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47話 魔石について学ぶ魔石

 


「ああ、もう少し早ければ! 君たちにもプライベートルームでごちそうしたのに!!」


 悲痛な表情でトルティッサ・バンドルベルが叫ぶ。いちいち大げさな奴だな……。


「ああ、ありがとう。けど大丈夫。俺達は大食堂に行くから」


 トルティッサの突然の登場にルビーがあからさまに引いているので、俺は軽く礼を言ってさっさとその場を離れようとした。


「は!」「これはこれは!」「転校初日から大食堂だなんて、お二人は庶民を気取ってらっしゃるのかしら?」


 トルティッサの取り巻き三人が嘲笑しながら、嫌味なことを言ってくる。


 キタ! マウンティング! ……ってか、君たちなんでいつも三人セットで喋る訳?


「……あなた方……無礼ですわよ? アダム様はご将来のために、学生のうちに民の生活を学ぼうとされているのです」


 ルビーがゆらりと俺の前に出て、低い声で三人の取り巻きに向けて言った。――あれ? 怒ってる? ちょっとルビー、コントにマジギレ良くないヨ? 


 一瞬にして場に張り詰めた空気が醸成される。


 ここからだとルビーがどんな表情をしているか分からんが、なにやら三人が先ほどから打って変わって蒼白な顔をしているので、よほど恐ろしい形相なのかもしれない……。



「ああ! この三人を許して欲しい! 少し言葉が過ぎたようだ!!」



 突然トルティッサが場の空気を読まない気取った声音で大げさにルビーに言った。


 俺は一気に脱力する。……いや、ナイスフォローだ。トルティーヤ……あ、間違った。ま、いーや。


 っつーか、大食堂だって貴族の使う場所だろ。別に民の生活って程でもねーじゃねーか。俺はルビーにもツッコミたい気持ちを抑えつつ、貴族同士のやり取りがいいかげん面倒になったので口を開いた。


「別にいいよ。ほら、行くぞ。ルビー」


「し、しかし!」


 反論しようとしたルビーを少し睨む。


「……はい、承知いたしました」


 ルビーは少しシュンとした顔で答えると大人しくついて来たので、俺はそのまま大食堂へ向かった。


 トルティッサの三人の取り巻きも、それ以上は何も言わず俺達を無言で見送ったのだった。





 ――大食堂は思った以上に立派だった。


 細かな意匠を施した太い柱が高い天井を支え、その天井近くにはめ込まれたステンドグラスの様な窓から柔らかい光が差し込んでいた。


 さらに天井には大きなシャンデリアがいくつも吊り下げられ、太陽の光を受けてキラキラと煌めいていた。


 食事をするテーブルとイスは黒っぽい高級木材で作られているようで、長年磨き上げられてきたのだろう。ステンドグラスから差し込む柔らかい光を優しく反射していた。



「……民の生活、ね」


 俺は食堂内を見回しながら、先ほどのルビーのセリフを呟いた。


「先ほどは取り乱してしまい、申し訳ございませんでした……」


 ルビーは俺の言葉にビクッとして、頭を下げた。


「ま、いいけど。あんまり喧嘩とかするなよ。さっきは結果的にトルティッサに助けてもらったようなもんだぞ」


 俺は一応、ルビーに苦言を呈する。どの口が言うんだ――と思われるやもしれんが、学校内では俺はまだ一回も喧嘩してないし。これからも優等生を続けるつもりだからな。



 その時、食堂内に予鈴が響き渡った。……あれ? もう昼休み終わり? 早っ!?


 結局、俺達はその日のお昼は結局食べずに、教室へ戻ったのだった。




 午後の授業は『魔石学』だった。俺が密かに楽しみにしていた科目だ。まさか、魔石の事が授業の科目になっているとは思ってもみなかった。


 とは言え、ルビーの話だとカリナドゥナの時代にはまだ科目としてはなかったということなので、比較的新しい学問分野ではあるようだ。


 そして新しい学問だからなのか、教師も比較的若めのオッサンだ。ちなみに他の教科は、いかにもな感じの爺教師が多い。


 しかし、さすが魔石研究をしている帝国だな。リムシュが居たらめっちゃ喜んでいただろうに。いや、アイツのことだから喜ぶだけじゃなくむしろ教師になるくらいの勢いかもしれないが。



「さて、ではこれまでに皆さんには魔石の生成過程について学んでもらいましたが、本日からは魔石そのものについて学んで参りましょう」


 教師が教室を見回しながら言った。


 なんだと!? 魔石の生成過程も知りたいぞ! 俺がどうやって生まれたのか分かるのか? くっ! 後で教師に補習を希望してみるか……。


 俺はイキナリ冒頭から心を掴まれる。やるな、この教師!!


「ご存知の通り、それぞれの魔石にはそれぞれの特徴があります。例えば大きさの違いですが、大きさで有名なのはアダマント国にあった黒い魔石ですかね……アダマント国の滅亡とともに行方不明になってしまっていますが……私も一度見ましたけれど、あれほど巨大な魔石は今のところ他には見つかっていません」


 おうふ! イキナリ俺の話かよ!! ってか、俺って一番デカい魔石だったんだ……。 知らなかったぜ……。 


 あと、アダマント国は滅亡させられたんだよ、この国に。俺はどうしてもそれだけは言いたくて、心の中で教師の言葉を指摘する。――いや、本当は声を大にして言いたいけど、今やったら色々ぐちゃぐちゃになるから、心の中で指摘するだけで我慢してやる。


「それから色の違いも特徴として挙げられます。例えば先ほどのアダマント国の魔石は黒ですし。また、我が国が所持している有名な魔石もそれぞれ色に特徴がありますね。例えば『赤の魔石』……『ハート・オブ・クイーン』と言う別名の方が有名でしょうか……こちらの魔石はその名の通り赤い色をしておりますし、『樹海の夢』は緑、『夜の雫』は青と言ったように……」


 ん? 『赤の魔石』ってルビーの事だよな? 『ハート・オブ・クイーン』だって。なんだよ、その二つ名は。ぷぷっ。


 俺がルビーをチラリと見ると、ルビーは恥ずかしそうに俯いた。


 それにしても知らねーのが二つ出てきたぞ。『樹海の夢』と『夜の雫』か。全体的に魔石の名前が若干厨二病臭がするのは気のせいだろうか。


 しかし、恐らくこの二つがルビーが言っていた他の2つの魔石なんだろう。早くも魔石の重要な情報が入ってきたぞ。


 俺は前のめりで、魔石の講義に没頭したのだった――。








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