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53話 紫の魔石の狼は紫のモフモフ


その後、俺達は食堂を後にして紫の魔石の狼を探しに外へ出た。


ハッティルト帝国学院は貴族の学校だけあって、警備が厳重だ。学院の敷地は高い壁に囲まれており、正門か裏門の二つの出入り口しかない。


そして当然その二つの出入り口には、帝国軍から派遣されている軍人が警備についており、容易には出入りできないようになっている。


あの紫の狼が人目につかずに学院の敷地内から出て行くことは困難だと思う。


今、特に騒ぎになっていないところを鑑みるに、あの狼はまだ誰にも目撃されることなく、どこかに潜んでいる可能性が高い。


俺達はまずは紫の狼が逃げ出した、第三演習室から中庭を挟んだ向かいにある教室へと向かった。


向かい側の第三演習室の方をチラリと見ると、昼間の火災の跡も生々しく、こちらの方にまで焦げた匂いが漂って来ていた。


そして、爆発の原因調査をしていた人たちも今日はもう引き上げたらしく、周囲には誰も居なかった。


「この窓から逃げて行ったのですね」


そう言いながら、ルビーが中庭側から教室内を覗き込む。


「ああ、ポーンと軽々とこの窓を越えて逃げて行ったな」


俺は当時の状況を説明しながら、何の気なしに近くの木を見上げた。


すると、生い茂る葉っぱの間から覗く紫の瞳と目が合った。




「……居た」




小声でルビーに囁く。コイツ、逃げたと思ってたけど、もしかしてずっとここに居たのか!?


「え?」


ルビーが怪訝な顔で振り向きつつ、俺の視線の先を追って動きを止めた。


「グルルルル……」


紫の狼もこちらが気付いたことを察したようで、威嚇するような獰猛な唸り声をあげて、木から飛び降りてきた。


やべえ。なんか決意した目をしてやがる。追い詰められたとでも思ってんじゃなかろうか?


俺が危惧した通り、紫の狼はもはや先ほどの様な逃げの姿勢ではなく、今にも飛び掛かってきそうな姿勢で近づいてきた。逃げるのを諦めて決死の覚悟で向かってくるような雰囲気だ。


「アダム様……ここはわたくしが……」


「いや、俺がカタをつける」


攻撃的な態勢の狼を見てルビーが進み出てきたが、俺はルビーの言葉を却下する。そのまま紫の狼の正面に立ち、その紫の双眸を睨む。


紫の狼の背中の毛がぶわっと逆立つ。


――その瞬間、突然風の精霊シフが活性化し、風の刃の様なものが、俺めがけて次々と飛んできた。


「風の魔法!?」


突然のことに一瞬戸惑うも、俺も活性化したシフに命じて素早く風の盾を前方に張り巡らせる。


“ザシュッ!”


と音がして、俺の風の盾に風の刃が吸い込まれるように消えた。


しかしほっとするのも束の間で、その隙に狼は大きくジャンプをして牙を剥き出し、俺に向かって飛び掛かってきた。


「コイツ!!」


俺は左腕を前に出して、狼の牙を腕で受け止める。狼の動きが速すぎて、避けきれないと判断したのだ。


「ガルルルル……」


腕に噛み付いたまま紫の狼が、大きく首を振る。普通の人間であれば、今の動きで腕を引き千切られているかもしれない。


俺は左腕に噛み付かせたまま、右腕を狼の首に回し力任せにその巨体を引き倒す。


「ガルッ……!!」


狼は衝撃で俺の左腕から牙を外した。その隙に空いた左腕も狼の首に回し、両腕で思いっきり首を絞める。……このまま息の根を止めれば、元の魔石に戻るだろうか?




「ガル…ル…ル……キューン…キューン」

『クルシイ……クルシイ……コワイ……ユルシテ……』




その時、紫の狼の鳴き声と同時に、頭の中に言葉が流れ込んできた――。


俺は締めていた両腕をパッと離す。


「おまえ……やっぱり話せるのか?」


紫の狼の紫の瞳を見つめながら、俺は尋ねる。



「……くーん……くーん」



紫の狼がでかい図体に似合わないカワイイ鳴き声をあげながら、俺の足元に伏せをする。


「……アダム様? これは一体……」


ルビーが近寄ってくる。


「いや。今、コイツの心の声?みたいなのが聞こえた……」


直接触ると聞こえるのか? ……俺はもう一度、紫の狼に手を伸ばし、頭を触る。


紫の狼は耳をペタンと垂れ、大人しく俺に触られている。


『ツヨイ、ツヨイ、ボス、ボス』


紫の狼の心の声の様なものが頭に直接響く。やはり、直接触ると考えていることが分かるようだ。


「ボス? ……ボスって俺の事か?」


念のため、質問をしてみる。


『ツヨイ、ツヨイ、ボス、ボス』


特に答える素振りは見せない。


「……やっぱりこっちからの言葉は通じないのか」


いや、単語は話してるからな……単語しか理解できないとかなのか?


俺は自分を指さして、「ボス?」と紫の狼に話し掛ける。


すると紫の狼も『ボス!』という。


……やっぱり、単語なら分かるのか。その後、俺はいくつかの単語を口に出して、紫の狼の反応を探った。


――どうやらこの狼、いくつかの単語は理解しているらしい。だが知らない単語の方が圧倒的に多そうだ。


「アダム様? 何をなさっているのでしょうか?」


ルビーが不思議そうな顔で俺に質問する。


「いや、コイツの言語の理解度を確認していた」


「そうですか……それで、いかがでしょうか?」


ルビーが興味深げに質問してくる。


「まあ、多少の単語は理解している、といった程度だな。だが、少しでも理解をしてると言うことは、教えればもっと分かるようになるかもな」


「そうですか」


マジマジと紫の狼を見つめながら答える。


「それにしても、コイツ。風の魔法を使いやがったな」


「ええ。確かに紫の魔石には風の魔法の特性があると、部長も仰っていましたし。その通りだったということでしょう」


ああ、そういえばあの部長そんなこと言ってたっけ。俺もぼんやりと思い出す。


「で。なんで、狼の姿なんだろうな?」


俺はずっと考えていた疑問を口に出す。


「……それはわたくしも分かり兼ねます……」


……だよなぁ。俺達は人間の姿で、こいつは狼?的な姿で。違いと言えばS級かA級かってことぐらい……つまりは魔力の大きさの違いが何か影響しているとかなのか?


俺はしばらく考え込んでいたが、最終的には「ま、考えてたってしょうがねーか」と開き直って考えるのをやめた。


とりあえず、それよりも重大な問題が二つある……。


『紫の狼をどうするか』と『結局、借りパクになってしまった』ということだ――。










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