挿話 イスカムルへ向かう道中の話~ルビーとサファイアとキューちゃん~
視点が変わります。
遠く霞む山の稜線を柔らかな朝日が照らし出した。
ハッティルト帝国の首都ヒットゥイからイスカムルへ向かうルビーとサファイアは、飛翔するキューちゃんの背の上で夜明けを迎えた。
真正面から昇る朝日にルビーは目を細める。その時、ふとキューちゃんの背中で日の光を受けて輝く黒い欠片に目を止めた。
ドラコーヌの逆鱗。アダマント様の欠片。
ルビーは、キューちゃんを紹介された時のアダマントとの会話を思い出した。
『ああ、えっと。長くなるからあとから説明するけど、この子はキューちゃんって言うんだ。昔、俺と一緒に生活してたんだ』
『なるほど、同居人……ですか?』
『うーん。どっちかって言うと子供、かな?』
アダマント様の子供……。ルビーの胸がチクリと痛む。なんだろう、この胸の痛みは?
ルビーは思わず口を開いた。
「キューチャン様。……アダマント様はキューチャン様のお父上なのですよね?」
「ええ。そうです」
キューちゃんが誇らしげに答える。
「あの……では、お母上は?」
ルビーは震えそうになる声を抑えながら、ずっと胸に引っかかっていた疑問を口にした。なぜこの質問をするのにこんなに勇気がいるのだろう。
知りたいような知りたくないような……ルビーは自らの心の動揺の意味が分からず戸惑っていた。
「え? 母上ですか? さあ……私は卵から生まれたので、母上にお会いしたことはないのです」
キューちゃんの答えにルビーは肩の力が抜ける。
「そう、ですか」
あからさまに肩を落とすルビーを横目で見て、サファイアが口を挟んだ。
「あのさ、ルビー。ドラコーヌとアダマントが血が繋がってる訳ないでしょ? 育ての親って意味の父上だろ? ねえ、ドラコーヌ?」
「え? まあ、そうですね。 卵から孵ったばかりの私を父上が育ててくれたんです」
サファイアに問われて、キューちゃんは朗らかに答える。
「そ、そうなのですね!」
ルビーは安堵して呟いた。自分でもなぜこんなに安堵しているのかは分からないが、とにかくホッとしていた。
サファイアはそんなルビーを横目で見てため息をつく。
「あんな奴のどこがいいんだか……」
サファイアの呟きはすぐに風にかき消され、誰の耳にも届かなかった。
「さあ、もうすぐイスカムルに到着しますよ。町から少し離れた場所に下りたほうがいいですよね?」
キューちゃんが翼を羽ばたかせながら、ルビーに尋ねる。
「そうですね。よろしくお願いします」
ルビーが答えると、キューちゃんは頷いて着陸態勢に入った――。




