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36話 自分、不器用っすから……石だし


『はい?』


赤い魔石は突然の俺のムチャぶりに、驚いた様に疑問形の返事を返す。


「出来ないのか?」


俺はその返事に興を削がれて、冷たい声音で訊ねる。


『……やってみます』


赤い石はそう答えると、ぼんやりと光り始めた……。


サラマ達が呼び寄せられるように赤い石の周りに集まり始めた。――しかし、赤い石自身にはなんの変化も見られなかった。


……やっぱり難しいのか?


俺はその様子を見ながら、すっと赤い石に手を伸ばしその表面に触れる。その瞬間、ビクッとするかのように赤い石が明滅した。


――俺は赤い石に手を触れたまま、自分が人間の姿になった時の感覚のイメージを赤い石に流し込んだ。


するとグニャリと赤い石の形が乱れ、まぶしい光を発しながらムクムクと人の形が構成されていった。



そして、一際大きく輝いたかと思った瞬間……。




――俺の目の前には全裸の美女が座り込んでいた。




白磁の肌と、流れるようにウェーブした赤く長い髪。驚いた様に俺を見上げる大きな瞳はピジョン・ブラッドのような深く濃い赤だった。



……俺は思わず息を飲む。



何となくこいつも人間の姿に変身できるんじゃないかとは思っていたから、人化自体には驚かなかったが、まさか女の姿になるとは思わなかった……。



俺はシュバッと足元の布を拾い上げ、それを赤い魔石が変身した女に投げつけてぶっきらぼうに言った。



「……とりあえず、それ着ろ」



ヤバい。


シャルはもはや出会い方がアレだったから、女と思わずに普通に話せたけど……どうやら俺は未だに女と話すのに慣れていないようだ……!


思わぬ自分の人間の頃の名残に気付き、愕然とする。


さっきまでのどす黒い気持ちは完全にどこかに吹っ飛び、無表情を装いながらも頭の中は大パニックだった。


――オチツケ! オチケツ! オチツケ! 人間の姿をしているがこいつは石だからな?Do you understand? OK? ほら、石だと思って見ればなんともな……


そう自分に言い聞かせながら、チラリと赤い石の女を見る……。


途端に心臓はバクバクと嫌な音を立てて暴れ回った――ってか、俺に心臓あるのか!? 石なのに!! しかし、どうやらそれは俺が自分のイメージで作り出した心臓の感覚だったようだ。けど、もはやそんなことはどうでもいい。とにかくヤバい。




「あの……」


赤い石の女が黙り込んで座った俺の様子を伺いながら話し掛けてくる。


「……なんだ?」


半裸の美女が目に入ると、またパニクるので視線を外したまま極力短い言葉で答える。長文をしゃべるとたぶん動揺で声が震えちゃうから。


「ありがとうございます」


女が俺にお礼を言う。


「……何がだ?」


何に対してのお礼なのかさっぱり分からない。相変わらず声が震えそうなのでまたもや極力短い言葉で訊ねる。


「ピトーハから解放して頂いたことと、人の姿になることを教えてくれたことです……」


「あっそ」


赤い石の女の言葉を聞いて、それだけ返す。いや、本当はもっときちんとした言葉で返したいんだけど、俺の口が動いてくれないんだ。



「……」



「……」



「あの……恐れ多いこととは存じますが……私を貴方様の部下にして頂けませんでしょうか?」


少しの沈黙の後、赤い石の女が決心したように俺の前に跪いて懇願する。



バ、バカ! お前! そんな角度で跪いたら、胸が……



俺は赤い石の女の胸の谷間から思わず目を背ける。なんだよ、あの化け物は。あんなもん見ちまったら卒倒してしまう……。


「どうか……お願いいたします!」


俺がそっぽを向いたのを、拒否の意思表示かとでも思ったか女が悲痛な声で更に頼み込む。


「……勝手にしろ」


いや、マジで、ホントもっと気の利いた言葉を返してあげたいんだけど、無理ゲーだわ。これ。本当は同じ種族?の仲間が増えて、とっても嬉しいのだけど。


「あ……ありがとうございます!」


女がパッと顔を上げた。


「……お前、名前は?」


呼び掛けようと思って、そう言えばまだ名前を聞いていないことを思い出す。


「名前……ですか? 人間達には『赤の魔石』と呼ばれておりましたが……」


うん、それ名前じゃないよね……。


俺がまた黙り込んだのを見て、慌てた様に赤い石の女は口を開いた。


「どうぞ、私めの事は貴方様の呼び易い名でお呼びくださいませ」


呼び易い名前ね……俺は少し考えて答える。


「……じゃあ、ルビーって言うのはどうだ?」


まんまだけど、赤い綺麗な石と言えばルビーだろ。なんて、割とテキトーに名付ける。


「ルビー……。はい! ありがとうございます!!」



しかしそんな適当な名付けにも拘らず、ルビーは輝くような笑みを浮かべて、とても嬉しそうに頷いたので、少し胸が痛んだのはココだけの話――。










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