68話 リア充になるのはやはり面倒くさいかもしれない
「副会長!? え、ええ。空いてますが?」
トルティッサが珍しく慌てた様に答える。――副会長ってなんだ?
「それは良かった。失礼するよ」
そう言って、声の主が俺の隣に座った。声の主は大人っぽい優し気な雰囲気の男子学生だった。
「君たち。トルティッサ君とアダム君だよね?」
「はい。そうです、私ががトルティッサで、こっちが……」
「アダム君だね?」
トルティッサの返答に被せるようにして、男子学生が俺に目線を送る。
「そうだけど。お前は誰だ?」
急に隣に座ってきた見知らぬ青年に話し掛けられて、愛想よく返事できるほど俺はコミュニケーションが得意ではなかった。
「ア、アダム君……」
トルティッサが慌てた様に俺に呼び掛ける。
「はは……。そうか、これは失礼した。キミは転校生だものね。僕のことを知らなくてもしょうがないね」
男子学生は嫌味なくそう言うと、俺の方へ体を向けて自己紹介をした。
「僕の名前はレルワナ・シュパナテイク。君たちより一つ上の学年、二年生だ。今年から学生会の副会長をやらせてもらっている。少し君たちに頼みがあって声を掛けさせてもらったんだ」
「頼み……?」
トルティッサが首を傾げる。
「そうなんだ。さて、その頼みの前にまずは学生会の仕組みを説明させてもらってもいいかな? アダム君はまだ知らないよね?」
レルワナにそう聞かれて、俺は頷く。
「そうだよね、うん。学生会というのは、このハッティルト帝国学院に通う学生の自治組織なんだ。学生会の役員については毎年期初に行われる選挙の結果を受けて任命されるんだ。今年の会長は去年に引き続き、テリルワムリ様が務めていらっしゃって、副会長には僕が選ばれたんだ」
――ふーん。だからさっきトルティッサが『副会長』って呼んだのか。
……あれ? ところでなんで、学生会の説明なんて俺が聞かなきゃいけないんだ? なんだかこのレルワナって奴にうまく誘導された感じだな……。
俺はモヤモヤした気持ちになりながらも、なんとなく説明を聞く流れになってしまったので、残りのご飯を食べながら、一応そのまま聞き続ける。
「それでね。役員は今言ったように選挙で決めるんだけど、学生会執行部のメンバーは会長の指名制なんだ」
へぇ。指名制ね。……ってか、なんだか嫌な予感が。
「――という訳で、今年の一年生の執行部メンバーとして会長が指名したのが、君たち二人なんだよね。……君達にはぜひ執行部に入ってもらって、僕たちに力を貸して欲しいんだ」
レルワナは耳に心地よい低音ボイスで俺達を勧誘する。……いやぁ、これ俺が女だったらコロッと説得させられちゃいそうだなぁ。
「こ、光栄です! 私の力でお役に立てるなら、是非!!」
あれ? トルティッサ君? そんなコロッと勧誘されちゃうの?
前のめりでレルワナに勧誘されてしまったトルティッサを生暖かい目で見守りつつ、食事を食べ終わった俺は席を立つ。
「俺はパスで。そういうのあまり得意じゃないんで。すみません」
そう言って、一応レルワナに頭を下げる。
「え?」
意表を突かれた様なレルワナの声と
「……ア、アダム君!!」
と、トルティッサが驚いた様に叫ぶ声が時間差で聞こえてきた。
「じゃあ、そろそろ授業始まるのでもう行きますね」
呆気にとられる二人を置いて、俺はそのまま大食堂を後にした。
いや、だって絶対めんどくさいっしょ? 学生会とかって……。もう完全に、断るが吉。
それにしても今日はよく人に話し掛けられる日だなぁ……。ルビーが女子を威圧していたってトルティッサは言っていたけど、男も威圧していたのかな?
ルビーが居ないだけで、こんなに話しかけられるなんて……。うーん、皆に嫌われているんじゃないということは分かったが、よく知らない奴らに頻繁に話しかけられるのも結構かったるいな。
あーあ。ルビーの奴、早く帰ってこねーかなー。




