38話 転生といえばやっぱり……
俺は出発前に、まだ帝国兵の生き残りが居るかもしれないので、念のため周辺を探知しようと思った時にある異変に気付いた。
――あれ? イメージが頭に浮かばない……。
石の時に重宝していた『目が見えなくても周辺を探索できる技』が、出来なくなっていた。なんで? なんで? WHY?
もしかして目をGETしたからだろうか? 石の時、限定の能力ってコト? 全然理由は分からんが、とにかく周辺探査能力は使えなくなっていた。むむむ。
まあ、使えないもんはしゃーない。俺はあっさり探知を諦めると、そのまま北に向けて出発することにした。
帝国へ入るにはアダマント国を北上し、ハズル国を越えなければならない。
ハズル国までは街道が整備されている為、都からは一日もあればすぐに着く(まあ、そのせいで帝国に迅速な奇襲をされてしまった訳だが…)。
俺とルビーはすぐに出発し、ただひたすら街道を北上した。
自らの足で歩くという行為が久しぶり過ぎて(ルビーは初めてだろうし)、はじめは慎重にゆっくりと歩いていた。
しかし、すぐに歩き方には慣れたし、おまけにどうやら俺達の体には『疲労』というものが無いらしく、まったく疲れないので早く帝国に行きたい気持ちも相まって、俺はドンドン歩みを速めていった。
ハズル国へ着くまでの景観が酷かったので、その様子をあまり目に入れたくないという理由もあったかもしれない。街道沿いに点在する村々は帝国軍によって荒らされ、見る影も無かった。
まあ、そんな感じでしばらくは足早に無言で歩いていたが、無言で歩くのも飽きたので歩きながらルビーから情報収集をする。
「お前以外の特別な魔石の二つは帝国内のどこにあるんだ?」
俺は早歩きしながら、ルビーの方を振り返って質問した。
俺の歩く速度に遅れまいと、一生懸命付いてくるルビーの胸がすっげー揺れている。ゆっさゆっさと深淵が右に左に……GETしたばかりの目には刺激が強すぎる……! でも、見ちゃう! 悔しい! ビクンビクン!
「申し訳ございません。私は一つの魔石の行方しか存じ上げておりません……。その一つは帝国に設立された貴族の子弟のための学院に保管されていると聞いております」
……おっと、ヤベ。質問してたんだ。
「へー、帝国に学校なんてあるのか……」
俺はルビーの乳パニックを抑えつつなんとか平静を装った声音で呟くと、ルビーがスラスラと説明を始めた。
「はい。16歳から18歳の成人前の貴族の子弟が通う学院です。彼らはその学院で帝国の歴史や法学、政治学、軍事学等を学びます。その後、学院の卒業と同時に成人と認められ多くは軍人・もしくは政治家となります」
「……なんで人間の学校にそんなに詳しいんだ?」
俺がツッコむと、ルビーがなぜか少し寂しそうに笑って言った。
「私の一番初めの持ち主がその学院に通っておりましたので……」
「ふーん。そうか」
……それにしても、学院か。転生した異世界での学校生活ってちょっと憧れない? 悪役令嬢とかいるんじゃねーの? 楽しそうじゃね? ……ねぇ? どうする? ……入学しちゃう??
学校なんて、人間だった頃は超嫌いだったけど、余りに暇な石生活を送ってきた身としては時間に縛られる不自由な学校生活が逆に甘美に感じる。
俺は心の中で、自問自答しつつもその心は決まっていた。
「よし。その学校に入学して、魔石を探すぞ」
「……はい?」
俺の言葉にルビーは理解が及ばないのか、キョトンとしている。
「せっかく人の姿を手に入れたし、有効活用しないとな」
その言葉を聞いて、ルビーは初めて理解が追いついたのか驚きの顔をして口を開く。
「わ、我々が人間の学校に入るのですか? 魔石の我々が? ……いや……そうか、確かに今我々は人間の姿になっている……強硬手段で奪うにしても詳しい場所が分からない以上、下手に動けば魔石を隠されてしまう可能性もある……なるほど……有効な作戦かもしれませんね……さすがはアダマント様、素晴らしいお考え……」
ルビーも初めは驚いた様な顔をしていたが、なにやらモニョモニョと考え込んだ後は割と乗り気になったようで、急に俺に尊敬の目を向けてきた。
……いや、素晴らしいお考えとか言われると逆に恥ずかしい。
俺は恥ずかしくなってしまったので、ルビーの言葉には何も返さずに歩みを進めた。
その後しばらく二人で無言で歩いていたが、ふいにルビーが話し掛けてきた。
「アダマント様……先ほどの学院潜入の件なのですが、ご提案をさせて頂いても宜しいでしょうか」
「……なんだ? 言ってみろ」
俺はまだ照れくさくて、不愛想に答えてしまう。
「ご許可頂きありがとうございます……。先ほども申し上げました通り、学院には貴族でなくては入れません。我々にも貴族の家名が必要となるかと思います。私に少しアテがありますので、その裏工作をするために立ち寄っていただきたい場所があるのですが……」
そっか! 貴族しか入れないんだっけ。やべー。そこまで考えてなかった!! ……という焦りは胸の内にしまい、ルビーの提案を促す。
「ほう? ……それはどこだ?」
「帝国のイスカムル領と言う所です。そこの領主が貴族のイスカムル家と申しまして、先々代の皇后を輩出した帝国内でも屈指の家柄です。私の元の持ち主の家なのですが……そちらの家名を使いましょう」
ほうほう、イスカムル家ね……知らんな。
「……任せる」
「は。ありがとうございます!」
ルビーは畏まって答えた――。




