30話 石だけど話し相手が増えてテンション上がってる
レオにも俺の声が聞こえる! 俺は久しぶりにテンションを爆上げした。
いやだってさ。ほら、シャルもやっぱり、女王様だから? 忙しくって、最近なかなか俺の話相手をしてくれないワケ。マジ放置プレイ。女王様の放置プレイ。
まあ、俺にもけが人の治療とか色々仕事があるからさ。昔みたいに暇ではないんだけどさ。
けどさ、考えても見てくれよ。無言で淡々とけが人の治療をし続けるんだぜ。毎日毎日。僕らは鉄板の……っと、これは違う。
まあ、飽きるワケ。びっくりするぐらい飽きているんですよ、最近。
そんな中に突然のおしゃべり相手登場って訳ですから。しかも、ガキんちょ! キタコレ!暇人確定!
これはテンション上がるっしょ。前世がツオル王だとか、生意気だとか、もはや関係ない。とにかく話し相手になってくれればOK。
え? そいつの前世はお前がぶっ潰したくせに何言ってんだって?
まー、まー、それも含めてさ、なんて言うの? 腐れ縁的な? 強敵と書いて友と呼ぶ的な? あ、強敵じゃなかったけど。
とにかく、もう一人話し相手をGET出来るということは俺にとっては大変に嬉しいことだったのだ。
俺がそんな感じでテンションを上げている間、シャルはレオに何やら色々と説明をしていた。
「……と、いう訳でこれまで私以外にアダマントの声を聞ける人は居なかったの。レオ、あなたが二人目なのよ」
「なぜだ? なぜ、儂にこの魔石の声を聞けるのだ?」
レオがよく分からないと言いたげに、首を振りながら答える。
「私にも分からないけれど、恐らく精霊が関わっているのではないかと思い始めているわ。あなたと私の共通点として、精霊が見えるということがあげられるでしょ? 精霊が見える事、魔石の声が聞こえる事……無関係ではないでしょう、きっと」
シャルの回答にレオがますます首を捻る
「精霊? 精霊とはなんだ?」
「え? ああ、そうね! そう言えばさっき話の途中だったわよね」
シャルがポンと両手を叩いて、思い出した様に話し始めた。
「さっき私が窓を開けた時に入ってきた虫のようなモノ……あれは風の精霊シフと言うの。そして精霊は普通の人には見えないのよ」
「風の精霊? あの虫が!? た、確かにいつも儂以外の人間は気付いていないようだったが……見えていなかったということなのか……」
レオが驚いた様に呟く。
「ええ。まあ、精霊についてはゆっくりと勉強してもらうつもりだから、今はいいわね」
シャルはそう言うと、俺に手を置いた。
「アダマントは何か言いたいことはある?」
『ある! ある! レオは毎日夕方に、俺とおしゃべりタイムで決定な?』
俺はワクワクしながら、シャルに希望を出す。
「……なにそれ? まあ、いいけど。夜遅くまで引き留めてはだめよ? 一応まだ体は三歳児だから睡眠はちゃんと取らないといけないし、ご両親も心配するでしょうから」
『わかった、わかった』
俺の適当な返答に「もう!」と言いながらも、シャルはレオに向かって言った。
「レオ。神子見習いとしてのあなたのやるべきことを二つ、伝えます。まず一つ目は神子になるための勉強をすること。そしてもう一つは、夕方になったら毎日アダマントと話をすること。わかった?」
レオはシャルの言葉を聞いて大変嫌そうな顔をしたが、シャルがもう一度「わかった?」と念を押すと、渋々と言った感じで返事をした。
「うむ……仕方あるまい……」
そんなやり取りがちょうど一段落付いたタイミングで、“コンコン”と扉をノックする音と声が聞こえた。
「デュロイです。お医者様をお連れしました」
「どうぞ、お入りなさい」
シャルが扉に向かって答えると、ゆっくりと扉が開き、デュロイが壮年の髭の生えた男性を伴って入室してきた。
「女王陛下、失礼いたします。さっそくですが怪我人はどちらでしょうか?」
医者がシャルに訊ねる。
「この子ですよ。一応、アダマントに治療をしてもらいましたが、念のために先生に診て頂こうと思いまして」
シャルがレオを抱き上げて、医者の前へ足の傷を見せる。
「魔石殿が治療をされたのであれば、心配はいらんだろう……」
そう言いながら、医者は塞がっている傷跡を丹念に観察する。
「うむ。傷は完全に塞がっておるから、心配は無いだろう。傷跡が少し残るかもしれんが、この軟膏を塗っておけば目立たなくなるだろう」
そう言ってレオに軟膏を塗り、残りの入った容器をレオに渡した。
「む、すまぬな」
レオがそう言って容器を受け取ると、医者は少し驚いたような顔をした。
「ふふ……この子はこういう話し方が癖になっているのです。お気を悪くされないでくださいね」
と、シャルがフォローした。
こうして、ツオル王の生まれ変わりの少年『レオ』の神殿生活が始まったのだった――。




