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33話 見えない敵と見える敵

 


 迂闊だった……。


『あの声』は俺に表立って攻撃を仕掛けてくる訳ではなく、夢の中でジワジワとシャルを追い詰めてたって訳だ……。


 俺は怒りで目の前が真っ暗になりそうな気がする。


 シャルが疲れていたのは……引退を決めたのは……死を選んだのは……あの『神を名乗る声』のせいだった。俺から引き離すために……。



 しかし反面、『あの声』の言葉の一部に俺は心を抉られてもいた。


 ――本来ならば君は次代に自分の血脈を繋ぎ、生命としての営みを行うべきだったのに。


 もしかすると本当に、俺はシャルの人間としての使命を、幸せを、奪ってしまっていたのだろうか? 


 俺と出会わなければ、シャルは成長して、愛する者と結ばれて、結婚して、子供を産んで、幸せな一生を送るはずだったのかもしれない……


「弱くてゴメン」


 シャルの最後の言葉に悲しみが広がる。


『なんでお前が謝るんだよ……バカ野郎が』


 俺は今すぐシャルを捕まえて説教したい気分だった――。




 そしてシャルの死の真相に衝撃を受けている所に、更に追い打ちをかけるように不穏な知らせが入った。


「北のハッティルト帝国が隣国のハズル王国を傘下にし、我が国に進軍してきたようだ」


 慌ただしく部屋に入ってきたレオが俺にそのニュースを告げた。


『なんだと……ハズル王はどうしたのだ?』


 帝国とアダマント王国の間に位置する隣国のハズル国。そこの王は穏やかで聡明な王と言われている。あの王が帝国の言いなりになってしまったのだろうか?


「……詳しいことは分からぬが、ハズル国内でクーデターが起こったようだ」


『……帝国の策略ってことか?』


「断言はできぬが……恐らくはそうだろう。シャルの服喪期間を狙って前々から計画していたとしか思えない。ハズル国を越えてすでにアダマント王国内に主力軍が入ってきているらしい。街道を使って一直線にこの首都に向かっているようだ。進軍が恐ろしく速い」


 レオが険しい顔で状況を報告する。


 アダマント王国は周辺国との交易で栄えていたこともあり、国内の街道が非常に移動しやすく整備されていた。


 これが仇になったということか。……平和ボケしていたと言われればその通りだが……。


 俺はすぐさま久しぶりの遠距離探知を行う。


 ……軍勢がこの都から数キロ先の地点まで到達しているようだ。……思った以上に、近くまで来ている……!



『奇襲か……国境の町は?』



 ハズル国との国境にはレオの故郷があった。さすがにそこまでの遠距離は探知できないのでレオに確認する。


「……連絡が取れない。恐らくもう……」


 絞り出すようにレオが声を出す。


『そうか……。服喪期間の警備が手薄な時期を狙ってくるとは……』


 それでなくともアダマント王国は長年の平和に慣れきっていたから、兵力での戦いとなれば帝国軍にどれだけ対抗できるか……。いざとなれば俺の魔法で片付けるしかない。


「今、早急に軍備を整えているが、打って出るにはもう間に合わない。城下町の住人は避難させ、籠城戦を行うつもりだ」


 レオは沈痛な顔で作戦を告げる。


 ハズル国が落とされたということは援軍は期待できない。


 籠城をしたところで後詰が無い以上、勝ち目は無い……。住人を避難させて、最終的には俺の魔法でこの都共々帝国軍をぶっ潰して痛み分けがいい所か……。


 被害は大きくなってしまうが、現状取れるモノの中ではその作戦しかない気がするな……。



『分かった。では俺も宮殿に移動させろ。魔法で帝国軍を迎撃する』


「ああ、元よりそのつもりだ。噂の魔法の力、頼りにしておるぞ」


 レオはそう言うと、すぐに部屋の中に数人の兵士たちを入れ俺を運び出した――。



 ……


 ……


 ……



 それから数時間後、俺とレオは宮殿の最上階のベランダに出ていた。ここからなら城下町全体を一望できるので、戦況の確認もし易い。


 既に城下町の数キロ先のここからも視認できる地点にハッティルト帝国の軍が陣を構え始めていた。


「くそ……この美しい都に土足で踏み入られるとはな……」


 レオが悔しそうに呟く。


『レオ……俺の魔法はあまり攻撃範囲をコントロールできない。悪いが、帝国軍への攻撃は都も巻き込んじまうからな……』


 俺は正直にレオに伝える。


「……ああ、そのことについては昔からシャルに聞いておる。だからアダマントの魔法を使うのは本当に最終手段にしろって口を酸っぱくして言っておった……。今回は敵を殲滅するのが最優先だ。都が壊れたらまた復興すればいい。構わぬからぶっ放せ」


 レオはそう言って、俺をポンポンと軽く叩いた。


『おう!』


 俺はレオの言葉に少し安堵しつつ、次第に近づいてくる帝国軍に照準を定めた。


 ――うーむ。レオのトラウマを刺激してしまうかもしれないが、この位置関係だとやっぱりあの魔法が一番使い易いな……。


 俺は集中して風の精霊シフを上空に集める。


 すぐにシフ達はそれまでどこにいたかと思われるほどウジャウジャとたくさん集まってきた。同時に都の上空に暗雲が広がり始めていた――。


 レオが蒼白な顔で、しかし威厳を無くすことなく俺の集めたシフ達を見つめる。


 レオもシフに慣れるためにこれまで随分努力してきたからな……尤もこんなにたくさんのシフが集まった所を見るのは初めてかもしれないが。


 大気中にシフが十分に集まったことを確認して、俺はレオに声を掛ける。


『始めるぞ……』


 俺の言葉にレオが頷く。


『行け!!!』


 俺は大気中に漂うシフ達に命令する。


 その直後――!! 都の周りを囲んだ帝国軍の上に、轟音と地響きとともに幾筋もの光の刃が降り注いだ。


 シフ達の振動で帯電した雲から発生した稲妻は、遮る物が何もない草原に陣取った帝国軍に容赦なく電撃を浴びせ掛ける。


 強烈な光に包み込まれた帝国軍がパニックに陥った様子が見えた――。









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