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35話 荒ぶる石



夢を見ているような気分だった――。


『……レオ……?』


倒れたレオの手が俺の体に触れていたが、いくら呼び掛けてもレオは返事をしない。


「これがアダマント国の魔石か!! 見ろ!! 素晴らしいではないか!! これほどまでに大きく美しい魔石は初めて見たぞ!!」


ピトーハと名乗った騎士が、俺のことを何か言っているようだが、何も頭に入ってこなかった。


ただ、レオの流した血の暖かさだけが、俺に現実を突きつけていた――。


キーーーン、と耳鳴りの様な音がして、全ての感覚が虚ろになる。


ドクン・ドクン・ドクン……レオの弱まっていく鼓動にあわせるように、何か暖かい小さな光が俺の中に入り込んできたような気がした。



……その直後、俺は自分の中で何かが弾けた様な気がした。



俺はこんなにも無力なのか? 魔法を奪われたら、文字通り手も足も出ないのか……。



――ああ、でもよく考えれば、この世界に来てから大切なモノを守れたことなんて一度も無かったっけ。いつも守り切れずに失うだけだった……。



「神のお告げ通りだ! 我々ハッティルト帝国には神が付いている! この国を蹂躙し、我らの帝国を更に拡大するぞ!!」



神だと……? その名が聞こえた時、絶望した俺の内側にどす黒い何かが蠢くのが分かった。



同時に俺の奥底に沈んでいたデュオルの魂の欠片が浮かび上がってきて、俺に何かを問いかけるように煌めく。


「お前ら!! この魔石を運び出すぞ。帝国へ持ち帰るのだ!!」


ピトーハの言葉を聞いた時、俺の中に一つの渇望が生まれた。




『自由が欲しい』




久しく忘れていた言葉だった。自分が鉱物であることを認識した時から、勝手に諦めていたが、今、焼け付くような絶望と共に俺の中にその渇望が蘇った。



――もっと……もっと……敵を倒せる自由が欲しい



そう強烈に願った途端、なぜ今まで出来なかったのかが不思議に思われるほどすんなりと、人間だった頃の手足の感覚が自分の中に蘇ったことに気付いた。


そしてそれと同時に大きな黒い石であった自分の体が再組成され、人の形になっていく様子が自分の目を通して見えた――。



はい! 大切なことだからもう一度言います!(久しぶりの!)


自分の体が人の形になっていく様子が見えた……のだ。自分の目を通して!




――そして、あっという間に体の再構築が終わったことを見届けると、俺は自分の体から視線を離し静かに顔を上げる。



すると俺の目の前には呆気にとられたようにこちらを見つめるピトーハと帝国兵達の姿があった――。



レオが刺された瞬間のシーンが頭を過ぎり、レオの血の暖かさを思い出す……同時にどす黒い感情がまた新しい体の中にもドロリと沸き上がってきた。



いつの間にか、シフがふわりと俺の周りに戻ってきていた。



俺はニヤリと笑って、口を開く。




「……テメーら。覚悟しろよ」




俺は出来立ての足で地面を軽く蹴り、開戦の標的としてピトーハに向かって飛び掛かった。


一瞬でピトーハとの距離はゼロとなり、飛び出すのと同時に振り上げた拳でピトーハの顔を力一杯殴りつけた。


骨が砕けるような音がして、ピトーハの体は弾丸のように背後に飛んでいき、そのまま壁に激突する――。


俺は一瞬で動かなくなったピトーハを一瞥して、足元に転がったピトーハの大剣を拾い上げる。


俺の魔法の邪魔をしていたのはこの剣のような気がする――。


その大剣の柄の先には、拳大よりも一回り大きい赤くて透明な綺麗な石がはめ込まれていた。


……ああ、こいつか。


俺はなぜかその石が魔法を邪魔する原因だったのだと確信できた。――そして原因が分かれば魔法の妨害を無効化するのは余裕だった。




「うわぁぁぁぁぁああああ!!!!」




その時、ピトーハを殺されてそれまで呆然としていた帝国兵達が我に返ったように、俺に向かってきた。


俺の中にまた更にどす黒い感情が溢れ出てくる。無意識に口の端が上がる。



「へえ……。暇つぶしくらいにはなるんだろうな?」



俺はそのまま我を忘れた様に戦いに興じていったのだった――。




…………




…………




…………




――気が付いた時には、俺の周りで動いている者は誰一人居なかった。


「……もう戦える奴は居ないのか?」


俺は殺戮の余韻を味わいながらも、まだ戦い足りない気持ちを燻ぶらせて周りを見回す。


静かで濃厚な死の気配に包まれた戦場には、俺の問いに答える者はもはや誰も居なかった。


……しかし、その時ふと何かの気配を感じて視線を落とすと、血塗れの自分の手にあの赤い石をはめ込んだ大剣が握られていることに気付いた。


「お前も魔石か?」


特に何を思った訳でもないが、俺は自然に赤い石に触れて話し掛けていた。



『……はい』


頭の中に少し高めの声が響いた。これが赤い石の声か……。


「お前。なぜ、今まで沈黙していた?」


俺は戦う相手が居なくなってイラつく感情をそのまま赤い石にぶつけた。誤魔化せるとでも思ったのか? 答え方によってはコイツもぶっ壊してやる――。


『申し訳ございません……』


俺の破壊衝動を感じてなのかどうなのか、赤い石は言い訳もせずただ俺に謝罪した。


その淡々とした態度に毒気を抜かれて、俺は平静さを取り戻した。



「……まぁ、いいか」



俺はそう言って赤い石の大剣を地面に突き刺す。――その時、壊れた鏡に映る自分の姿がチラリと見えた。


俺は鏡に全身が映る場所に移動して、自分の姿を確認する。


……本当に人の姿になっている。


鏡には素っ裸の若い男が映っていた。ああ、俺全裸で戦っていたんだ……。今更ながら気付く。


少し驚いたのは容姿がデュオルの若い頃にそっくりだったことだ。ただ肌の色や髪の色、目の色は異なっていたため印象はずいぶん違って見えたが。


デュオルは地球的に言うとアングロサクソン系に近い人種で白っぽい肌色と金髪碧眼だったが、今の俺は褐色肌に、黒髪、黒目だった。元の石の色に引っ張られているのかもしれない。


俺は無造作に足元に散らばる大きめの布を拾い上げて体に巻き付け、簡易な服を身に着ける。


俺が暴れたせいで、宮殿は見る影もないほど破壊されていた。瓦礫と共に様々な物も散らばり、血と雨と泥に塗れていた。


俺は瓦礫の中からブーツの様な靴を拾い上げ、裸足の足に履く。


その後、俺はふとあることを思い付いて、大剣の所に戻って赤い石に触って話し掛けた。




「おい、お前も人間の姿になってみろ。俺が出来るんだからお前も出来るだろう?」










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― 新着の感想 ―
[良い点] 守護石的なポジションで国の行く末を見守っていく独特の雰囲気は面白かったです [気になる点] 結局早々に人化をしてしまった点です・・・・・・
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