75話 リア充になる決意
『魔石学原論』の未読ページに目を落としながら、ルマティ部長の忠告について俺は改めて考える。
どうやら俺は令嬢と言う名のハンターたちに狙われているらしい。――いや、らしいというのは建前だな。
うん、認めよう。俺はモテているみたいだ。そうではないかと薄々は気付いていた。スマン。カッコつけて気付かないフリをしていたと言われればそうかもしれない。
けど、冷静に考えれば、まあモテるのも当然だろ。――ハイ、そこ! ナルシストとか言わない! 聞こえてっからな。
違う違う。自分に酔っている訳じゃないぞ。マジで客観的に見て、デュオルの容姿はイケメンだってことだ。それに加えてだ……いいか? 15歳未満は耳塞げ……いや目をつぶれよ。残酷な描写いくからな。
家柄! 親の職業! 金! 学業成績! イコール将来性!!! Do you understand!?
ふー、すまん。少し取り乱した。そう、つまりあれだ。今の俺はそういう意味でもチートってことだ。え? なんか違う? うっせ。細けーことはいいんだよ。
魔石を探すのに役立つんならこのチート力を使うのも吝かではあるまい。うん、前言撤回しよう! 目的を忘れさえしなければリア充になったっていいじゃない。人間だもの!(今はね)
『樹海の夢』が見つかるまで、テリルワムリのご機嫌取るなんてのもかったるいし。むしろアイツに俺が居ないと困るってくらいに思わせればいいんだ。
せっかくめんどくせーのにわざわざ執行部に入ったんだ。思いっきり利用してやる。んで、さっさと魔石見つけて、おさらばしよう。そーだそーだ、どうせおさらばするんだから、人間関係が多少拗れようとも構わねーしな。
そこまで考えが至った所で、なんだか急に肩の力が抜けた気がした。なんだか日本人的真面目気質がまだ俺に残っていたみたいだ。もう俺は前世の俺じゃないんだ、今回こそは好きなように生きてみよう。
「ルマティ部長。俺、今日はもう帰ります」
俺は全く読み進めなかった『魔石学原論』をパタンと閉じて顔を上げた。俺の言葉に、魔石を見ていたルマティ部長も顔を上げてにっこりと笑って答える。
「ええ、構わなくてよ?」
「あ、この本は借りていっていいですか?」
俺は右手に持っている『魔石学原論』を少し持ち上げる。魔石クラブの蔵書だ。今日は全然読めなかったけど、内容は興味深いので続きは今日の夜にでも早く読みたい。
「ええ、もちろんよ?」
「ありがとうございます」
俺はルマティ部長の返答を聞くとすぐに第五演習室を出た。
今の所、俺の弱点はコミュニケーション能力の低さだ。人と話すのがめんどくさいので極力避けてきたが、リア充になるには避けて通れない道だ。ってか、効率的に『樹海の夢』の情報を集めるのには、必要な能力だろう。
ふと、前世の弟の言葉が蘇る。
「兄貴はさ、人と話す時に構え過ぎなんだよな。どうせ、どうやって話題を繋ごうとか、気の利いた話をしなければとか、余計なこと考えているんだろうけど、結局それって人の話を聞いていないだけなんだよ。それじゃ、かえって話は続かないって。まずは相槌打つだけでもいいから相手の話を聞いて、よく相手を観察すること」
そう言えばリア充の弟にコミュニケーションのコツを聞いてみたことがあったっけ。はー、俺も進歩してねーな。
しかも当時はそれが出来るのはお前がイケメンだからだろ……とか、自分で質問しておきながら斜めに見ていた。けど、今ならアイツの言っていたことも分かる気がする。
よし、まずは実践あるのみだ――。




