49話 セクシー部長の圧迫面接
「さてと。じゃあ、二人の紹介も終わったことだし、僕はこれで失礼するよ。ルマティさん。二人の事、よろしくお願いするね」
「はい。承知いたしましたわ、先生」
先生はそう言って、サッサと演習室を出て行ってしまった。
うえ? マジか? 先生は行っちゃうの?
「お二人とも。そんなところに立っていないで、こちらにお座りなさい。お二人にお茶を」
セクシー部長のルマティさんがそう言って、俺達に席を勧める。俺達が示された席に座ると、メイドさん達が俺達のカップを用意してくれて、そこに紅茶っぽいものを注いでくれた。
「先生から伺いましたわ。あなた方、転校生なんですってね。どうして魔石クラブへ入ろうと思ったのかしら?」
うお、いきなり面接が始まった気配!! しかし、俺も元社畜だ。圧迫面接には慣れている!
「その……魔石に興味がありまして」
とりあえず、軽くジャブだ。
「まあ。例えばどういったご興味をお持ちなのかしら?」
セクシー部長が微笑みを浮かべながら、入部理由を掘り下げてくる。
「例えば……? 例えば……えーっと、どうして魔石で魔法が使えるのか……とかですかね……?」
俺の答えを聞いた時、セクシー部長ルマティさんの目の色が変わった。
「まあ! そうよね!? やっぱりそう思うわよね!! そうなの! これだけ魔石研究が進んできたというのに、肝心のその原理が実は分かっていないのよ!! あなた、よくそこに疑問を持ったわね! たいていの学生は、そういうものだと無意識に納得してしまってその根本的な疑問に気付こうともしないのよ! あなたセンスがいいかもしれないわ!! この魔石クラブはそういった魔石の根本的な謎を解き明かそうという大変高尚なクラブですわ。幸い、顧問のアルヌ教授は魔石学では右に出る者はいないほどの優れた研究者ですわ。そして、貴重な魔石も比較的手に入る環境……。この素晴らしい環境で魔石について語り合えることをお互い誇りましょう!! 我が魔石クラブはあなた方を歓迎いたしますわ!!」
突然始まったセクシー部長の演説が終わった。どうやら俺達は入部試験を突破したらしい……。
やべぇな。この人ガチなアレだわ……。
ちょっとした不安が心を過るが、魔石に付いて知りたいのは本当だ。恵まれた環境とやらで魔石の事を学べるのは願ったり叶ったりだ。
「このクラブには研究用の魔石があるのですか?」
ルビーがセクシー部長に訊ねる。ナイス質問だ、ルビー。もしかしてイキナリ当たりが出てくるかもしれない!
「もちろんですわ! アルヌ教授の伝手で入手したB級の魔石が5個に、なんと最近はA級の魔石も1つ手に入ったのよ! ご覧になる? ……マシュラ。この子たちにA級魔石を見せてあげなさい」
嬉しそうに話しながら、セクシー部長が2年生のマシュラ・カシュカと名乗った女子生徒に指示をする。
A級とかB級とかよく分からんが、この話し方からするとたぶんA級はすごいレアなんじゃねーか? もしかして『樹海の夢』とか『なんとかの雫』ってヤツが出てくるんじゃねーか??
俺が期待を持ってルビーを見ると、ルビーは軽く首を振った。……なんだ、違うのか。
そんな俺達に気付くことも無く、マシュラは無言で立ち上がると、頑丈な金庫の様な箱から小さな小箱を出してきてセクシー部長に手渡した。
「これが最近入手したA級魔石よ」
そう言ってセクシー部長が高級そうな小箱を開ける――。
そこには深い紫色をした小さな美しい石が入っていた。
「最近、我が家の領地にあるヤジリカヤ山脈の麓で見つかった魔石よ。美しいでしょう? 紛うことなきA級魔石よ! 我々の研究でどうやら風の魔法に適性のある魔石だということが分かってきたの」
俺はセクシー部長の話を半分聞きながら、魔石を見つめつつ全く別の事を考えていた。
……コイツもしゃべれるんだろうか?
「……触ってみてもいいですか?」
俺は思わずセクシー部長に訊ねる。俺もルビーも相手に触ってもらわなければ会話が出来なかった。コイツもそうだろうか?
「ええ、いいわよ!」
セクシー部長が箱を差し出した。ルビーも俺の意図に気付いたのだろう。やや緊張した面持ちでこちらを見つめる。
俺はゆっくりと魔石に手を伸ばし、紫の魔石を摘まみ上げた。
『……コワイ……コワイ……コワイ……コワイ……コワイ……コワイ……コワイ……』
その瞬間、淡々と繰り返す低い声が聞こえた――。
俺は速攻で摘まみ上げた魔石を箱に戻す。
こっちが怖ぇーわ!! なんだよ、今の!?
「あら? どうしたの? A級の魔石だから緊張しちゃった?」
セクシー部長が怪訝な顔で聞いてくる。
「ああ! はい。少し緊張しちゃいました!」
俺は何とか話を合わせつつ、ルビーに視線を送り頷いてみせる。
「私も触らせて頂いても良いですか?」
ルビーは俺のアイコンタクトを受けて、セクシー部長に許可を取る。
「ええ、もちろんよ」
そしてルビーも紫の魔石に触れた瞬間、少し無表情で固まった後、ゆっくりと魔石を箱に戻した。
「あら? あなたもそれだけでいいの?」
「ええ! これまでA級の魔石といった貴重な魔石に接する機会が無かったので、少し触れただけでも満足です」
部長の問いに作り笑いを浮かべて、ルビーが答える。
その後、紫の魔石に関するセクシー部長の演説を更に聞かされ、その日のクラブは解散となった。
寮へと帰る道を歩きながら、俺とルビーは小声で話す。
「……あの魔石の声、聞いたか?」
「……はい……。コワイ、と呟いておりました」
「話し掛けたら、答えると思うか?」
「……我々と同じであれば……恐らくは」
「人化はできると思うか?」
「……はっきりとは申し上げられませんが、アダム様のお手伝いがあれば恐らくは……」
まあ、そうだよな。ルビーに聞いても分からんよな。……俺は質問を変える。
「ちなみに魔石のA級B級ってなんだ?」
「帝国内で使われている魔石のランク付けです。取引がしやすいように魔力のおおよその大きさによって便宜的に分けられているランクです。我々のように最も大きな魔力を持つ魔石をS級とし、A級、B級、C級、D級とランク付けされております」
「へー。紫のアイツはA級って言っていたよな? そこそこってことか……」
何を持ってそこそこなのかは分からんがな!!
「……今度部長たちの居ない隙に、アイツに話し掛けてみるか」
「はい。承知いたしました」




