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51話 紫の魔石

 


「な!?」


「ぐわっ!!」


 突然生じた爆風で暗殺者とトルティッサが、演習室と反対方向へ飛ばされた。……が、暗殺者はさすがの身のこなしで、トルティッサの体を支え壁への激突は回避した。



 ……ええい、ままよ!!


「ルビー、あとは頼んだ!」


 俺は暗殺者とトルティッサに気付かれぬよう、二人が爆風に飛ばされた隙に、爆炎を上げる演習室内に突入した。


 みんな忘れてるかもしれんが、俺は熱いのとかへっちゃらだから。石だし。高温高圧なんでもござれ。


 けどまあ、視界は悪い。びっくりするぐらい演習室内が燃えちゃってますから。ちょっと、ルビーちゃんヤリ過ぎ……ああ、でも俺が不明瞭な支持をしたのが悪いの。分かっていますとも。


 部下の不始末は上司が責任を取る。これ、当たり前。大切なことだから二回言います。部下の不始末は上司が責任を取る。そういう大人に私はなりたい。いや、なる。NOW!!


 おっと、社畜時代を思い出して少々熱くなってしまったようだ。若干、意味不明な供述なのは勘弁してほしい。


 なんて独り言を言っている間に、例の魔石が入っている金庫の前に辿り着いた。


 あの爆発でも金庫は壊れていなかった。すげーな。随分頑丈な金庫だ。


 ……けど、すまん。セクシー部長。ちょっと、A級魔石お借りします!!!!!



 俺は大きく振りかぶると、金庫に向けて思いっきり拳を叩きつけた。



 “バギンッッッ!!!”


 固い金属音とともに、金庫がひしゃげて扉が外れた。


 俺は金庫の中から高級そうな小箱を取り出して、箱のふたを開ける。――箱の中の紫色の魔石は周囲の炎を映して、昨日よりも輝いているように見えた。


「すぐに返しますから……」


 俺は誰も居ないのに、言い訳がましくそう言って魔石の箱のふたを閉め、入り口とは逆の方向から演習室を出た。


 そのまま、中庭の様な場所を挟んで向かい側にある人気の無い別の教室へ忍び込む。


 第三演習室の方向からは、なにやら複数人の大声が聞こえてくる。騒ぎを聞きつけて人が集まってきているようだ。


 ひとまず俺はこの人気の無い教室で、魔石の箱を再度開いた。


「おい、お前。俺の言葉が分かるか?」


 そう言いながら、俺はこの間のように紫の魔石を摘まんでみた。




『……コワイ……コワイ……コワイ……コワイ……コワイ……コワイ……コワイ……』




 この間と同じでコワイとだけ呟いている感じだ。そもそも『コワイ』って『怖い』ってことで合ってるのか?


 まあ、どちらにしてもこちらの呼び掛けには反応なし、か……。俺は思わず独り言つ。


「……A級には言葉は通じないのか? ……S級だけが俺やルビーのようになれるっていう事なのか……?」


 紫の魔石を摘まんだまま、自分が人間の姿になった時の感覚のイメージを無意識に思い浮かべた。


 ――すると……グニャリと紫の魔石の形が乱れた……。


「え!!??」


 あれぇ!? なに!? 人化は出来ちゃうの!? 


 俺は慌てて、紫の魔石をポイっと足元に放り投げた。まぶしい光を発しながらムクムクと魔石が何かの形を構成していく――。



 そして、一際大きく輝いたかと思った瞬間……。



 ――俺の目の前には全裸の美女……ではなく、モフモフのデカい犬が伏せていた……。


 ……犬?


 ……いや、ちょっと待て。犬か? これ? 


 俺の二倍はあろうかという巨体と紫の体毛。もの凄い凶悪そうに爛々と光る紫色の目。加えて、鋭い巨大な牙を剥き出して唸り声をあげている様は、とてもただの犬には見えない……。


 犬というよりも狼……っぽい感じ? いや、狼とか実際見たことないけど。


 俺がそんなことを考えていると、狼っぽいヤツは少し後ろに後ずさった。


 ……あれ? 


 威嚇というよりも……もしかして……怯えているのか??


 よくよく見れば、耳はペタンと後ろに倒れているし、ズリズリと少しずつ俺から距離を取ろうとしている様子が見える。……それは、犬が怖がっているときの様子に似ていた。



 ――これは!! あれをやるしかない!!


 俺は狼っぽいやつを見つめて、手を伸ばす。


「……おいで……さあ……怖くない……怖くない」


 もう気分はナウ〇カ。姫ねーさまとお呼び!


 俺はそのまま「怖くない」と念仏のように唱えながら、狼っぽいヤツに近づく。


 そして、ある一線を越えた時だった――。




 それまで呻り声をあげていた狼が突然クルリと向きを変え、開いている窓へ向かって高くジャンプすると外へと逃げ去ってしまったのだった。




「……ん?」


 予想と違う結果に俺はしばし呆然とする。 


 この後、一回噛まれてから「ほらね、怖くない」って言えば、狼は懐く予定だったのに……。


 そして、次第に俺は重要なことに気が付く。


「……やべぇ。これって借りパクになっちゃうってこと?」


 紫の魔石が変化した狼は既に窓の外には居なかった――。





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