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72話 コミュ障あるある

 

 次の日の朝、俺はいつものように男子寮から教室へ向かって廊下を歩いていた。


「やあ、アダム君! おはよう! 今日も爽やかな朝だね」


 相変わらず気取ったセリフ回しでトルティッサが近付いてきた。ち、朝から鬱陶しい奴に会ってしまった。


「おはようございます、アダム様」

   「おはようございます、アダム様」

      「おはようございます、アダム様」


 おお、トルティッサのゆかいな仲間たちが久しぶりに復活しておる。微妙にズラして挨拶をしてくる辺り、こちらも相変わらず鬱陶しい。輪唱かよ。


「……おはよう」


 俺は優等生として、最低限の体面は保とうと努力はした。しかし、これが限界だ。俺は手短に挨拶をすると四人を素通りして、サッサと教室へ向かう。


「ハハ! 本当にアダム君はクールだね。ますます女生徒達の間で人気が高まってしまいそうだな」


 トルティッサが軽口を叩きながら、俺の後に付いてくる。いや、だから何で当然のように付いてくるんだよ。コイツは。


「きゃ、アダム様とトルティッサ様よ」


「わ、ホントだわ。アダム様、トルティッサ様、おはようございます」


「え、ズルい! 私も……アダム様、トルティッサ様、おはようございます!」


 クラスメイトと思しき面識のある女生徒達が、早歩きをする俺達を見て挨拶をしてくる。これも前は見られなかった光景だ。


 前は俺やルビーが廊下を通っても誰も挨拶なんてしてくれなかった。むしろ不自然に学生たちが道を空けていたように思う。ササっと急いで避ける感じで。これもルビーの威圧が無くなった効果なのか? ……まさか、トルティッサの人徳とかじゃないよな?


 俺がそんなことをぼーっと考えながら早足で歩いていると、廊下の曲がり角から誰かが飛び出してきた。


「キャッ……!」


 甲高い悲鳴が聞こえ、俺は思わず飛び出してきた誰かを抱きとめる。


 俺が抱きとめたのは黒髪の小柄な少女だった。――おお? デジャヴ?


「……ルルリナ・シュパナテイク?」


 俺は昨日覚えたばかりの名前を呟く。すると少女も俺の顔を見て驚いた様に目を瞠って呟いた。


「ア、アダム様!?」


 ルルリナはまたパッと顔を赤らめたかと思うと、両手で頬を押さえて俯いた。


「も、申し訳ございません。昨日に引き続いてまたご無礼を……」


 慌てるルルリナを見て、俺は自然に顔がほころぶ。――その瞬間、周りにいた女生徒達が何やら色めき立ったことに俺は気付いていなかった。


「いや、俺の方こそすまない。少し考え事をしていた。怪我は無いか?」


 ルルリナの体を支えて、立たせてあげる。俺がぶつかっただけでも壊れてしまいそうな華奢な体だ。少し心配になって尋ねる。


「だ、大丈夫です……」


 昨日と同じように消え入りそうな声でルルリナが答える。良かった、怪我はさせてないみたいだ。俺はほっと胸を撫で下ろす。


 しかし油断は禁物だ。事故直後は神経が昂っていて、怪我に気が付かないとかあるらしいからな。もし後から怪我に気付いたら病院くらいには連れて行ってやらないとマズいよな?  俺がぼーっとしちゃってたのも悪いし。


 ――そんなことを考えていた時、始業の鐘が鳴り始めた。うお、もうそんな時間か!?


「それじゃあ、もう行くけど……もし後から何か異常に気づいたら遠慮なく言ってくれ。責任は取るから」


 俺が慌ててそう伝えた途端、ルルリナが傍目にも分かるほど一瞬にして真っ赤になった。そして周りにいた女生徒達から悲鳴にも似た声が上がった……あれ? なんだ、この反応?


 ルルリナと周囲の反応が気になりつつも、すぐに授業が始まってしまうので俺はそのまま急いで教室へ向かったのだった。


 教室へ向かう途中、一部始終を見ていたトルティッサが俺と歩調を合わせながら話し掛けてくる。


「ふむ。責任を取るだなんて。アダム君はルルリナ嬢を嫁にでもする気かい?」


「は? なんでそうなるんだよ?」


 俺はトルティッサの言葉に驚いて、思わず素で言い返してしまう。


「おや、違うのかい? 随分仲も良さそうだから、てっきりそうかと思ってしまったよ……ふーん……そうか、違うのか。だとしたら君は随分罪作りだね」


 そう言ってトルティッサはくすくすと笑った。……どういう意味か小一時間問い詰めたい気もするが、トルティッサがますます調子に乗りそうなので止めておく。


 しかし、さっきのルルリナと周囲の反応から察するに、俺が何か罪作りなことを言ってしまったことは事実なのかもしれない。トルティッサの言う通り。


 『責任を取る』がマズかったのか? 『念のため医者に診てもらった方がいい』とかの方が良かったか? いや、けどそれは無責任だよな? むしろ余計なことは言わずに立ち去った方が良かったのか? いやいや、あの場面で何も言わずに立ち去ったら、ひき逃げ的なカンジになっちゃうだろ? 


 俺は答えの出ない一人脳内反省会を続けながら教室へ入る。そして、一通り反省会をした後、今度は先ほどのトルティッサの言葉と自分の発した言葉を反芻する。


『責任を取るだなんて。アダム君はルルリナ嬢を嫁にでもする気かい?』


『もし後から何か異常に気づいたら遠慮なく言ってくれ。責任は取るから』


 もしかして「責任を取る」=「嫁にする」って解釈されるの? いやいや、無いだろ? 無い……よな?


 しかし、その瞬間ルルリナの真っ赤な顔が思い浮かぶ。



 ――俺は大声で叫びながら、床を転がり回りたい衝動に駆られた。








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