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挿話 山頂で見る夢

 

 ――ああ、またあの夢が始まる……。



 ………


 ………


 ………



「あなた、怪我しているのね。ちょっと待ってて」


 ――こいつは何だ?


「これはよく効く薬草なの。これをこうやって巻いておけば……このくらいの傷ならすぐに治るわ」


 ――痛みが弱くなった。今こいつが何かしたせいか?


「ここ、あなたの家なのかしら? 勝手に入っちゃってごめんなさいね」


 ――この妙にうるさい生き物は何なのだろうか? いつも木の上にいるサルに少し似ているが。


「道に迷っちゃったの。少しだけ、ここに居させてもらっていいかしら」


 ――うるさいが、まあ放っておけばすぐに出て行くだろう。


「うーん。やっぱり言葉は通じないのかしら? あれ? 寝るの? 私、ここに居ていいのかしら?」


 ――うるさいな。


「じゃあ、私も寝ちゃおうっと」


 ――ん? 静かになったな。やっと眠れる。



 ………


 ………


 ………



「あ、起きた!」


 ――まだ居たのか……こいつ。


「昨日の薬草、新しいのに変えてあげるね」


 ――まただ。コイツが傷にこの草を貼ると痛みが弱まる。


 “ぐううう……”


「やだ、オナカ鳴っちゃった……」


 ――なんだ、今の音?


「はあ、おなか空いたなあ……何か食べるモノ探しに行かないと」


 ――おや? どこかに行くのか? まあ、いいか。これでやっと静かになる。




「この果実、食べられるのかしら?」


 ――ああ、なんだ。戻ってきた。洞窟の入り口の青い実を持ってきて何するんだろう?


「ま、とにかく、食べてみるしかないか。……はむっ」


 ――ああ、腹が減ってたのか。


「うう。苦い。美味しくない」


 ――ん? 吐き出した。


「はあ。なんだか気持ち悪くなってきた……」


 ――あれ? なんかこいつ顔が青くなってきたな。変なの。


「あの実。食べちゃダメなやつだったかしら。なんだかオナカも痛くなってきたし……」


 ――あれ? 寝たのか?


 “ぐううう……”


「うう。オナカ空いた……オナカ痛い……私、死んじゃうのかしら……ああ、なんか涙が出てきた……」


 ――なんだ? まだ腹減ってんのか? うるさいなぁ……。ち、仕方ない。


「……ああ、ドラコーヌがどこかに行っちゃう。ドラコーヌにまで嫌われちゃうなんてね……ハハ、やっぱり私ここで死んだ方が良いのかも」




 ――これなら食えるだろ。コイツに似ているサルが良く食べてるし。


「え? なに? これ、カルルの実じゃない? え? くれるの?」


 ――うるさいな、早く食えよ。


「……美味しい。美味しいよぉ……ありがとうぉ」


 ――あ、全部食べた。やっぱりこれは食えるんだ。




 ………


 ………


 ………




 ――あの小さな生き物はまだこの洞窟から出て行かないみたいだ。


「私の名前は、シャナよ。シャナ、シャナ、シャナ、シャナ、シャ・ナ!」


 ――何度も同じことを言っているな。


「……って、やっぱり通じないか。名前くらい覚えて欲しいんだけどなぁ」


 ――あ、もしかすると、この小さな生き物が『シャナ』ってことなのか?


「……シャナ?」


「うん。そう……って!? え? え?」


 ――なんだ。違うのか?


「シャナ?」


「そ、そ、そう! シャナ、シャナ、私、シャナ!」




 ………


 ………


 ………



「ドラコーヌの周りにはいつも精霊が居るよね」


「セイレイ?」


「そう、このフワフワしたやつだよ。これがサラマでこっちがウンディ。で、それがシフ、これはノムね」


「サラマ、ウンディ、シフ、ノム」


「うん! そうそう」


 ――なるほど。こいつらをそう呼ぶのか……。



 ………


 ………


 ………



「いままでありがとう。けど、私もそろそろ村へ帰るわ」


「そうか。ではこれを持っていけ、シャナ。お前ならこれを使えばサラマを集められるだろう」


「え? でもこれ……ドラコーヌがせっかく見つけてきた魔石なのに」


「気にするな。私が探している物ではなかったから必要ないのだ。持っていくがいい」


「……ありがとう!」




 ………


 ………


 ………



「あの洞窟だ!!」


 ――ん? 何か外が騒がしいな……。


「見ろ! 魔石があんなにたくさんあるぞ!!」


 ――なんだ? この五月蠅いやつらは。シャナの仲間か?


「うあ!! ドラコーヌが居る!! シャナの言った通りだ!!」


 ――ああ。やはり、シャナの仲間か。


「お前たち、何をしに来た?」


「うわぁああ!? 喋った!? う、撃て!!」


 ――なんだ? なぜ、攻撃してくるのだ?


「おい。お前たち、シャナの仲間だろう? なぜ……」


 ――痛い……。


「よし!! 怯んでいるぞ!! 撃て撃て!! このドラコーヌを殺せば、あの魔石が全て手に入るぞ!!」


 ――ああ、そうか。こいつら……死にたいのか。




 ………


 ………


 ………




 ――この夢は……もう見飽きたな。



『もうすぐお前の縄張りにまた敵が入って来るぞ』


 ――ん? 誰だ? 私の眠りを邪魔するのは?


『お前の眠りを邪魔するのはその敵だ』


 ――なんだと?


『お前の大切なものを盗もうとしている』


 ――大切なモノ? 本当に大切なモノはまだ……。


『敵を殺せ。あの時のように』


 ――やめろ、私は殺したくないんだ。


『敵を滅ぼせ。あの時のように』


 ――やめろ、私を怒らせるな。


『殺さなければ、お前が滅びるぞ』


 ――うるさい……うるさい……。





 濃い霧の中で、真紅の双眸が光を宿した――。






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