表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/176

87話 戦う魔石


「なあ、ジェム先輩さ。ここで戦うと校舎が壊れちまうと思うんだよな。学生会メンバーの行動としてはあまり良くないんじゃないのかな?」


 俺は先ほどレルワナに攻撃した自分を棚に上げ、ジェムを非難してみる。


「ふっ……学生会か。アイツのお遊びに付き合うのはもう終わりだ。ココが壊れようが、人間が死のうが俺には関係ない。お前もそんなことを気にせず本気で戦え。俺を楽しませろ」


 ジェムはギラついた目で俺を見据えながら答える。


 ――やっぱ、ダメか。面倒くさい奴だな。コイツは。


 俺はふぅと溜息を付く。


 溜息をつきながら周囲の水の精霊に意識を送る。


 ――アイツの足元から凍り付け。


「なに……?」


 足元の冷気に気付いて、ジェムが目を見開く。一瞬でジェムのひざ下は氷漬けになり、ジワジワと氷の面積が広がっていく。


「悪ぃな。あんたの正体は気になるが、今はレルワナを追いかけたいんだ。邪魔しないでくれ」


 腰まで氷漬けになった、ジェムは笑みを浮かべる。


「……水の精霊まで操るとはな。想定以上だよ……アダマント。必ず次はきちんと戦ってもらうぞ……」


 最後の言葉を言い終わらない内に、ジェムは氷の柱に閉じ込められた。


 氷の柱を砕けば、あるいはジェムを殺せるかもしれないが、そこまでやる気にもならなかった。


俺はジェムの氷柱をその場に残し、そのままレルワナの後を追おうとした時だった。


「アダム君……」


 ふいに聞き慣れた声に名を呼ばれる。


「トルティッサか」


 振り返れば奴が居た。一体いつから居たのか。


「キミ達は……一体」


 トルティッサがジェム・ゾイダートの氷柱と俺を見比べながら、絞り出すように呟いた。


「あー、悪い。説明している暇も無いんだ。けど、学院内は危険だから皆を逃がしてくれ。頼んだぞ! 死ぬなよ! じゃあな!」


 俺はただそれだけをトルティッサに言い残し、急いでレルワナが立ち去った方向へ走り出す。


 レルワナを倒したらもうこの学院から立ち去るし、トルティッサにももう会うことは無いだろう。今のがきっと別れの言葉になる。何となくトルティッサには生き延びて欲しかった。


 神の話を真に受けるなら、トルティッサの因果も俺は変えてしまったのだろうか? 因果ってなんだ? 変えたらどうなるんだ? 変えちゃいけないのか?


 答えの出ない疑問をグルグル考えながら、俺は走った。


 俺の居る場所から、反対側の校舎の端の方で爆発するような音がして、黒煙が上がった。


「あそこか」


 俺はシフを纏って、校舎の屋根までフワリと飛ぶ。目を凝らすと黒煙の上がる校舎から大勢の学生が逃げ出してきていた。


 そのまま黒煙の方角へ向かって、校舎の屋根伝いに走る。


 ある程度近付いたところで、ドラコーヌの姿に戻ったキューちゃんとルビーが、レルワナと戦っている様子が見えた。


 ――パッと見てすぐに、二人が苦戦しているのが分かった。レルワナは余裕の表情で二人の攻撃を躱しながら、何かを探しているようだった。


「キューちゃん! ルビー! すまない。遅くなった」


 屋根から飛び降りて、二人に声を掛ける。


「父上!」「アダマント様!」


「あれ? もう来ちゃった……思ったより早いなあ。もうジェムを殺しちゃったの? ――ああ、まだ死んではいないみたいだね。どうやって足止めしたのかな?」


 レルワナが驚いた様に口を開いた。


「うるせー。それよりも自分の心配をした方が良いんじゃねーのか?」


 俺はレルワナの呑気な物言いにイラつきながら言葉を返す。


「ふふ。私は大丈夫だよ。もう探し物も見つけたし」


 レルワナは俺の挑発など意にも介さない素振りで楽しそうに笑いながら、右手に持つ大きな緑色の石を左手で撫でた。


「あれは……」


 俺は思わずルビーの方を見る。ルビーも驚いた様な表情をしながらも頷いた。


「『樹海の夢』です」


 ルビーが頷きながら呟く。


「そう。私もこれを探していたんだ。アダマント君に会って、魔石について改めて知ろうと思ってね……」


 よく見るとレルワナの足元には瓦礫に挟まれて、血を流すテリルワムリが倒れていた。――俺の視線の先に気付いて、レルワナは悲し気に口を開く。


「彼も魔石に関わらなければ、こんな最期を迎えることも無かったのに……哀れだね」


「ちっ。なんでもかんでも俺達のせいにするんじゃねーよ」


 俺の言葉にレルワナは肩を竦める。


「僕は事実を言ったまでだよ……アダマント君。君達のような魔石に、これ以上僕の大切な生命達にちょっかいを出して欲しくないんだよ」


「俺達がどう行動しようが、お前に文句を言われる筋合いはねー」


「話にならないね……もういいよ。ここで君たちは全て壊していくことにしよう。もう二度と動けないようにね」


 そう言った途端、強大な力がレルワナの体から漏れ出してきた。魔法とも違う不思議な力だった。


 ――なんだこの力!?


 思わず身構えた俺から視線をすぅ……と外し、


「まずは君からにしようかな」


 レルワナがルビーに視線を向ける。


「ルビー!! 逃げろ!!」


 俺の声でハッとしたルビーは、逃げる態勢を取る――が、


「そう簡単に逃がさないってば」


 そう言ったレルワナの視線に捕らえられるように、ルビーの体が硬直した。レルワナはそのまま左手をルビーに向けると、まぶしい光を放つレーザー光の様なものを打ち出した。


 ――魔法じゃ間に合わない!!


 咄嗟にそう思い、俺はレルワナとルビーの間に走り込み体を張って、レルワナの発した光を受け止める。


「ぐ!!」


 激しい衝撃が俺の肩を掠めていく。止めることはできなかったが、光の軌道は変えられたようだ。


「アダマント様!!」


 衝撃で横に弾き飛ばされた俺の背後で、ルビーの悲痛な声が響く。


「ルビー!! 無事か?」


 俺はすぐに立ち上がり、ルビーに話し掛ける。制服は破けてしまったが、肩は大丈夫なようだ。


「は、はい!」


 俺の声を聞いて、ルビーがほっとしたように答えた。それと同時にもう一つ違う声が響いた。


「ねえ、何やってるの?」


「……サファイア!」


 いつの間にかルビーの隣に、深青色の髪をなびかせたサファイアが憮然とした表情で立っていた。


 そして、その手には緑色の大きな石が抱えられていた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ