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70話 兄弟は似ているという当たり前の事実を突きつけられて愕然としてみる

 

「ここが学生会長室だ。今の時間ならテリルワムリ様もいらっしゃるはずだから」


 レルワナ副会長の心地よい低音ボイスが誰も居ない廊下に響く。


 俺が学生会執行部に入ると決めた日の放課後、さっそくレルワナが俺とトルティッサをテリルワムリ会長に会わせると言って教室まで迎えに来たのだ。


 俺的には大変面倒くさいが、『樹海の夢』に近づくにはまずはテリルワムリに近づかねばならぬということで、仕方なくついてきたのだ。


「失礼いたします、レルワナです。例の一年生二人を連れて参りました」


 レルワナが会長室のやけに立派な扉を叩く。魔石クラブの部室の扉よりもなんだか重厚で立派な扉だ。


「……ああ、入れ」


 少し不機嫌そうな声が聞こえる。


 俺達がレルワナに先導されて部屋に入ると、大きな窓を背にして巨大な執務机にふんぞり返って座る青年が居た。


 ――うわー。すげー見たことある顔だなぁ……。 


『我が名はピトーハ。ハッティルト帝国第一皇子である。……レオ王よ。大人しく降伏するがよい。さすれば城内に残る者たちは助けてやろう』


 俺の脳裏にアダマント王国が滅びた時の嫌な記憶が蘇る。 


 目の前にふんぞり返って座る青年は、あの時ピトーハと名乗った騎士にそっくりであった。



「この度は執行部にご指名頂きありがとうございます。私がトルティッサ・バンドルベルと申しまして、こちらがアダム・イスカムルです」


 レルワナに促されてトルティッサが挨拶をする。


 部屋に入った瞬間、俺があからさまに嫌そうな顔をしたことにトルティッサは気付いたようだ。余計なトラブルを避けるための本能なのか、サラリと俺の事も一気に紹介する。


 おお、フォローするという言葉は本気だったんだ……と、俺はトルティッサを感心して眺める。


 トルティッサが空気を読まなかったら、俺の態度の悪い名乗りで、このピトーハの弟と早くも一悶着起こしていたかもしれない。


 そんな緊迫した雰囲気の中、青年は俺達をジロリと見ると口を開いた。


「余がテリルワムリ・ハッティルトだ。お前たちの家柄と評判を聞いて、今期の執行部員に指名した。執行部のメンバーとして学生たちの手本となるよう、しっかりと励むように」


 テリルワムリはめんどくさそうにそれだけ言うと、レルワナに目線を送った。


 レルワナは小さく頷くと、


「テリルワムリ様、お忙しい所ありがとうございました。それでは失礼いたします」


 と落ち着いた声で述べて、俺達を連れてすぐに会長室から退出した。


 俺はテリルワムリの上から目線のセリフに更にイラついたが、何とか耐えた。


 ったく、テリルワムリがあんなにピトーハに似ているとは思わなかったな。あれじゃ、顔見るたびに胸糞悪くなるじゃねーか。


 執行部に入った初日なのに既に、俺は執行部に入ったことに後悔していた。


 ――やっぱし、めんどくせーことはするもんじゃないな。


「アダム君? 何か問題でもあったかな?」


 会長室から退出した後、すぐにレルワナが困ったような笑みを浮かべて、俺の顔を覗き込んだ。


「……いや。別に」


 俺はエリ〇様の舞台挨拶ばりのぶっきらぼうな態度でレルワナに返事をする。まさかピトーハの話をする訳にもいかないし。


 レルワナはそんな俺の返答に肩を竦めながら、


「そうかい? それじゃあ会長に挨拶も済んだし、今日の所はこれで解散にしようか」


 と、優しく言った。


「レルワナ副会長! 本日はテリルワムリ様へのご挨拶の機会を頂き、感謝感激でございます! 今後ともよろしくお願いいたします!」


 トルティッサが大げさにレルワナにお礼を言う。相変わらず暑苦しい。


 しかし、レルワナはまた優しい笑みでトルティッサに頷きつつ、


「こちらこそ、執行部に入ってくれてありがとう。これからもよろしくね」


 と素敵ボイスで答えた。 


「……はい!」


 トルティッサは感極まったように返事をする。


「ああ。それから明後日は今期初の執行部会議があるから、君達も是非参加してくれたまえ。執行部メンバーとの顔合わせはその時にしよう……それじゃあ」


 レルワナはそう言って、颯爽とその場から立ち去っていった。




 「アダム君! キミ、本当にどうしたんだい? さっきの態度は場所によっては不敬罪になってもおかしくないよ?」


 レルワナの姿が見得なくなった途端、トルティッサがクルリと俺の方を向いて苦言を呈する。


 おおう! トルティッサに叱られるとは!! ……いや、まあ、大人げないと言えば大人げなかったかもしれないけど……。


 「……ああ、そうだな。すまん」


 俺が思いの外、素直に謝ったのでトルティッサは驚いたような顔をした。


 ……そんなに驚かなくていいだろが。そんなに驚かれるとなんだか心外だ。

 


 俺のそんな気持ちに気付いたからなのかどうなのか、


 「ああ、そうだ! せっかくだから今夜の夕食、一緒に食べないかい?」


 トルティッサが良いことを思いついた! というような顔をして唐突に提案をしてきたが、


「いや、用事があるから遠慮しておく」


 と、俺はバッサリと断った。疲れている中でトルティッサと飯を食うなんて勘弁してほしい。



 え? 用事なんて無いだろ?

 

 ――バッカ、俺だってこう見えて結構忙しいんだぞ。


 え? じゃあ何の用事だって? 



 ――そりゃあ、お前……あれだよ、あれ。ほら……ヴァナルカンドの散歩に決まってんだろーが。














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