48話 魔石クラブ
「それでは、今日の講義はこれで終わります。次回からは少しづつ実技も入れて参りますので、魔石のついているロッドを持ってきてくださいね」
あっという間に魔石学の講義は終わった。……俺的には興味深い話ばかりで、中々に有意義な講義であった。
――あ、しまった! 先生に補習をお願いしたいんだった!!
俺ははっと思い出し、がたんと席から立ちあがる。
「!? いかがいたしましたか? アダム様?」
俺が突然立ち上がったので、ルビーは驚いた様子で俺を見上げる。
「ちょっと、今の魔石学の教師に話がある」
俺はそう言うとすぐに教室を出て、教師を追っかけた。ルビーも怪訝な顔をしながら立ち上がっていた。
「先生!」
俺が呼び掛けると、教師が立ち止まって振り返った。
「ああ、転校生の……」
「アダムと申します」
俺はすかさず名乗った。
「一体、どうしたのかな?」
教師に促されて、俺は例の補習について頼み込む。
「あの。俺が転校してくる前の授業についても聞きたいと思ったのですが、補習なんて……お願いできたりしますか?」
「へえ……」
教師が急に眼を輝かせた。
「そう言えば君、さっきも興味深そうに講義を聞いていたね。魔石に興味があるのかい?」
「……はい。凄く興味があります」
なんてったって、自分の事だし。自己認識は大事だって、どっかの偉い心理学者も言ってたような言ってないような。
「……ふむ。じゃあさ、アダム君。キミ、僕が顧問をしている魔石クラブに入らないか?」
「は? ……魔石クラブ……ですか?」
俺は想定外の提案に一瞬、口籠る。
「ああ。放課後にみんなで集まって、魔石について調べたり議論をしたりするクラブだよ。丁度会員を募集しててね。どうだい? 見学だけでもしてみないかい?」
突然のクラブ勧誘に驚いたが、よくよく考えてみればあの図書館の膨大な書物を漁るより、こっちの方が効率的なんじゃないか……という気がしてくる。
しかもこの教師が顧問ということは、授業では聞けないこととかも質問するチャンスがあるってことだろ? もしかしたら魔石自体をこの教師が持っているかもしれない……。
「入部します!」
俺は即答した。先生はニコリと笑うと、俺の後ろに視線を飛ばして口を開いた。
「後ろの彼女も入部希望かな?」
「は、はい! 入部いたします」
いつの間にかルビーも後ろに立っていた。
「うん、結構結構。ではさっそく今日の放課後に、第三演習室へ来るといい。いつもそこで魔石クラブは活動しているんだ」
「「はい」」
俺達は返事をして、魔石学の教師を見送った……。あ、肝心の教師の名前を忘れた……。
「……あの、アダム様。魔石クラブとは一体……」
ルビーが教師の背を見送りながら、俺に訊ねる。
「その名の通り、魔石の研究をするクラブみたいだな」
「そうなのですか! そのようなクラブの存在をアダム様がご存じだったとは! 確かに魔石を探すのには好都合なクラブでございますね……。本来であれば、私が見つけておくべきの情報であるのに、調査が足りず見逃しておりました……申し訳ございません!」
ルビーが平謝りをする。……いや、俺も知らなかったけどね。いいや、面倒くさいしそのまま知っていたことにしておこう。
「ま、いいけど。とにかく午後の授業が終わったら行ってみよう」
俺はそう言って、ルビーと一緒に教室に戻った。
そしてその日の放課後、さっそく俺達は第三演習室へ行ってみたのだった。
演習室に入ると、中央付近に魔石学の教師と三人の学生がテーブルを囲んで座っていて、壁際にはメイドっぽい服の女性達が立っていた。
「やあ、来たね!」
俺達を見つけた先生がにこやかにそう言うと、一斉にみんながこちらへ視線を送る。
「皆、この子たちがさっき話した1年生の新入部員だよ。アダム君とルビーさんだ」
「よろしくお願いします……」
俺とルビーはペコリと頭を下げる。
「じゃあ、改めて自己紹介をしよう。私は顧問のアルヌ・シュピリムだ。ご存じの通り、魔石学の講師も務めている。よろしくね」
次に先生の隣に座っていた大人っぽい美人の女子学生が立ち上がった。ぷっくりした唇の下のほくろが大変にエロい雰囲気を醸し出している。
「3年2組のルマティ・バンドルベルよ。魔石クラブの部長を務めているわ。よろしく」
ん? バンドルベルっつった? 今?
俺の疑問もお構いなしに次次と自己紹介が続いていく。
「3年のムルタリス・カマルユックだ」
「2年のマシュラ・カシュカ……」
……無理。この国の人の名前、覚えらんない。辛うじて三年生が二人と二年生が一人と言うことだけは覚えた。ってか、人数少なくない?
「いやー、二人が入ってくれてよかった! 今年は一年生が一人も入らなかったからどうしようかと思っていたんだよ!」
アルヌ先生が嬉しそうに言った。
……マジかよ。なに? 人気無いの? 魔石クラブ――。




