67話 親友と学食で恋バナ?
大食堂はいわゆるシッティング・ビュッフェ形式だ。
俺は料理が並べられたテーブルへ向かい、適当な料理を取って空いている席に座る。少し遅れてトルティッサも俺の向かいに座って口を開く。
「実は、大食堂で食べるのは初めてなんだ。なんだか新鮮な気持ちになれるね」
「……そうか? 良かったな」
俺は早く食事を終わらせてしまおうと、トルティッサに短く答えて、パクパクと食事を口に運ぶ。
それにしても、なんだかいつもよりも妙に周りから視線を感じる。ルビーと食べてるときは、視線が気になる……なんてことはなかったのだが。
食べる速度を緩めて、少し周囲の様子を探る……って言うか、ぶっちゃけ周りの会話を盗み聞きする。
「見て。トルティッサ様が大食堂にいらっしゃるなんて……」
「ああ……やっぱり素敵ねぇ。大食堂にいらっしゃっても目立つわねぇ」
――ああ、なんだ。トルティッサのファンが騒いでるのか。
と、思ったのも束の間、
「まあ! 見て! 一緒にお食事されている方、アダム様じゃない!?」
「やだ! あのお二人が? いつの間にそんなご関係に?」
「え!? 本当だわ。どうして? アダム様、今日はあの女と一緒じゃないの?」
「ねぇ……もしかして別れたんじゃないかしら?」
奔放に繰り広げられる女子会トークに一瞬思考がついていかない。……何を話しているんだ? こいつらは?
「おい、トルティッサ。お前、やっぱりあっちに行け。お前といると女子に観察されて食事がし辛い」
俺はトルティッサに薄情な言葉を投げ掛ける。
「おやおや、アダム君。君は何を言っているのかな? 女子に見られるなんて名誉じゃないか」
トルティッサが全く本気にせずに微笑む。……まったく、コイツの鈍感力はすげーな。
「そんなこと思うの、お前だけだろ?」
俺がそう言うと、トルティッサが何かを思いついた様にポンと手を叩いた。
「ああ、そう言えば君はいつもルビー嬢に守られていたからね。もしかすると、こういう視線に慣れていないのかい?」
「はぁ?」
俺がいつルビーに守ってもらったってんだ? むしろ俺が守ってやる方が多いぞ。
俺が怪訝な顔をしたのを見て、トルティッサが楽しそうに笑った。
「はっはっはっ、気付いていなかったのかい? キミに女子が近づこうとする度に、ルビー嬢はいつも周囲を威圧していただろうに」
――は? マジで? 知らんぞ、そんなこと。
まだ怪訝な顔をしている俺にトルティッサが楽しそうに話す。
「イスカムル家の御令息に興味がない貴族の女子など居ないだろう? ましてやその容姿だ。キミに熱を上げている女子も多いと聞いているが? ルビー嬢もご苦労なことだ」
……ほほぅ。てーことは、あれか? もしかすると彼女を作ろうと思えば作れる環境ってことなの? ついに彼女いない歴に終止符?
――いやいや、違う! 冷静になれ! 俺!
学院に恋愛するために来たわけじゃねーだろが。
学院に来た目的は「神の情報を集めること」「学院に保管されている魔石を見つけること」だ。この目的の達成に励まねばならぬ!
――いや、でも目的の魔石は学院内では無かったけど1個見つけたじゃん……。ちょっとは学院生活をエンジョイしてもいいんじゃないか?
――いやいや、まだ神の情報なんて少しも集まってないではないか! 一つ達成したからって油断は禁物だ!
俺の中の悪魔的な俺と天使的な俺が喧嘩をし始める。
「ふむ。何か悩みがあるなら聞こうか? アダム君?」
難しい顔で何かを考え込み始めた俺を見て、トルティッサが言う。
――いや、トルティッサと恋バナとかって……ねーわ。
「……何でもない」
俺はそれだけ言うと、とりあえず考えるのを止めて急いで冷めかけた食事を口に運ぶ。
ちょうどその時、落ち着いた低音ボイスが俺達に話し掛けてきた。
「隣、空いているかな?」




