58話 魔石発掘作業開始
「さあ! さっそく魔石発掘を始めましょう!」
ルマティ部長の掛け声で俺達は思い思いの場所でロッドを振り始めた。
俺はみんなから少し離れた場所でロッドを振る。
魔石がついたロッドを振ると、小さな水流の様なものが地盤を削り、地面を穿っていく。
「アダム様。なぜ皆さんから離れているのですか?」
皆の目を盗んで、ちょっと頂上に行こうと思っている……と、ルビーに伝えたいところだが、トルティッサが少し離れた場所からそれとなくこちらの様子を伺っているようなので、今伝えるのはやめておく。
「ん。ちょっとな」
俺は曖昧にそう言って、地面に視線を戻す。
それにしてもこんなところを適当に掘って、本当に魔石なんて出てくるのだろうか?
「……あったわ!!」
向こうから、ルマティ部長の嬉々とした声が聞こえてきた。――マジで!?
「ああ! 本当だ! しかもこれはもしかするといきなりA級じゃないか?」
アルヌ先生も弾んだ声で答える。――マジで!?
俺とルビーもルマティ部長の近くに行き、今掘り出したばかりの魔石を見せてもらう。
「ほら、ごらんなさい」
ルマティ先輩の掌の上には、キラリと美しい輝きを放つピンク色の石があった。
――マジでA級魔石だ。何となくわかる。ヴァナルカンドと似ている雰囲気を感じるのだ。
「本当ですね……」
俺が呟くと、ルマティ部長はにっこり笑って言った。
「幸先いいわね。さあ、あなた達も頑張ってたくさん見つけなさい」
「「は、はい」」
俺とルビーは返事をして、慌てて自分の持ち場へ戻った。
「姉上! 素晴らしい魔石ではないですか!! なんと美しい!!」
トルティッサが大げさにルマティ部長の見つけた魔石を褒め称える声が聞こえる。
「あ……先生。これ」
そんな中、今度はマシュラ先輩が声を上げた。
「どれどれ。 ……!? ええ! 恐らくこれもA級ではないでしょうか!」
――うっそだー。そんなに貴重なA級魔石がそんなにポンポン……
俺はマシュラ先輩の手元を見る。……今度は黄色のA級魔石だった。
「やはり、このポイントで正解のようですね、アルム教授!」
ルマティ部長が声を弾ませて、アルム先生に話し掛ける。
「ええ。ムルタリス君の研究成果ですね。素晴らしいです」
アルム先生がにっこり笑って、ムルタリス先輩を褒める。
「え!? この場所はムルタリスが!? てっきりアルム教授のご助言かと……」
ルマティ部長が驚いたように言った。
「ああ。言ってなかったっけ? ヤジリカヤ伝説の原本に近い文献から、ドラコーヌの洞窟位置を解読したんだ。合っていてくれないと困るよね」
ムルタリス先輩がルマティ部長に優しく笑いかける。
「そ、そうだったのね。まあ……その文献についてはまだ検証の余地があるけれど……。よくやったわ! ムルタリス!」
ルマティ部長はツンデレみたいな態度で返事をしている。
――ああ、若いっていいよね。俺は生暖かい目で二人のやり取りを見つめた。
結局、昼くらいまでにはその付近でなんとA級と思しき魔石が12個も発掘されたのだった。びっくりだよな。
「素晴らしい成果ですね!」
アルヌ先生は目をキラキラさせて、発掘された魔石を丁寧に一つ一つ観察をして記録を付けている。
ちなみにA級魔石に認定されるには、一度街へ持ち帰って専用の計測器で魔力量を測らなくてはならないが、俺の感覚的にはまずA級で間違いないと思っている。今回発掘されたものすべてが。
ちなみにこれだけA級魔石が発掘されたのに、B級やC級クラスの魔石は全く出てこなかった。やはり、誰かがここに力の強い魔石だけを集めていたと考えるべきだろう。
ドラコーヌが実在していた可能性はより高まったという訳だ――。
「さあ。ではそろそろ昼食にしましょうか、皆さん」
トルティッサが “パンパン” と手を叩いてそう宣言した。
すると、何人かの従者が馬車からテーブルと椅子を運び出し、瞬く間に食事の場を整えた。
テーブルの上には、サンドイッチの様なものと、スープの様なものと、サラダ、肉料理……と次々に馬車から料理が運ばれ並べられていく。お、カナンもあるじゃねーか。
その時だった――。
俺達が居る場所から少し離れたところで、金属同士がぶつかり合うような音が聞こえた。
その直後、警備兵の隊長が走ってきて俺達に告げた。
「皆様!!! お気をつけください!!! 盗賊が現れました!!!」
「盗賊ですって!? ……まさか、本当に……」
ルマティ部長が蒼白な顔で呟いた。
「今、私の部下が戦っております。この隙に皆様は馬車でお逃げください!!」
「けど……」
ルマティ部長が少し逡巡する。
「ルマティさん! まずは安全確保です! 隊長さんの指示に従いましょう!」
アルヌ先生が、迷いを断ち切る様にそう言い切った。
「は、はい! 皆さん、急いで馬車に……!?」
ルマティ部長がそう言いかけた瞬間、突然話すのを止めてある一点を見つめた。俺達もつられてその方向へ視線を向ける。
そこには顔に大きな傷跡のある大柄な男が、血の付いた大きな剣を抱えながら立っていた。そしてその男の後ろにも何人も荒くれ者っぽい男たちが獲物を構えて控えていた。
「よお……。坊ちゃん、嬢ちゃん方。おめーらは今から人質だ。大人しくして貰おうか?」
男は野太い声でそう言い放った。
――チッ。こりゃ、めんどくさいことになりやがったな。
みんなの前であんまり戦う所見せたくねーけど、そうも言ってらんねーかもしれん。




