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85話 犯人は〇〇


「キューチャン様。やはり犯人は一番始めにアダム様に話し掛けてきたシュリアルラなのではないでしょうか?」


 ルビーの言葉を無視してキューちゃんはさっきから何かを考え込んでいる。ルビーの胸の隙間に挟まれながら……。うらやまけしからん。ってか、視線をどこに向ければいいか分らんから、そこに居座るのはやめて。


「さっきからどうしたんだ、キューちゃん?」


 俺はキューちゃんをさりげなく掴み上げて、ルビーの頭の上に置き直す。


 俺の質問にキューちゃんは慎重な感じで口を開いた。


「実は、例の不穏な気配なのですが……。以前にも感じたことがあるのです。……ヤジリカヤの山頂に居た時です。丁度、父上に再会する少し前に……私の夢に侵入してきた者の気配に非常によく似ているのです」


「……夢に侵入?」


俺は思わず呟く。夢に侵入してくるヤツと言えば、なんだか心当たりがあるんですけど。


「な、なあ。キューちゃん、そいつは自分のことを『神』だって言ってなかったか?」


 俺は思わずキューちゃんを抱え上げ、勢い込んで確認する。ようやく尻尾を出してきやがったか? あのヤロウ。


「い、いえ……。特にはそのようなことは」


キューちゃんは俺にブンブン揺すられて、困ったように答える。


「じゃあ、どんな声だった? なんだかかったるそうな若い男の声だったか?」


 俺は記憶の中の神の声を思い出しつつ、キューちゃんにさらに質問を重ねる。俺の勢いに目を白黒させながらキューちゃんが答えた。


「か、かったるそうかは分かりませんが、憂いを帯びた様な若い男の声ではありました」


 その言葉を聞いて俺は確信する。絶対『神』のヤロウだ!! キューちゃんの夢にまで入り込んでやがったのか。 しかも……今、この学園に居るかもしれないってことか!


「やっと借りを返せるぜ」


 俺は思いもよらず出てきた『神』の物らしき情報にニヤリと笑みを零す。


「ア、アダム様……?」


「父上?」


 ルビーとキューちゃんが怯えた様に俺を呼ぶ。今、自分が凶悪な顔してるってコトはなんとなく分かる。


「と、とにかく。犯人の近くまで行けば、隠しきれない微量な魔力を知覚することが出来ると思いますので、まずは怪しい人物に一人一人近付いてみましょう」


 キューちゃんはそう提案すると、俺の手の中でバタバタっと体を捩り、ルビーの胸元へピョンッと飛び移った。……ああ、やっぱりそこがいいんだ。


「ではまずは、シュリア……」


「レルワナ・シュパナテイクにしましょう。……シュリアルラは先ほど直接会った時に既に白だと判明しております」


 ルビーの言葉に被せてキューちゃんが言い放った。おお、キューちゃん仕事が早いぜ。


「午後の講義が終われば、レルワナは学生会執行部の部室へ行くはずだ。そこで確認しよう。上手くいけば、ルルリナとジェムとマシュラ先輩も執行部に来ているはずだから一石四鳥だ」


 俺の言葉にキューちゃんは頷きながら、また口を開く。


 「マシュラ・カシュカも以前会った時には、普通の人間の気配だったように思われますので、恐らく白かと」


 キューちゃんの言葉に俺は驚きつつ、安堵する。……安堵するだなんて、どうやら俺はいつの間にか魔石クラブに結構な愛着を持っているみたいだ。


 しかし、これで容疑者は3人に絞られたってことか。


 午後の講義が終わるころ、俺達は連れ立って学生会執行部の部屋へ向かった。もちろんキューちゃんは見つからないようにルビーの胸元に隠れている。


 学生会執行部の部室内をコソッと覗き込むと、一番上座にある副会長席にレルワナ先輩が座って書類に目を通していた。室内には他に誰も居ないようだ。


 「アダム君? 待っていたよ」


 その時、ふいにレルワナ先輩が書類から顔を上げ、俺達の隠れている方向へ視線を向け、いつも通りの落ち着いた低音ボイスで話し掛けてきた。


 ――待っていた?


 レルワナ先輩の言葉に違和感を感じ、ルビーの方へ視線を向けると胸元からキューちゃんが顔を出し、蒼白な顔で俺の目を見つめた。


 ……黒ってことか? レルワナ先輩が……? いきなりビンゴ?


 「隠れていないで出ておいでよ」


 俺はルビーに目線で『ここに居ろ』と合図を送り、一人で室内に入った。


 「よく俺だって分かりましたね。レルワナ先輩」


 副会長席に近づきながら、レルワナに話し掛ける。レルワナが手に持っていた書類を机に置いて、手を胸の前で組み顎を乗せる。


 「君のトカゲ君に気付かれたことは分かっていたからね。そろそろ来る頃だと思ったよ」


 「!!」


 レルワナはキューちゃんの事も知っている? 想定外の言葉に俺は一気に警戒を強める。いや、けどよく考えれば、さっきのキューちゃんの夢の侵入者の話が繋がっているのなら、知っていてもおかしくないのか?


 ……やっぱりコイツが!


 「ふふ。思ったより早くバレてしまったなぁ。もう少し人間生活を楽しんでみたかったんだけど……。アダム君とももう少し先輩後輩ゴッコしていたかったな」


 レルワナが目を細めて笑った。


 「お前は……誰だ?」


 俺はイラつく気持ちを抑えて、出来る限り冷静にいようと心掛けつつレルワナに尋ねる。


 「あれ? 分からない? 大体、予想はしているだろう? 君も酷いよね。無意識に僕から僕の物を奪っていくんだから。そのことに君は気付いてる? ああ、無意識だから気付いてないかな」


 レルワナは笑顔を湛えながら、挑発するように俺の顔を覗き込む。


 落ち着け、落ち着け。まだはっきりとは分からない……。俺は一生懸命荒ぶる自分の心を落ち着かせようと努力する。


 「……何のことだ?」


 俺の答えにレルワナの眉がピク……と動く。


 「……君は魔石のくせに人間と繋がり過ぎるってこと。もう人の因果を変えるのはやめてくれないかな」


 聞き覚えのあるそのセリフで、俺の冷静さは一瞬で失われた――。










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