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挿話 ツオルの視点~また女王と面談か~



――その後、儂が連れてこられたのは先日も女王と話した部屋であった。


「女王様、お連れしました」


「……どうぞ」


デュロイが扉の前で呼びかけると、中から女王の声が聞こえた。


「さ、どうぞ」


デュロイが扉を開けて、儂を部屋に誘導する。


昨日と同じように部屋の奥には女王が居た。


「あら? お一人でいらしたの?」


女王が予想外とでもいうような顔で俺に訊ねたので、儂はそっけなく答える。


「当り前じゃ」


「そう……じゃあ、心おきなくお話しできますね」


女王はその美しい顔に微笑みを浮かべてそう言った。全く、この女王は黙っておれば、まあまあ好みなのだがな。


「話とはなんだ?」


儂は女王に主導権を握られるのも面白くないので、単刀直入に確認する。


「実は確認したいことがあるのです」


そう言って、女王はおもむろに立ち上がると、自分の後ろにある窓を開け放った。


「確認したいこと?」


一体、何だ?


と、思った瞬間……開け放った窓から、フワフワと羽根のついた半透明の虫のようなモノが室内に入り込んできた。


その虫の姿が目に入った瞬間、儂の体にゾワワッ……と悪寒が走る。


「な、なんじゃ! む、虫が入ってきたぞ!! ヒッ! こっちに寄越すな!!」


たちまち儂はパニックになる。昔からこの虫が苦手でどうしようもなかった。しかし、他の人間にはよく見えないらしく、儂はいつも一人で暴れていると思われていた。


ちなみに住んでいた村の中にはあまりいないのだが、少し離れた森を通るときなどによく出会っていた。そしてどうやら、この神殿の周りにもこの虫は生息しているらしく、実は昨日もちょっとパニックを起こしてしまっていた。


「やっぱり、あなた。シフが見えるのね?」


女王が目を輝かせて言った。


「な、なんだと? う、うわ!?」


女王の言葉に儂が油断した隙に、虫が一匹フワフワと近くまで飛んできたので、儂は大きく後ずさった……瞬間!


“ガチャン!!”


と、何かが割れる大きな音がして、同時に儂は足に痛みを感じた。


「まあ! 大変!!」


女王が慌てて俺に駆け寄って、儂を抱き上げ儂の足を確認した。どうやら近くにあったテーブルにぶつかった拍子に、載っていた陶器のツボが落ちて欠片が足に当たったらしい。


「欠片が触ったのかしら、血が出てるわ! デュロイ! 念のため、すぐにお医者様を呼んで!」 


女王は俺の後ろに立っていた少年に手早く指示を出すと、儂を抱き上げたまま窓の近くに置いてあった大きな黒い透明な石の前まで儂を運んだ。


「……アダマント、ごめんなさい。この子の傷を治してもらえるかしら」


女王は石に手を当てて、独り言を言っている。……誰に話しているんだ? 傷を治す? 


「……レオ、この石に傷口をくっつけるわよ。少し痛いかもしれないけど我慢してね」


そう言って、女王は俺の足をやや強引に石に押し付ける。


『――ったくよぉ。シャルもふざけるからこういうことになるんだぜ。ツオル王とは言え、一応まだガキんちょなんだからよ』


突然、頭に男の声が響いた。――な、なんだ? これは?


「そうよね。ちょっと驚かせてやろうと思っちゃったの……今のは完全に私が悪かったわ……」


女王は男の声と会話するようにそう言った後、儂に向かって頭を下げた。


「本当にごめんなさい……レオ」


「い、いや……それより……」


儂の言葉を遮るようにして、また男の声が聞こえる。


『ほら、とりあえず傷口は塞がったぞ』


気付けば痛みは無くなっていて、本当に傷口は塞がっていた。今、出血していたばかりなのに……。


「ありがとう……アダマント」


女王はそう言って、儂の足を石から離した。それっきり、男の声は聞こえなくなった。


「……其方はさっきから誰と話しておるのだ?」


儂は混乱しそうになる頭を何とか整えて、質問する。


「え? ああ、それは……この黒い魔石と話してるのよ。アダマントと言う名前なの。前世のあなたも傷を治してもらったことがあったけど。覚えていないかしら?」


女王が黒い石を触りながら、説明する。


「ふーむ……覚えておらぬ……が。先ほどの男の声がこの魔石の声なのか?」


「え!?」


その瞬間、女王が絶句して儂をマジマジと見つめた。


……な、なんだ? 前世で傷を治してもらったのに覚えてないことを批判されるのか!?


儂は急に黙り込んだ女王を若干ビクビクしながら見つめる。


女王は魔石に手を置いたまま、こくんと頷き


「……そうね。やってみましょう」


と、ボソリと呟いたかと思うと、突然儂の手を取って魔石に押し付けた


「な、なにをす……!」


『おい、ツオル! じゃなくて、レオだっけ? お前、俺の声が聞こえるって本当か?』


魔石に手が触れた瞬間。またあの男の声が頭の中に響いた。


「う、うむ……聞こえるぞ。嘘をついてどうする」


よく分からないが、とにかく儂は聞こえることを伝える。すると、若干はしゃいでいるような男の声が聞こえた


『マジか!? おい、シャル! ほら、やっぱりレオにも聞こえてるみたいだぞ!』


「……本当なのね……信じられない」


女王もそう言いながら驚いた様に儂を見つめるのだった――。





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