44話 キャンパスライフ、始まる!
一か月後、ラナムナは上手いことやったようで、俺達は無事ハッティルト帝国学院の第一学年に入学できることとなった。
学院はいわゆる寄宿学校であった。そして貴族学校だけあって学生たちには個別の部屋が与えられ、また専用の奴隷を3人までつけてよいとされていた。
ちなみに俺は奴隷を使うという行為があまり好きになれないので、ラナムナの申し出を断って奴隷は連れてこなかった。ルビーも俺に併せてなのか奴隷は連れてこなかった。
学院の寮は男子学生用のソレルム寮と女子学生用のルア寮の二つに分かれていた。俺とルビーはそれぞれの寮へ案内され、初日は寮内の見学をするくらいで終えたのだった。
そして次の日から、いよいよ本格的な学生生活が始まった――。
「――という訳で、アダムさんとルビーさんのお二人はこれまでハズル王国に留学していらっしゃったと言うことで、我が学院にはこのタイミングからの入学となりました」
ざわつく教室内で教師が簡単に俺達を紹介した。
ラナムナの裏工作で俺達はこれまでハズル王国に留学していたことになっており、ハズル王国でクーデターが起きたため帝国に帰還し、学院に途中入学することになった、という設定になっていた。
「さあ、ではお二人はそちらの空いている席に座ってください」
教師は後方の空いている席を指で示し、俺とルビーが隣り合って座るとすぐに授業が始まった。
俺は授業を聞きながら、熟考する……。
……え? 何についてかって? もちろん学校内でのキャラ付けについてだ! 今後の学院生活の充実度を左右する重要かつ重大な検討事項である。
せっかく有力な貴族になったんだから、やはりここははりきってスクールカースト上位を狙っていくべきであろうか……?
憧れのリア充! だって家柄もそこそこだし、金持ちだし、デュオルのお陰でイケメンだし! ……え? コミュ力? なにそれおいしいの?
いやいや、違う! 冷静になれ! 俺!
まずは学院に潜入した目的を前提に考えないとだろ! あぶねーあぶねー。うっかりリア充という甘美な響きに囚われるところであった。
学院に来た目的は言わずもがなだが「神の情報を集めること」「学院に保管されている魔石を見つけること」だ。これを忘れちゃいかん。
まあ、神についてはまだ有力な手掛かりは無いけど、魔石については既にルビーの情報があるからな。まずは魔石を探しつつ、神の情報も集めていく方向性で良いだろう。
で、その魔石だが……。
魔石はとても貴重なものだから厳重に保管されている、みたいなことをルビーが言っていたし、恐らくは教師が保管しているに違いない。ありがちなのは、校長とかな。いや学院だから院長なのか? まあ、どっちでもいーや。
つまり、まずは教師に取り入る必要があるってことだ。では、教師に取り入るにはどうするか……もちろん真面目な学生が好かれるに決まっているはずだ!
……いや、まてよ……。真面目な学生が好まれるのは日本人的価値観か? もし自主性を重んじる学校だとしたら、真面目なだけではダメな可能性も……。
いやいや、基本に立ち返ってみよう。学校とはそもそも学業に勤しむ場所だ。やはり勉強が出来ることが一番なのではないか? 自分の教えている授業で良い成績を取る学生を嫌う教師などいないだろう……。よし、決めたぞ!
――『全教科学年1位』に!!! 俺はなる!!!!
その時、午前の授業の終了を知らせる鐘が鳴り響いた。
途端に教室がざわめきはじめ、教師も「では授業を終了いたします」と言って教室を出て行った。
「アダム様……何かご懸念事項でもございましたでしょうか?」
ルビーが険しい顔で隣の席から声を掛けてきた。
「え?」
俺はルビーの質問の意図が分からず、聞き返す。
「いえ、なにやら考え込まれているご様子だったので……」
え? そんなに考え込んでる風に見えちゃった?
「いや。大丈夫だ」
学年1位を目指すからにはルビーもライバルだからな……。俺の野望はルビーにも教えんぞ! さも勉強していないふりをして油断させてやる。
「……そうですか。何かご懸念があればいつでも私にご命令くだ……」
「やあ、アダム君! ルビー君!」
ルビーの言葉を遮って、突然気取ったような声が割り込んできた。
俺達が、思わず声のした方を見るとそこには偉そうに胸を反らせて立つ男が居た。その後ろには取り巻きだろうか? 男二人と女一人の姿も見える。
「君たち、僕達と一緒にランチでもどうかな? 学院生活について色々教えてあげるよ?」
――なんだコイツ?
俺が面倒くさそうな表情をすると、ルビーがスッと男と俺の間に入り、口を開いた。
「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「な!!!」「なんだと!!」「トルティッサ様をご存じないなんて!」
ルビーの言葉に対して、後ろに居た三人が過剰に反応する。
「まあまあ」
男が気取った笑みを浮かべて後ろの三人を制する。
「転校してきたばかりでは仕方ないだろう……。名乗るのが遅れてすまない。私はトルティッサ・バンドルベルという。どうぞ、お見知りおきを。美しいレディ」
そう言って、気取った男は気取った態度でルビーの手を取り、あろうことか手の甲にチュッとキスをした。
……なんだよ、それ。俺はプレイボーイを気取るトルティッサの行動に脱力する。
「!!」
そしてさすがのルビーも驚いたらしく、一瞬身を引く。
大丈夫か? ルビーの奴、いきなりキレて魔法とか使わねーだろうな……。なんだか急に心配になる。
「……お誘いありがとう。だが、これから俺達は用事があるのでランチは結構だ」
俺は立ち上がってルビーの腕を掴み、トルティッサからルビーを引き離しつつ、やんわりランチをお断りする。
「……アダム様」
心なしかルビーが赤い顔をして呟く。
「な!!!」「なんだと!!」「トルティッサ様のお誘いを断るなんて!」
――いちいちうっせーな。こいつら。
「まあまあ」
トルティッサが気取った笑みを浮かべてまた三人を制する。
――なんかだんだん、コントに見えてきたぞ。なに? こういう芸風なのコイツら?
「転校してきたばかりでは仕方ないだろう……。色々手続きとかもあるのかな? 忙しい所すまなかった。ではまた次の機会に!」
そう言って、トルティッサはキュっと華麗にターンをすると三人を引き連れて優雅に立ち去って行った――。




