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89話 旅立ち


「カンブリ……何ですか? それは? これは……アダマント様が魔石を変化させたのですか?」


 ルビーが溢れる魔石生物の間を潜り抜けて、なんとか俺の近くまでやってくる。いや、口が滑っただけなのでカンブリアは忘れてくれ。


「ああ……。まぁ、そうなんだけど」


 俺はドギマギしながら答える。さすがのルビーもこれは呆れちゃうかな?


 ――しかし、ルビーの反応は想定外のものだった。


「……もしや。この者達を使って人間を滅ぼし、この地を我らの直轄地とする訳ですね!」


 ルビーが目を輝かせて言った言葉に、ズッコケそうになる。んな訳あるかと、全力でつっこみを入れたくなるが、グッと抑える。


 ――薄々感じていたけど、ルビーって結構過激派なんだよな。


 俺はなんとか平静を装って、今この瞬間に捻り出した『この状況の言い訳』を、さも熟考した作戦かの様に答える。


「……いや、こいつらはただの目くらましだ。こいつらで帝国内を混乱させている間に、俺達は別の場所に拠点を作るんだ。極力人間に気付かれずにな」


 『神』の手先みたいな人に追いかけられても困るしね。


 それにどうやら魔石達は俺の意思に従って動くのであろうことが、なんとなく感覚として伝わってきていた。


 俺が人間を傷つけることを望まなければ、この魔石達が人を殺したりすることはなさそうだし、適当に放し飼いにしとけば勝手に帝国は混乱するだろ。


「なるほど。我々の動向を人間達に気付かれない様にする策ですか。理解いたしました。それではさっそく我々の拠点となる場所を探しに行きましょう!」


 俺の適当な作戦をどう理解したのかはよく分からんが、ルビーは何やらはりきって答えた。


 ルビーに先導されソレルム寮の部屋から退出しつつ、俺はまだまだ溢れ出てきている魔石生物達に意識を流し込む。


 ――しばらくは帝国内で自由に暮らせ。ただし人間は殺すな。新しい拠点が見つかったらお前たちの住む場所をまた伝えるからな。


 ちなみに意識を流し込むと簡単に言ってみたが、『何となくできる気がしたからやってみただけで、実際に伝わっているのかは分からん』というのが本当の所だ。



「父上! さあ、お乗りください」


 壊れたソレルム寮から出ると、キューちゃんがいつでも出発できる準備をして待機していた。


 そのまま俺がルビーと一緒にキューちゃんの背中に飛び乗ると、キューちゃんはすぐに大きな翼を羽ばたかせ、上空へ飛び立つ。


「……なんなの? この騒ぎは?」


 サファイアが不機嫌そうに俺を睨む。む、コイツまた俺に因縁吹っ掛けてきやがったな。


「アダマント様の高度な作戦です。サファイアにはまだ理解できないでしょう」


 ルビーが間髪入れずにサファイアを窘めると、サファイアはまた分かり易く落ち込んでいた。ざまぁ。


 そして俺はふとあることを思い出して、キューちゃんに話し掛ける。


「あ! そうだ! キューちゃん、すまん。学生会執行部の部屋があった場所に寄ってくれないか。ジェム・ゾイダートも念のため回収していくから」


「ジェム・ゾイダート? なぜですか?」


 俺の言葉を聞いて、ルビーが怪訝な顔で聞いてくる。


「ああ、どうやらアイツも魔石みたいなんだ」


 俺が答えるとルビーが驚いた様に目を瞠って呟く。


「まさか……。あの者も魔石だとしたら、どうやって人間の姿に?」


 うーん。そうなんだよな。ルビーもサファイアも俺の人化のイメージを送り込むことで、今の姿になれたのだ。


 ルビーは自力での人化は出来なかったけど、ジェムは自力で人化できたってことか? まあ、俺が出来たんだから他にもできる奴が居てもおかしくないのかもしれんが。


 その辺も聞いてみたいし、とりあえずジェムも連れて行こうと思ったのだったが――。


「父上。この辺りがさきほど父上とジェムが戦っていた場所ですが、ジェムらしき姿はありませんね」


「え? マジで? 氷の柱が無いか?」


「氷の柱? いえ、特にそのようなものは見当たりませんが……」


 キューちゃんの言った通りだった。上空から見る限り、俺がジェムを閉じ込めた氷の柱は無くなっており、ジェムの姿もどこにも見当たらなかった。その後、少し範囲を広げて探してはみたが、やはり見つけることはできなかった。


 ――アイツの事だから自分で氷を溶かして脱出したのかもしれない。かなり好戦的なカンジだったから、生きていればきっとまた戦いを挑んでくるだろうし、まあまた会えるだろ。


「仕方ない。ジェムの事は諦めて、拠点を探すことにしよう」



 俺がジェムの探索を終了する旨を伝えると、ルビーが待ち兼ねていたようにおもむろに口を開く。


「アダマント様。我々の拠点についてですが、ヤジリカヤ山脈を越えた場所に設けるのはいかがでしょうか。ヤジリカヤ越えを成功させた人間はまだいません。山脈の向こう側には人間は居ないかと」


 ルビーの言葉を裏付けるようにキューちゃんも頷いて口を開く。


「ええ。確かにヤジリカヤ山脈の西側には人間は到達しておりません。あちら側であれば我々も人間に気付かれることなく安心して暮らせるのではないでしょうか」


「へぇ……そっか。じゃあ、そこに行ってみるか。ヤジリカヤ山脈は越えられるよな、キューちゃん?」


俺が訊ねると、キューちゃんは笑って言った。


「余裕です、父上」


 さすがドラコーヌ! 頼りになるぜ、キューちゃん!


「お前も異論はないよな、サファイア?」


 一応、サファイアの意見も聞いてみる。コイツ頑固だし。


「別に。人間が居ない場所に行けるんならどこでもいいよ」


 思いの外あっさりとサファイアは頷く。……あ、そっか。こいつヒキニートだから人が居ないところはむしろウェルカムなのか。


 こうして俺達は、ヤジリカヤ山脈の向こう側へ向かうことにしたのだった。











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