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86話 敵の正体


「おまえが! シャルのことを!!」

 

 俺は激昂して魔力を解放し、レルワナへ向けてシフの刃を飛ばした。


 シャル、デュオル、リムシュ。やっと『神』を見つけたぞ! こいつを倒して、借りを返してやる!!


 俺の魔力解放の衝撃で部屋の窓ガラスが割れて、ガラスの破片がキラキラと外へ飛び散った。部屋中に書類が舞い散り、視界が遮られる。


 左手を横薙ぎに振り切って、目の前で舞い乱れる書類をシフの風で吹き飛ばす。


 視界が開けた瞬間、俺とレルワナの間に誰かが立っていることに気付いた。


「――ジェム・ゾイダード……」


 俺はレルワナを守る様に立っている人物の名を呼ぶ。……コイツ、俺の魔法を止めた?


「……お前の相手は俺がする」


 ジェム・ゾイダードはそう呟くと、銀髪をサラリと揺らしてゆっくりとこちらへ近づいてくる。その口元には笑みが浮かんでいた。


「じゃあ、ここはよろしくね。ジェム」


 レルワナはそう言って、副会長席から立ちあがり部屋の出口へ向かっていた。


「待ちやがれ!!」


 俺が追いかけようとすると、俺の前に素早くジェムが立ち塞がった。


「お前の相手は俺がすると言っているだろう?」


 そう言ってジェムが右手から放ったのは、俺の魔法によく似た風の魔法だった。


「ぐっ!!」


 俺は、至近距離から腹にシフの刃の直撃を受けて、後方に吹っ飛ばされる。……魔法? 俺は壁に背中を強打しつつ、ジェムの魔法になにか違和感を感じる。


「くっそ、不意打ちかよ。ひでーな、ジェム先輩」


 俺は衝撃で壊れた壁の瓦礫を押し退けながら立ち上がり、ジェムを睨みつける。


「なるほど。今のを喰らっても壊れない……か。さすがに硬いな」


 ジェムが顎に手を置き、飄々と俺を観察するように眺めながら呟いた。


「アダム様!!」


「来るな!!」


 飛び出してこようとするルビーを制止する。


「お前達はレルワナを追いかけろ! 絶対に逃がすな」


 まだ、こちらに来ようとするルビーの胸の間からキューちゃんが顔を出して、俺に向かって言った。


「分かりました、父上! 我々はレルワナを追います!」


「おう! すぐに追いつくから足止め頼んだぞ!!」


 俺はジェムに視線を固定したまま、キューちゃんとルビーに大声で指示をする。


 ようやくルビーも厳しい顔で頷き、レルワナの立ち去った方向へ走って行った。


「すぐに追いつく……か」


 ジェムがフッと笑って、一歩進み出てくる。その手元には風の精霊が舞い乱れていた。


 俺は、さっきジェムがシフを放った時に感じた違和感の正体に気付く。ジェムが魔石を使わずに魔法を使っていることに……。


「お前……魔石か?」


 俺の言葉にジェムは少しだけ笑みを浮かべて答える。


「ああ、そうだな」


 ジェムはあっさりと俺の質問を肯定し、更に衝撃の言葉を続けた。


「やっとお前と戦えるんだ。せいぜい楽しませてくれよ……アダマント」


「!! なぜ、その名前を……?」


 俺の動揺のスキを付いて、ジェムが一瞬で俺の懐に入り込んだ。ジェムの右手に集まっていたシフがドリルの様に小さな竜巻を作っているのが見える。


 ――やっべ!!


 咄嗟にジェムの手元のシフ達に手を伸ばし、ジェムの手元から引き離す。引き離した一部のシフ達が俺の管理下に入り、ジェムのシフとぶつかる。


 その瞬間、俺とジェムの間から爆発のような衝撃が放射状に広がった。轟音とともに学生会室のあらゆるものが薙ぎ払われるように吹き飛ばされ、壁面にぶつかる。壁面まで風圧が届くと、壁面全体に一瞬にしてひびが入り、四方の壁が崩れ始めた。


 ――この部屋が崩壊したら、建物自体が崩れるかもしれない……。俺は崩れかけた天井を見上げながら、素早く土の精霊を集めて石柱を数本発生させ、床から天井へと繋ぐ。


 何とか崩落を免れた天井を見上げていると、低い笑い声が聞こえた。


「はは……。俺の管理下のシフを魔法発動中に奪うだと……? そんな魔法があるのか……面白い。面白いな……」


 ジェムが先ほどよりも更に凄絶な笑みを浮かべて、ブツブツと何かを呟いている。うーむ、なんかヤバい感性に触れてしまった予感。


「フフ……しかも、土の精霊も従えているのか……フフフ……」


 ジェムが今度は俺の作った石柱を撫でまわすようにねっとりと見つめる。怖いよ、おい。


「お前はあと何が出来るんだ? 楽しみだな……さあ、アダマント続きをやろう」


 ジリジリと間合いを狭めながら、ジャムが近付いてくる。


 ちょ……。絶対コイツ、あぶねー奴だ。だって、笑顔がヤバい奴の笑顔だもん! 極力、関わりたくないんですけど!!


 ――おまわりさーーんこっちです!!!!




 俺の心の叫びは誰にも聞こえなかった……。








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