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83話 トラブルもコミュニケーションの醍醐味……とは思えないよね、実際。

 

「……ル、ルビー?」


 あまりの剣幕に俺は若干ビビった。


 プライベートルームに飛び込むように入ってきたルビーの周りにはサラマが飛び交い、同時に室内には怒気をはらんだ凶悪な熱気が流れ込んできた。


「熱い……!」


 シュリアルラが驚いた様に声を上げると、ルビーがジロリとシュリアルラを睨みつけた。


「アダム様に害をなそうとするのはあなたですか……」


 身に纏う熱気とは対照的に、冷ややかな声をルビーが放つ。途端に八寒地獄もかくやの寒冷な空気がプライベートルームに満ちる。


「おい。落ち着け! ルビー! これはそういう事じゃない!!」


 どういう事じゃないのか自分でもよく分からんが、とにかく殺気立つルビーを止めなくてはシュリアルラが無事では済まないだろう。


 俺は急いで立ち上がり、ルビーとシュリアルラの間に立ちはだかる。


「アダム様? その者を庇い立てされるなんて……! 操られていらっしゃるのですね?」


 ルビーが愕然とした表情で叫ぶ。


 ……一体ルビーはなんの勘違いをしているんだ? 俺はルビーの前に立ちながら、目線と手ぶりでバトラーにシュリアルラを外に連れて行くように指示をする。


 バトラーは俺の指示に気付くとすぐにシュリアルラの腕を引き、プライベートルームの外に連れ出してくれた。うむ、さすがはプライベートルームのバトラー。落ち着いた避難誘導だ。



 よっし。何とか修羅場は回避できたか――。


 俺はバトラーとシュリアルラが離れたのを確認すると、「はぁ」とため息をついてルビーの頭にポンと手を置く。


「……よく戻ったな、ルビー。変わりはないか?」


 とりあえずルビーを落ち着かせるために、俺は労いの言葉を掛ける。俺の言葉と行動にルビーは目を見開いたかと思うと、途端に顔を真っ赤にした。


「アダマント……様?」


 と、小さな声で呟いたかと思うとあからさまに慌てだした。


「あ、あの! 敵に操られている訳ではないのですか?」


「んなわけねーだろ。誰だよ、敵って」


 俺のぶっきらぼうな言葉にルビーはホッとしたように力を抜いた。すると凶悪な動きをしていたサラマも急激に動きを弱め、窓の外へフワフワと飛んでいった。


「しかし先ほど教室に行ったところ、クラスの女子たちがアダム様がシュリアルラに拉致されたと口々に……」


 ルビーは恥ずかしそうに、しかし解せないと言った顔をしながら、もごもごと言い訳を口にする。


「あのなぁ。そんなの言葉の綾だろーが……」


「も、申し訳ございません」


 俺が険しい顔をしたのを見て、ルビーは慌てて頭を下げた。


「まあ、いいや。で、帰ってきたってことは、サファイアの件は上手く処理できたのか?」


 俺はルビーが留守にしていた本題を振って、その話題から話を逸らした。別に後ろ暗い所がある訳では無いが、シュリアルラをランチに誘った云々の話をするとまたややこしくなりそうな気がするし。


 この剣幕だと、ルビーが他の女子生徒を威嚇してたってのは本当だったんだろうな……。俺は以前トルティッサ達に教えられたことを思い出し苦笑いを浮かべる。


 当のルビーはそんな俺の心中に気付く訳もなく、至って真面目に報告をする。


「はい。そちらの方は抜かりなく。サファイアについてはアダム様の母親違いの弟ということで、学院には無事登録を済ませました」


 ややドヤ顔のルビーの言葉を聞いて、俺は遠くイスカムルの地に居るラナムナにも思いを馳せる――。


 ……ラナムナのオッサンには苦労掛けるな。帝国の婚姻制度については詳しくは知らんが、俺達のために一度ならずに二度までも身に覚えのない認知をさせられて。


「……いかがいたしましたか? アダム様」


「いや、何でもない」


 まあもう終わったことは気にしても仕方ない。せいぜいラナムナのオッサンが成仏できるように(死んでねーけど)、出来の良い息子を演じるよう努力はしよう。


「で、そのサファイアはどこにいるんだ?」


「はい。既に転校手続きを済ませて、教室で授業を受けている頃かと思います」


 朗らかに報告するルビーの言葉で、俺は既に午後の授業が始まっていることに気がついたのだった――。






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