挿話 今際の際に見る夢~シャル~
『やっと私の許へ戻ってきたね』
何処からともなく、声が聞こえる。
「……誰ですか?」
『君とはいつも夢で逢っていたんだよ。まあ、その都度記憶からは消してたから覚えてないだろうけどね』
「……夢?」
そう言えば、昔よく同じ夢を見ていたような気がする……。何となく頭が痛い。
『君は魔石と繋がり過ぎていたから……。人間が魔石と繋がり過ぎるのは良くないことなんだよ。因果に乱れが生じてしまうからね』
その言葉にハッとする。この声はもしかして……
「……あなたは神様ですか?」
『あれ? 昔、誰かにもそう聞かれた気がするな……。でもまあ、そうだよ。私は君たちの神だよ』
デュオル、リムシュ……。貴方たちも聞いた声はこれだったのね。
「どうして魔石と繋がってはいけないのですか?」
この声の主はアダマントの敵だ……。私の中で警戒心が高まる。
『あの魔石は生命に接触してくる危険な物質だ。ありえない因果の乱れを生じさせ、本来あるべき世界を歪める元凶となっている』
「そんなこと……」
神の声が不機嫌そうにそう言うのを聞いて、私は我慢できなくなり反論しようとする。
『ほら、現に君は魔石に心を奪われている。人間が魔石を慕ってもその先には何も無いんだよ? 本来ならば君は次代に自分の血脈を繋ぎ、生命としての営みを行うべきだったのに。魔石と長年関わることで、既に君と君に連なる者たちの因果は大きく乱れてしまったのだよ』
その時、私はいつも見ていた夢を思い出した。
『君はどんなに長く生きても魔石とは相容れない。どんなに慕情を募らせたところでその先は何もないのだよ? 君の人生なんて魔石には暇つぶしの一つでしかないのだから。無為な時間は終わらせて、本来の因果の流れに戻りなさい』
毎晩繰り返される呪いのような言葉。私の人生を全て無駄だと言い続ける悪夢。早く死になさいと遠回しに言い聞かせる夢。
「……あの夢はあなたが見せていたのね?」
『おや? 思い出したのかな? そうだよ。君のためにずっと語り掛けてきたんだ。君は魔石に縛られ過ぎていたから……君を引き戻すのは大変だったよ』
ああ、私は何て弱いのだろう……。こんな言葉に唆されて、アダマントを裏切って置いてきてしまったのだ。
苦い後悔が私の心に広がっていった。
『それにしても……どうやら君はまだ完全には心を取り戻せていないようだね……。仕方ない。しばらくは眠ってもらおうかな……魔石の記憶の残渣が消えるまではね』
急激に自分のすべての感覚が遠くなるような気がした……。そして同時に襲ってくる強烈な眠気。
ダメだ……ダメだ……このまま寝てしまってはダメだ。
私は必死でその感覚に抗う。
……そうだ、デュオルとリムシュは死ぬ間際に、シフに意識を乗せてきたとアダマントが言っていたっけ。
――お願い。シフここに来て……私の意識もアダマントへ伝えて!!
フワリ……頬を優しく撫でるような感覚を覚えて目を薄く開くと、そこに一匹のシフが居た。
お願い……アダマントに伝えて……この記憶と……「弱くてゴメン」って……
…………
…………
…………
『ようやくこの子の魂は回収できた……。けど、また別の魂が魔石に捕らえられてしまったようだ……。もうこれ以上放ってはおけないかな。そろそろ影響も大きくなってきてしまっているし、あの魔石と魔石に関わるものはこの際、処分してしまおうか……』
シャルの魂を小さな箱に収めると、男はそう呟いてスゥ……と静かに姿を消したのだった――。




