞ……!」
「ええ、グレース!今日は記念日ね!」
両親が互いの名前を呼びながら、ひしっと抱きついて感涙に咽び泣く。
……本当に、今までのお嬢様って何してたんだろうか。
とりあえず、無事に父母の名前をゲットできたから良しとしよう。
二人が泣き止んだところで、お食事タイム。見よう見まねで神様に祈りを捧げてから、食べ始める。
本日のメニューは、ほかほかと湯気のたつ黄金色のオムレツに野菜と鶏肉のたっぷり入ったコンソメスープだ。
オムレツはナイフを入れるととろける仕様で、ケチャップではなくトマトソースがかかっている。
ごくりと唾を飲み込み、切り分けたオムレツをそっと口に運ぶと、口の中で旨みが弾けた。
なんだこれ!うんまぁあい!
バターのきいたとろとろのオムレツと、フレッシュなトマトソースが最っ高に合う!
そのままがっつきたいのを抑えて、コンソメスープの方も口に運んでみる。
こっちもうんまぁあい!!
鶏肉の旨みがスープの中に行き渡って、キャベツや薄切りのにんじんとよく絡まり、更なる旨みを引き出している。鶏肉も、噛むとじゅわりとスープが染み出してくる。至福。
これは料理人さんに後でお礼を言わねばならない。そう思いつつ、俺は朝食をしっかり味わいながら完食した。
「母さんの手料理は美味しかったか?」
えっ。
これお母さんの手料理だったの!?
「とても美味しかったです」
にっこりと笑って告げると、両親がまた咽び泣き始めた。
「シフェリアが……シフェリアが、敬語を……!」
「笑顔が天使すぎる……!」
余談だが、父グレースは黒髪に青い目の精悍な美男子で、母アリアは銀髪に赤い目の、雪の女帝のような美女だ。
その二人が、咽び泣いて顔を歪めているというのは……なかなか、残念な情景だった。




