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43話 私は帰ってきた的な

 

 時々馬を休憩させながら馬車を走らせ続け、次の日の夕方にイスカムル家の門の前に到着した。


 当然のように門前には番人らしき武装した男が二人立っていた。


「おい。見張りが居るぞ。このまま入れねーだろ?」


 俺がそう言うと、ルビーはニッコリ笑って「いえ、大丈夫です」と言って馬車を進めた。マジで?



「止まってください」


 当然のように門番に声を掛けられる。


「失礼ですが、本日はお客様のいらっしゃるご予定は聞いておりません。屋敷に入るには事前の申請が必要です。申請が通ってから……」


「当主に『カリナドゥナが戻ってきた』と伝えてくださいますか? すぐに許可が出るでしょうから」


 ルビーが当然のように言い放つ。


 ほほう、先々代の皇后の名前を使う訳ね。……ってか、まだ生きてんの? 生きてたとしてもめっちゃババァじゃないの? 俺は『?』を飛ばしながら、ルビーの交渉を見守る。


「……カリナドゥナ……様!? ……しかし」


 恐らく門番たちも『?』になっているのだろう。


 ルビーの強気な姿勢に少し躊躇しつつも一人が反論しようとすると、ルビーが言葉を被せて言った。


「あなた方が判断して良いことではありません。すぐに当主に伝えなさい」


「……少々、お待ちください」


 ルビーに押し切られると、門番の一人が青い顔をして屋敷の方へ走っていった。



 ・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・



 結果、俺達は無事屋敷の中に案内され、そのままあれよあれよと当主の執務室に案内されたのだった。



「カ……カリナドゥナ様……。本当に……? ……いや、絵姿とそっくりだ……」


 ルビーの姿を目にした時、現イスカムル家当主ラナムナ・イスカムルは声を震わせて言った。


「よ、蘇られたということでしょうか?」


 甦る? どういうこと? なんのこっちゃ状態の俺はルビーとラナムナの会話を黙って見守る。


「ええ。やるべきことが出来たので、この世に戻ってきたのです」


 ルビーが少し笑みを浮かべながら答える。


「……やるべきこと……ですか?」


 ラナムナは白髪が混じり始めた眉毛をピクリと動かして、ルビーを見つめる。


 このオッサン、本当にルビーのいうことを信じているんだろうか? 俺はルビーの隣に座り、ラナムナのオッサンの反応を見つめる。


『蘇る』とか『この世に戻ってきた』とか言ってるから、やっぱり本当のカリナは既に死んでるってことだよな? 死人が蘇ってきてイキナリ訪ねてくるとか……普通、信じられねーと思うんだけど……。


 しかしルビーはあくまで強気にラナムナと話を続ける。


「ええ。我々はこれからハッティルト帝国学院に入らねばなりません。その為の手配を貴方にお願いしようと思って訪ねたのです」


「……もちろん手配は可能ですが……やるべきこととは一体……?」


「それを貴方が知る必要はありません」


 ルビーがぴしゃりとラナムナの言葉を拒絶する。おお、なんでこんなに強気なの? ルビーちゃん?


「……しかし、それでは……」


「大丈夫ですわ。全てこのイスカムル家を更に発展させることに繋がるのですから。イスカムル家はわたくしの指示に従わねばならない……そうでしょう?」


 ルビーが美しく冷たい笑みでラナムナに笑いかける。


「はい……それはもちろん。貴女のお陰でイスカムル家は勢力を保って参りましたから……」


 ラナムナが浮かされた様にルビーに返事をする。


「それでは、今から言うことを手配なさい。まず、こちらにいらっしゃるアダム様をイスカムル家の養子にすること。……ああ、心配しなくとも跡目を継がせろと言うのではないわ。あなたの息子として学院に入学するだけよ。それと、私がカリナドゥナであることは家の者以外には内密に。私はアダム様の従妹ということにいたしましょう。分家のイスカムル家のどこかに私を養女として入れなさい」


「はい……承知いたしました。既に学院の入学時期は過ぎておりますが、学長とは幸い親しい間柄ですので、なんとか途中入学させてもらえるよう交渉いたしましょう」


 ルビーの指示にラナムナはあっさりと頷きながら返答した。……マジで!? 従っちゃうの?


「ええ、お願いね。色々と入用にもなるでしょうから、とりあえずこれを渡しておきますわ」


 そう言ってルビーはアダマント国から持ってきた、帝国軍の軍資金が入った大袋をラナムナに渡した。


「これは……? ……ありがとうございます」


 ラナムナは中を少し覗くとすぐに袋の口を縛り、ルビーに礼を言った。


 いや、いいんだけどラナムナのオッサンってば、なんでこんなすんなり協力してくれちゃうのかね? ルビーの奴、なんか催眠術とか使ってんじゃねーのか?



 その謎の一旦は、ラナムナとの話し合いを終えて、俺達にあてがわれた部屋に戻るときにルビーの話を聞いて少しだけ分かった。


「イスカムル家は非常に信心深い家系なのです。先祖が自分たちを守っているのだということを小さい頃からずっと教え込まれて育つので、先祖の霊と言うものを皆信じています。併せて、その先祖代々が守り継いできた家系の維持・拡大が何よりも重要だと言うことも教え込まれますので……それを利用したまでです」


 何事もないかのようにサラリとルビーが言い放つ。


「特にカリナドゥナはイスカムル家の中でも別格の神聖性を持っています。カリナドゥナが皇后になったことで一気にイスカムル家は帝国の筆頭貴族になったのですから」


 そう言って、ルビーはある一点にふわりと視線を向けた。俺もつられてそちらに視線を向けて……驚いた。


 俺達の歩く廊下には歴代当主の絵が掛けられていたのだが、ルビーが見つめた先の一番目立つ一番大きな額にルビーの絵が飾られていたのだ。


「うお! ルビーじゃねーか」


 俺が驚いて思わず口を開くと、ルビーがクスッと笑って言った。


「これがカリナドゥナですわ。ハッティルリ二世の寵愛を受けて帝国皇后となり、帝国の母と呼ばれ……そして、私の最初の持ち主でもあった女性です……」


 ルビーは懐かしそうな顔で巨大な姿絵を見つめる。


 俺ももう一度カリナドゥナの絵を見上げる。


 なるほど、ルビーの姿はこの皇后の姿だった訳か。これはラナムナでなくとも本人だと言われれば、信じちゃうかもしれないな。


 ……俺もデュオルの姿をコピーしたようだし、魔石が人化する時の姿には何か法則があるのかもしれない。


 俺はそんなことを考えながら、豪華な衣装を纏うカリナドゥナの絵を感慨深く見つめたのだった――。








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