表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/176

69話 新たな情報とそこはかとない危機感

 

 俺が教室に戻って少しすると、トルティッサも教室に入ってきた。……そして、真っ直ぐに俺の席に向かってくる。


「アダム君! 学生会執行部に入れるチャンスを逃していいのかい? 将来文官になるにも武官になるにも箔が付くし、宮殿内の実力者はほぼ執行部派閥だ。君の御父上だって、執行部出身だろう? なぜ断るんだい?」


 トルティッサが信じられない、と言った顔で俺に詰め寄る。


 トルティッサの言葉を聞いて、クラス内に居た学生たちが騒めく。


「え? 執行部に誘われた? 誰が? アダム様? トルティッサ様?」


「しかも断ったって!?」


 しかし、当の俺はトルティッサの言葉の全然別の部分に興味を覚えていた。


 ――俺の父上って誰の事だ? ……ああ、ラナムナのオッサンのことか。へー、あのおっさんもこの学院で執行部出身なんだ。ボサッとしてそうでヤリ手なのかな? あのおっさん。


「聞いているのかい? アダム君」


 トルティッサが更に詰め寄ってきた。うお! ち、近いっつーの!


「あ、ああ。聞いてるって。けど、やりたくないもんはしょうがないだろ……。ってか、俺が執行部とやらに入ろうが入るまいが、お前に関係ないだろーが」


 俺は必要以上に近付いてくるトルティッサの肩を押し返しながら、やる気なくそう言うと、トルティッサがもう一度グイと俺に近づいて、少し声を潜めて言葉を被せてきた。


「アダム君、テリルワムリ様とお知り合いになる機会を簡単に断ってしまっていいのかい? ……噂によると、テリルワムリ様がこの学院を卒業されるタイミングで、『樹海の夢』を引き継がれるそうだが……」


「え?」


『樹海の夢』という言葉に思わず反応してしまう。ってか、テリル何とかって誰だよ?


 俺が反応したのを見て、トルティッサが少し弾んだ声で言葉を続ける。


「皇帝の長子であったピトーハ様が亡くなられた今、次男であるテリルワムリ様が皇太子になるのは既定路線だ。卒業のタイミングで正式に任命されることが決まっているらしく、その時の儀式に『樹海の夢』を使うという噂なのだよ。……いつも皇室の儀式に使っていた『ハート・オブ・クイーン』が行方不明になってしまったからね」


 ――なるほど、テリルワムリってのが皇帝の息子なのか。執行部に入れば、そいつと知り合いになれるし、上手くいけば『樹海の夢』の在り処も分かるって訳か……


 考え込んだ俺を見て、トルティッサが微笑む。


「やはり、君は魔石の事になると急に関心を持つんだね……」


 ――しまった……何か勘付かれたか?


「姉上以外にも、こんなに魔石に執着する人が居るとは思わなかったなぁ」


 そう言ってハハハとトルティッサは笑う。……どうやら杞憂だったようだ。


「おい、トルティッサ。その噂、信頼できるんだろうな? 出所はどこだ?」


「うーん。明言は出来ないけど、信頼できる筋の話だよ。我が家には魔石関連の情報は良く集まるからね」


 ――まあ、そうか。トルティッサの家の領地は魔石産出のメッカだからな。魔石に携わる人間も多く出入りしているだろうしな。


 なんだかトルティッサに上手く乗せられたようで気に食わないが仕方ねーか。俺はもう一度グイッとトルティッサの肩を押し返して言った。


「分かった、執行部に入る。けど、めんどくせーことはしないからな」


「大丈夫。君のフォローは僕がするよ!」


 ……なんか、それはそれでムカつくな。


「じゃあ、君が執行部に入るってこと、さっそくレルワナ副会長に報告してくるね。あ、先生には執行部の仕事で僕は少し授業に遅れますと伝えてもらえないか?」


「……嫌なこった」


「HAHAHA! またまた冗談が上手いね。アダム君は! じゃあ、よろしくね!」


 やばい。なんだかトルティッサの鈍感力にいいようにやられている気がする……。


 俺はそこはかとない危機感を募らせるのだった――。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ