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88話 カンブリア爆発的な


「お前……それ」


俺はサファイアが抱える緑色の石を指さす。『樹海の夢』……だよな?


「……あれ? いつの間に?」


 レルワナもキョトンとしたような顔で、サファイアの持つ『樹海の夢』を見て首を傾げる。


「アダマントが光の攻撃に突っ込んで行ったときに、あいつに隙が出来たから貰っただけだよ。探してたんでしょ? コレ」


サファイアが憮然としたまま答えて、『樹海の夢』をルビーに手渡した。


「へぇ。なんだ、もう一人魔石が居たのか。油断したなぁ」


 レルワナが俺達のやり取りを見て、薄い笑みを浮かべながら言った。


「それにさっきの攻撃ではアダム君は壊せないんだね……勉強になったよ。『樹海の夢』も取られちゃったし、今ここで君たち全員を壊すのは少し面倒くさそうだなぁ……。やっぱり私じゃなくて人間に君たちを壊させることにしようかな」


「……なんだと?」


 レルワナの言葉を聞いて、俺は怒りが湧いてくる。


「そうすれば君も人間と馴れ合うのをやめるだろう? とにかく君は私の領域に入り過ぎたんだよ。後悔したって許してあげないからね。人間に壊されるまでせいぜい魔石仲間と馴れ合ってるといいよ。じゃあね」


 そう言って、レルワナが急にその場にバタリと倒れた。


「おい! 待ちやがれ!!」


 レルワナが倒れるのと同時にそれまでレルワナの体から発せられていた圧迫感の様なものが無くなったのを感じて、俺は思わず叫んだ。


「……どうやら、レルワナは別の意識に体を乗っ取られていただけのようですね」


ルビーが素早く倒れたレルワナに近寄り、体中を調べながら呟く。


「そうか」


 俺は怒りを抑えつつ、返事をした。


「ねぇ、一体どういう事なの? どうしてルビーはあいつに襲われていたの?」


「神と名乗る者が人間の体に宿って、父上達を狙っていたという事でしょうか?」


 サファイアとキューちゃんの疑問に、俺はアダマント王国に居た時の事から順を追って『神』についての説明をした。この話はルビーにも話すのは初めてだった。


「夢の声は私も聞いたことがあるので分かります。あの者が『神』なのですか。確かにかなり大きな力を持つ存在だとは思っていましたが……」


キューちゃんが険しい顔で呟く。


「なんだ、結局アダマントが人間と仲良くしたのがいけないんじゃないか。僕達もそのとばっちりを受けたってワケだ」


 サファイアが相変わらずの仏頂面でサラッと酷いことを言う。っつーか、コイツ俺に対しての当たりがキツイよね。何だってんだよ。


「サファイア! アダマント様は人間などというくだらない種族に対しても、広いお心で接しておられるのです。言葉を慎みなさい」


 ルビーがサファイアを叱ると、サファイアはショックを受けた様な顔をして、分かり易くヘコんでいた。ざまぁ。


「……まあ、とにかくだ。今後は人間と接するのはやめる。『神』のヤロウが何を仕掛けてくるかは分からんが、俺達が人間の入ってこられないような土地で暮らせば衝突することもないだろ」


 俺がそう言うと、ルビーは嬉しそうな顔で「異論はございません」と答えた。なんで、そんなに嬉しそうなのかはよく分からんが。


 そしてそんな話をしている時だった。避難してきたのであろう学生たちの声が遠くの方から聞こえてきた。


「あいつらに見つかる前に出発しよう」


 俺達はすぐにドラコーヌ姿のキューちゃんに乗り、その場を飛び立った。


 大きなドラコーヌが飛び立つ姿はさすがに混乱している学生たちでも気付いたようで、口々に空を指さしながら何かを叫んでいた。幸い、キューちゃんに攻撃してくるようなバカは居なかったようでホッとする。


「一度、寮の場所に行ってくれ。ヴァナルカンドとヤジリカヤの魔石を回収していく」


 俺が指示するとキューちゃんは空で大きく転回して、ソレルム寮へと向かったのだった。



「ワオン!!」


 ソレルム寮は無傷の様だったが、ヴァナルカンドが俺達の気配を感じて外に出迎えに来てくれていた。


 そのままヴァナルカンドをキューちゃんの背に乗せ、俺はソレルム寮の自室へ戻り、キューちゃんがヤジリカヤ山に貯め込んでいた大量の魔石を運び出す準備をする。


 その時ふと『わざわざ運び出さなくても、こいつらもヴァナルカンドみたいに変身させればいいんじゃね?』と思いつく。


 今思い返してみれば、その時の俺はなんだかんだできっと大分焦っていたのであろう。咄嗟に思い付いたそのアイディアを熟考せずにすぐに実行してしまったのだ。


 俺はシフを使ってその場にある大量の魔石たちに一気に『人間の姿になった時の感覚のイメージ』を送り込む。


 ……その瞬間、眩いほどの光が発生した。そして何かが爆発したかのような音が響き渡り、部屋の壁が爆散した。


 しばらくは強い光のせいで目もあけられなかったが、少し光が弱まったタイミングで何とか目を開けてみる。――と、俺の目に飛び込んできたのは、とんでもない数の異形の動物たちが次々と生まれ出てくる様子だった。


「やべ……。やっちゃったか? コレ……」


 俺は目の前で繰り広げられる、大量の生物?の発生にしばし呆然とその場に立ち尽くす。しかし立ち尽くしながらも生まれてくる生物?達の姿を見て、ふと場違いに呑気なことを思いつく。


 ――ゲームに出てくるモンスターみたいだなぁ……こいつら。


 魔石たちの姿はとても多彩で、ヴァナルカンドの様に動物に近い姿のものもいれば、人型に近い姿のものもいたり、逆に形を留めないスライムのようなタイプのもの、見たことも無いような形のものなど様々だった。


 その多彩な姿の魔石たちはそれぞれに意思があるようで、姿が完成すると俺の方に向き直りそれぞれがそれぞれの服従の姿勢の様なものを取った後、部屋の外へと次々と出て行った。


 呆然と見守っていると「アダマント様!!」とルビーが俺を呼ぶ声が聞こえた。


「一体、何が起きたのですか!?」


ルビーに問いかけられて、俺は説明に困りつつも思ったことをポロリと呟いた。


「えーと……カンブリア爆発的な?」




 







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