表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/176

57話 馬車の中の男子会

 

「『ヤジリカヤのドラコーヌ伝説』の本は読んだかい?」


 ヤジリカヤ山の中腹に向かう馬車に揺られながら、ムルタリス先輩が聞いてきた。


 ヤジリカヤ山の魔石発掘ポイントまでは馬車で行くということで(さすが貴族)、俺達魔石クラブのメンバーは2台の馬車に分乗して山道を登っていた。


 俺の乗った馬車にはムルタリス先輩、トルティッサが乗っていた。男子チームだ。


 ちなみに馬車のメンバーはルマティ部長が割り振ったのだが、なぜか男子カテゴリーのはずのアルヌ先生は向こうの馬車だ。まあ、深く突っ込むのは野暮だよな……。


 俺はムルタリス先輩の質問に答える。


「ええ。一応、先輩に教えてもらった後、図書館で読んでみました。子供用の本でしたけど」


 俺がそう言うとムルタリス先輩は頷いて、質問を重ねてきた。


「君はどう思う? あの話はただの作り話だと思うかい?」


「……うーん」


 俺は少し考えて答える。


「確かに先輩のおっしゃった通り、完全な創作ではないと俺も思います。とは言え、どこまでが真実なのかは分かりませんが」


 実際にバンドルベル家の屋敷からヤジリカヤ山を見た時には、物語の最後の通り山の頂上は厚い雲に覆われていた。


 セバスさんに聞いた話だと、あの雲が晴れたところは一度も見たことが無いと言っていたし。


 それに物語の中に出てくる『綺麗な石』。あれはきっと魔石の事なのだろうと思う。


 ドラコーヌが世界中から魔石を集めていたのであれば、ヤジリカヤ山で色々な種類の魔石が採掘されるという事実と符合するように思う。


 まあ、逆に色々な魔石が取れるから、そういう話にしたっても考えられるけど。だが、俺の希望としてはドラコーヌが居てくれたらいいなと思う。


 ……え? なんでかって? バッカ、ドラゴンみたいな生き物が実在してたら、ロマンの塊じゃねーか。絶対に実在して欲しいに決まっている。


「私はあの物語は本当にあった話だと思っている。例え今はヤジリカヤ山にドラコーヌが居ないとしてもね」


 ムルタリス先輩が熱っぽい口調で語る。


「どうしてそう思われるのでしょうか?」


 それまで黙って話を聞いていたトルティッサが興味深そうに質問をした。


「昔、あの話に興味を持って色々と文献を漁ったことがあったんだよ。あの話は元々、帝国が成り立つ前からこの辺りの民間伝承として語り継がれてきた物語なんだ。トルティッサ君の家、バンドルベル家がこの地を治めるようになる前からのね。そして、さっき俺達が途中通ってきた街。あの街の地下には遺跡があるだろ、トルティッサ君?」


「ええ、確かに。一部だけ発掘作業が進んでいますが、随分古い時代の村らしき遺跡が地下に眠っているようです。村の遺跡は溶岩に覆われていたので噴火によって滅びたのは間違いない、と考古学者達は言っていますね」


 ムルタリス先輩の言葉にトルティッサが頷いた。


「それにドラコーヌの話だ。実は細かく調べると、翼の生えた大きな生物が魔石らしき石をどこかへ運んでいった――というような伝承がヤジリカヤ周辺の地域でかなり多く見られるんだよ。俺はこれがヤジリカヤに魔石を集めていたドラコーヌの事なのではないかと思っているんだ」


「へぇ……そんな伝承があるのですか」


 俺は感心して呟く。


「ああ。私も特に交流も無さそうな各地域で同じような伝承が語られている事実を見つけた時は、心が震えたよ。やはりドラコーヌは実在していたかもしれない! とね。もしかすると、ヤジリカヤ山の頂上に行けば、ドラコーヌが居た形跡が見つかるのではないだろうか?」


 すると、ムルタリス先輩が熱く語るのを聞いていたトルティッサが、なにやら珍しく静かに話し始めた。


「しかし、頂上へ行くのはやめた方が良いと思います」


 馬車の中が一瞬、沈黙に包まれる。


「……それはなぜだい?」


 ムルタリス先輩は少し声のトーンを落として、トルティッサに訊ねる。


「同じように考えた考古学者や冒険家がこれまでに何人も、ヤジリカヤの山頂に挑んできました。しかし、無事に戻ってきた方はこれまで一人もいません」


「なんだって? ヤジリカヤ山の頂上は立ち入り禁止で、これまでに行った者は居ないとルマティは言っていたが……」


 ムルタリス先輩は首を傾げる。


「表向きはそう言っています。姉上もこのことは知りません。領主である父上と次期領主である私しか知らない話です」


「「え?」」


 俺とムルタリス先輩は思わず、トルティッサを見つめる。


「おい、そのことを俺達に話してもいいのか?」


 俺は思わず、トルティッサにツッコむ。


「けれど、言わないとムルタリス先輩は頂上に行ってしまわれるでしょう?」


 トルティッサはにこやかな笑みを浮かべながらそう言った。


「そ、それは……」


 図星だったのか、ムルタリス先輩は口籠る。


「で? ドラコーヌは本当に居るのか?」


 俺は単刀直入にトルティッサに聞く。


「残念ながら、そこまでは分かっていません。なにせ誰も戻ってきませんから」


「そうか」


 俺が少しがっかりしたようにそう言うと、トルティッサが笑って言う。


「自分で確認しようなんて、考えないでくださいね? 学友に行方不明になられては、私も困ってしまいますから」


「ああ、そうだな」


 とりあえず、俺はそう答えておいた。


 しかし……そう言われると余計に気になるんだよな~。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ