46話 おっとり司書と恋する(?)爆弾石
図書館は大変立派な建物であった。
中に入るとこれまた立派な内装で、おまけに物凄い静かで入るのに躊躇するくらいだった。
「この学院の創立当時からある歴史ある図書館なのです。帝国内に1冊しかない希少な本も数多く収蔵されており、国内の研究者たちもこの図書館に定期的に通い詰めるほどの場所です」
ルビーが図書館の案内人のような説明をする。
「へえ。じゃあ、魔石のこととか、神の事も何か分かるかな……」
「そうですね。館内は広いですから……司書に聞いてみましょうか」
俺とルビーは話しながら、入り口付近にあるカウンターのような場所へ向かう。
「すみません」
ルビーがカウンターにいた女性に声を掛ける。
「はい?」
カウンターの女性は何やら書類を見ていたようだが、ルビーが呼び掛けるとすぐに返事をして顔を上げる。
思いの外、若い女性だった。司書と言うとなぜかおばさんのイメージだった俺の予想は大きく外れた。
少し垂れ目がちな大きな目でこちらを見つめる女性はいわゆるおっとり系なイメージの女性であった。 うん。嫌いじゃない。むしろ好みっす。
「何かお問い合わせですか?」
女性はイメージ通りのゆっくりした口調で、優し気に俺達に訊ねる。だがしかし! 好みだからこそ! 俺は話せない!
「ええ。魔石の本と神話の本を探しておりまして……」
ルビーが黙り込んだ俺に代わって、司書の女性に伝える。女性はポンと手を叩いて答えた。
「ああ。少し分かり辛い場所なので、ご案内しますね。……あ、その前に学生証を拝見できますか?」
おお、学生証なんて必要なんだ。一応、転校初日ということで渡されたまま持ち歩いていたが、そうでなければ持ってなかったかもしれん。ある意味ラッキー。
「はい。アダムさんとルビーさんですね。では学生証はカウンターで預かりますね」
どうやら図書館に入館する時は学生証がパスの役割を果たすらしい。入館時にカウンターへ預け、退館するときに学生証を返却してもらう仕組みだと、カウンターの上に説明書きが載っていた。
俺達はおっとり司書に案内され、図書館の中を歩く。
「こちらが魔石関連の棚ですね」
おっとり司書が案内してくれた棚には、ずらーっと大量の本が並べられていた。……マジかよ。こんなにあんの??
「それと、こちらの棚が神話関連の棚です」
魔石の棚から割と近い場所に神話の棚もあったが、これもまたずらーっと大量の本が並べられていた。……気が遠くなるな……調べきれるかな。
心が折れそうだ……ってか、はっきり言って既に折れていると言っても過言ではない。
「……ま、少しづつ本を探しながら、聞き込みも同時並行でやる……だな」
俺は壮観な本棚を眺めながら、ボソッと呟いた。
「そうですね。こうなると持ち出せないのが辛いですね……。調べるときは毎回図書館まで足を運ばなくてはならないですから」
ルビーも顎に手を置き、困ったように呟く。
まあ、あの司書さんに逢えるから図書館通いも悪くないけど……なんて俺は考えたがもちろん言わない。
とりあえず本の場所が分かったということで、今回はすぐに図書館から出た。
「では次は……食堂に行ってみましょうか。これからランチ時間は食堂で情報収集をしないといけないですからね」
「あーそうだな」
俺は気の無い返事をしつつ、もうルビーの勘違いはそのままにしておこう……と思った。
図書館から少し歩いて、食堂へ到着する。こちらもまた石造りの立派な建物だった。
入り口付近を見ると、食事を終えた学生たちが三々五々食堂から外へ出て行く様子が見られた。授業が終わってから既に一時間以上経っているからな。もう皆食べ終わる頃合いなのだろう。
俺達は食堂に足を踏み入れた。
ルビーが食堂内を指さしながら説明してくれる。
「食堂は2つに分かれておりまして。一つは向こうにある大食堂と呼ばれる所で、一般的に皆が食事をする場所です。もう一つはこちらの階段の先にあるプライベートルームと呼ばれる所で、予約を入れて少人数で利用する場所になります。ただし料金が非常に高いです。とは言ってもカリナドゥナはほとんどプライベートルームばかり利用していましたし、当然ながら上流貴族の学生はこちらを使うのがステータスのようでした……今もその風習が残っているかは知りませんが」
ルビーの説明を聞きながら、貴族社会のいやらしさを垣間見る。こういう所でマウンティングする訳だな。貴族と言ってもやってることは猿と変わらねーな。
などと思いを馳せていると、階段の上から声がした。
「おや! アダム君にルビー君! 用事は終わったのかい?」
……この声は……!?
俺はげんなりしながら、階段の上に視線を走らせる。
そこには想定通り、トルティーヤ……じゃなかった……トルティッサ・バンドルベルが宝塚の大階段からおりてくるかの如く優雅に階段をおりてくる姿が目に入った。
なんだよ、その気取った階段のおり方は……ツッコみたい気持ちでいっぱいだったが、ツッコんだら負けの様な気がして何とか我慢した――。




