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65話 タフネゴシエーター?

 

 俺は『夜の雫』の説得はもはや諦めていたので、ルビーが戻ってきたらすぐに帰れるように、キューちゃんの引っ越しの準備を手伝っていた。


 しばらくすると、洞窟の奥からルビーが戻ってくるのが見えた。


 表情が暗い……やっぱダメだったか。――と思ったのも束の間、


「アダマント様。『夜の雫』を説得することが出来ました」


 ルビーはサラッと俺に報告する。


「ああ、やっぱりダメだと思って……え!?」


 ルビーの思わぬ言葉に俺は驚き、思わず聞き返した。


「……どうやって説得したんだ?」


「根気強く話し合っただけです」


 ルビーはにっこりと笑って答えた。


 ……一体、何を根気強く話し合ったんだ?


 俺は疑問でいっぱいだったが、とりあえず本人がそう言ってるのであれば、気が変わらない内にさっさと人化させてしまおうと思い、ルビーと一緒に洞窟の奥へ向かった。


『夜の雫』は先ほどと変わらず、洞窟の暗闇の中でほのかに美しい青い光を放っていた。


 ……『夜の雫』だなんて厨二病臭ぇ名前だと思っていたけど、今ならその名前をつけた奴に共感できる気がするな。


 俺はそんなどーでもいいことを考えながら、青い石に手を置く。


「じゃあ、人化してもらうけど……本当にいいのか?」


 俺が言葉を掛けると、『夜の雫』はフワッと光って答えた。


『いいよ……早くして』


 ふーん。すでに心は決まってるってか。


「分かった」


 俺はいつかルビーを人化させた時のように、自分が人間の姿になった時の感覚のイメージを、青い石に流し込んだ。


 するとルビーの時と同じようにグニャリと青い石の形が乱れ、まぶしい光を発しながらムクムクと人の形が構成されていく。


 そして、一際大きく石が輝いた直後、『夜の雫』の人の姿が現れた。


 深い青の短髪をサラサラとなびかせながら、『夜の雫』はゆっくりと目を開く。その瞳の色は深く濃い青で、ルビーと似た白磁の肌に美しく映えていた。


「これが……僕の体?」


 少女のような少年のような幼さの残る面差しで、両手を見つめながら『夜の雫』が呟く。


「ええ、それがあなたの体。あなたの意志でどこへでも自由に行けるのよ」


 ルビーが『夜の雫』の呟きに答える。


「……そう」


『夜の雫』は長いまつげを伏せて、もう一度両手を見る。


「アダマント様。『夜の雫』にも新しい名をお与え下さい。外に出た時にさすがに今の名で呼ぶ訳にはいかないかと……」


 ルビーが俺に進言する。


「ああ、そうか」


『夜の雫』なんて厨二臭い……いや、有名な名前らしいからな。確かに変に思われるな。


「うーん。じゃあ、『サファイア』かな」


 我ながら何の捻りもないぜ。けど、覚えやすいだろ?


「……サファイア?」


『夜の雫』こと『サファイア』が呟く。


「お、気に入ったか?」


 うんうん、そうだろう。いい名前だろ。


「……変な名前」


 ――くっ、このヒキニートが!!



「こら。アダマント様に不敬を働くことは私が許しませんよ……サファイア」


 ルビーがすぐにサファイアを窘める。すると


「……ああ、分かったよ。ルビー」


 と意外にも素直にサファイアはそう答えた。――あれ? もうそんな関係性なの?


「ごめんね、アダマントサマ。これからよろしくね」


 なんか心が籠ってない感じがするが……。まあ、とりあえずは当初の目的だったS級魔石を仲間にするミッション成功ってことでいいか。


「おー。よろしくな、サファイア。……とりあえず、なんか着ろ」


 幼さの残る綺麗な青年の裸体も結構目の毒だ――。


 俺の言葉にキョトンとしているサファイアに、とりあえず俺が着ていた学院の制服のガウンを脱いで放ってやった。


「さてと、じゃあ学院に帰るか」


 俺がそう言うと、ルビーが口を開いた。


「アダマント様、少し考えたのですが……。このままサファイアを学院に連れ帰っても、身元不明のままでは結局隠れていなければならなくなってしまいます。ですので、一度私がサファイアをイスカムルへ連れて行って、ラナムナに命じて身元と学籍を用意してこようと思うのですが、いかがでしょうか?」


 おお、確かにな。


「よし、ルビー。任せた」


 俺はルビーの提案にOKを出す。



 ――そんな訳で、俺とヴァナルカンドは学院へ戻り、ルビーとサファイアはそのままキューちゃんに乗せてもらってイスカムルへ飛び立ってもらったのだった。


 別れ際にルビーが俺を見つめて言った。


「アダマント様。わたくしが不在の間、身辺には十分にお気をつけ下さいませ……」


「ん? ああ、分かった」


 ちょっと不在にするだけでルビーはオーバーだなぁ……なんて思いながら、俺は軽く返事をした。


 ……が、その時のルビーが何を心配していたのか、俺はよく分かっていなかったということが後日明らかになるのだった――。










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