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79話 銀髪の青年

 

「どっちに行ったんだ?」


 裏口を開けると、連れ立って出て行った男たちの姿は見えなくなっていた。後ろから追いついてきたトルティッサが辺りを見回しながら呟く。


 まだそんなに遠くには行っていないはずだ。俺は出て行った男たちの形跡がどこかに残っていないか素早く辺りの様子を探る。


「ぎゃ!!」


 その時、一本の路地から短い悲鳴のような声が漏れ聞こえた。


「!!」


 俺は悲鳴の聞こえた路地に向かって走る。今の悲鳴はヤバい……間に合わなかったかもしれない。嫌な予感が胸を掠める。


 けど、もうここまで来たら例えさっき絡まれていたのがジェム先輩じゃなくても、なんとか助けてやりたいと腹を括る。


 くそ、こんなことなら魔石ロッドを持ってくるんだったな。出かける直前に少し迷ったが、まあ魔法を使うことはないだろうと部屋に置いてきてしまった。ロッドが無くても魔法は使えるけど、魔石ナシで魔法を使えることを知られたら色々と面倒臭い。


 特にトルティッサには一度盗賊と戦っているところを見られてしまっている。今の所、あの件については深く追求されてはいないが、これ以上、人間離れした力を見せるのは避けた方が無難だろう。


 後ろから追いかけてくるトルティッサをチラリと振り返りながら考える。トルティッサがいる以上、魔法を使って戦うのは無しだな。俺は心を決めて路地に入った。路地の先は建物が崩れた跡地だった。


 ――その場所に入り込んだ瞬間、俺の視界に飛び込んできたのは血塗れの巨体を片手で持ち上げる、銀髪の青年の姿だった。俺はその美しくも残酷な絵画のような光景に思わず目を瞠る。


 空に掛かる大きな月の光が青年の銀髪を照らす。柔らかく生暖かい風がフワリと吹いたかと思うと銀髪がキラキラと宝石のように輝いて揺れた。


「――ジェム先輩?」


 俺は掠れる様な声で青年に呼び掛けた。青年が銀髪をサラリと揺らしてゆっくりとこちらを見る。その口元には笑みが浮かんでいた。


「アダム君!! 大丈夫かい!」


 声を掛けられて、ハッとトルティッサの方に気を取られた瞬間、ドサッと音がした。慌てて視線を戻すと血塗れの巨体が地面に崩れ落ち、銀髪の青年の姿は幻だったかのように消えていた。


「一体、これはどうしたことだ……」


 その路地に広がる惨状を見たトルティッサが絞り出すように呟いた。


 ……


 ……


 ……



「――で、あそこに居たのはやっぱりジェム先輩だったのかい?」


 トルティッサがパスタの様な麺料理を口に運びながら、俺に訊ねる。


「……いや、よく分からなかった」


 そうとしか答えられない。確かに背格好も似てたし、こちらを見た面差しもジェム先輩だったと言えばそんな気もする。しかし、ならばなぜ俺達の前から姿を消す必要があるのだろうか? 


 ――いや、あるか……。俺はあの時の路地の状況を思い出す。あの客に絡んでいたマフィアの男たちは、全員殺されていた。そう……あの短時間で、だ。全員キレイに首の頸動脈を一閃されて事切れていた。人間業とは思えん。


 ジェム先輩だとしたら……不可解なのはそれだけじゃない。


 先日執行部の顔合わせで紹介された、色白で寡黙そうな先輩の印象と全く結びつかない、あの凄絶な笑み……。俺ですら震えを感じたくらいだ。とても貴族の坊ちゃんが出来る表情では無かった。


「そうか。まあ、次に先輩に会った時に念のため聞いてみるか」


 トルティッサは短くそう言う。もし本人だとしても、聞いたところで答えてくれる訳はないだろう。俺はそう思いつつも、


「そうだな」


 とだけ答えて、すっかり冷えた酒場の料理を口に運んだのだった。







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