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62話 合宿後の生活

 

 数日後、俺達は学院に戻って、ヤジリカヤへ向かう前と大して変わらない日常を再び送ることが出来ていた……表向きは。


 え? あの後どうなったかって? わかったわかった、今説明するって。


 キューちゃんの記憶操作によって、クリティカルにヤバい記憶はなんとか消すことが出来た。つまり、俺達が魔石だということが分かってしまうような会話の部分だ。


 しかし、キューちゃんが現れる前のことまでは記憶を消すことが出来ないようで……。


 俺があのダルジとか呼ばれていた湾刀をもつ盗賊と戦ったところまではそのまま皆覚えていたため、俺が強力な魔法を使えることはバレてしまった。


 幸い、魔石発掘用のロッドを持っていたため、魔石ナシで魔法を使えることまではバレなかったので、まあ良しとしよう。


 それと、ヴァナルカンドが盗賊達をやっつけたことも、キューちゃんには直接関係ないことだからみんなの記憶には残っていた。


 これについてはもうどうしようもないので、俺がハズル王国から連れてきた珍しい犬が、家からついて来てしまったと言い切った。


「……え? 本当に? ……犬? なの? この動物は……」


「はい。犬です」


「家からついて来たって……。君の家はイスカムルだろう? そんな遠くからついて来れる訳が……」


「いや。コイツすごく鼻が良いんですよね~」


 ――皆の疑いの眼差しが痛かった……。が、俺は言い切った。言い切ったった!


 結局、ヴァナルカンドは警備兵達を助けたという功績もあり、アルヌ先生のとりなしもあって、学院の寮で特別に飼ってもいいことになった。


 これはある意味ラッキーだった。もうコソコソ夜中に散歩しなくてもいい。


 結局、盗賊に襲われはしたが多少の怪我人が出たくらいで済み、それにA級魔石が大量に手に入ったこともあって、魔石クラブの初合宿は非常に良い成果で終わった。


 メンバーは意気揚々と学院に帰ってきて、いつもどおりの生活に戻っていったのだった。


「さ、ヴァナルカンド。散歩に行くか」


 授業が終わり、今日はクラブ活動も無いので、早々に寮の自室に帰ってきた俺は部屋で待っていたヴァナルカンドに声を掛ける。


「ワン!!」


 ヴァナルカンドは嬉しそうにブンブンとしっぽを振って俺の言葉に答えた。


「父上、今日はクラブ活動は無いのですか?」


 突然ヴァナルカンドから丁寧な言葉が聞こえた。


「ああ、今日は3年生に用事があるから、休みだってさ」


 俺が答えると、ヴァナルカンドのモフモフの毛並みの中から、一匹のトカゲが這い出してきた。


 そうそう、言い忘れていたけどキューちゃんも俺の寮に住むことになった。もちろんドラコーヌの姿のままでは色々と問題があるから、姿を変えて、だ。


 キューちゃんが変身した姿は、クルリとまあるいお目目のツルツルスベスベの皮膚を持つ昔のトカゲ姿のキューちゃんの姿だった。そうそう、これだよキューちゃんは。カワイイ!


「キュー。それでは少し遠出が出来ますか?」


 キューちゃんの提案に俺は頷きつつも、問い返す。


「ああ、構わないけど? どこに行きたいんだ?」


 俺の言葉に事も無げにキューちゃんは答える。


「ヤジリカヤ山に忘れ物を取りに行きたいのです」


「は?」


 俺はキューちゃんの言葉に一瞬キョトンとする。


「いや、少し遠出って距離じゃないだろ……」


 俺の呆れた様な言葉にキューちゃんは真面目に答えた。


「おや、父上。私がドラコーヌだということをお忘れですか?」



 結局キューちゃんに押し切られ、俺達は再びヤジリカヤ山へ向かうことになった。


 一応ルビーにも声を掛け(置いて行ったら怒りそうな気がするからな)、急遽出掛ける支度を整える。ヴァナルカンドはなんだか遠出をする気配を感じて嬉しそうにハシャギ廻っている。


 俺達は人気の無い場所から、シフを使って学院の高い塀を飛び越える。そのまま、学院から少し離れた場所まで歩く。


 少し暗くなってきたころ、キューちゃんが


「この辺りまでくれば、誰にも見られないでしょう」


 と言って、巨大なドラコーヌの姿になった。


「さあ、皆さん。私の背中に乗ってください。……あ、背中にある父上の欠片に触らないでくださいね。私、なぜかそれに触られると、怒りで我を失って暴れてしまうようなので」


 ……それって俺が触ってもそうなるのか? ちょっと気になったけど、触るのはやめておこう。全力のキューちゃんはヤバそうだし。


「ああ、物語にもあったドラコーヌの逆鱗ですね。なるほど、逆鱗というのはアダマント様の欠片だったのですね……」


 ルビーが感心したように呟く。


「ええ。私が生き延びられたのも、長命なのも、いつも私の体を癒してくれている父上の欠片があればこそです」


 へー。俺の癒し能力って人間だけじゃなくて、ドラコーヌの体にも効果があるんだ。俺は人ごとのように感心する。


「そう言えばさ。あのヤジリカヤのドラコーヌ伝説っていうのは本当にあったことなのか?」


 俺はふとキューちゃんに聞いてみる。


「……ええ、ほぼ実際にあった話です。あの頃は私もまだまだ修行が足りなかった……」


 キューちゃんが懐かしむように目を細めて視線を宙へ浮かせる。うん。なんの修行かは深堀りしないでおこう。


「さあ、おしゃべりはここまでにして出発しますよ。しっかり掴まってくださいね」


 キューちゃんはそう言うと、巨大な翼をバサリと広げて力強く羽ばたき、一気に上空へと飛び上がった――。










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