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29話 見た目は子供、中身はオッサン

 

「どう思う?」


 皆が退室した後、シャルが俺に話し掛ける。


『うーん。正直あれが演技だったらスゴイと思っている』


「……そうよね。話し方から態度から、ツオル王よね」



 俺達がそんな話しを始めた時、突然外から例の子供の悲鳴が聞こえた。


「うわわわわ!!! フワフワがおる!! ええい!! 近寄るな!!」 


「何事かしら?」


 シャルが素早く窓を開けて悲鳴の聞こえた方向を確認する。


「い、いかがいたしましたか?」


 慌てた様なデュッセルの声が聞こえた後、父親の申し訳なさそうな声が聞こえた。


「すみません……。コイツ、たまにこう言う変なことを言うんです……ほら! 行くぞ!」


 シャルは黙ってその様子を眺めている。


 そしてそのまま、段々と声は遠ざかっていった。


 シャルはパタンと窓を閉めると、俺の方へ向き直って言った。


「……驚いたわ。あの子、精霊も見えるみたい」


『……え? 本当か?』


 これには俺も驚く


「ええ。シフが何匹か集まっていて。あの子はそれを見て怯えていたの」


『言っとくけど、俺は呼んでないぞ』


 シャルは肩を竦めて言う。


「別にそんなこと疑ってないわよ。どちらかというとあの子に引き寄せられてきたみたいだったわ」


『ふーん。俺がシフを使って殺しちゃったからかな?』


 ツオル王の死因は俺が風の精霊シフを使って放った落雷だ。まったく無関係では無いかもしれない。


「さあ? でもあの子供がシフにおびえている理由は、そのせいなのかもね」


『てことは、ますますあの子供がツオル王の生まれ変わりである可能性が高いってことか』


 シャルは頷く。


『どうするんだ?』


 俺はシャルに訊ねる。


「……あの子は神殿で預かりましょう。どちらにしても精霊が見えるのであれば、普通の村で普通の子供として生活するのは困難だろうし」


『そうか。まあ、それがいいかもな』


 精霊が見える人間はかなり少数の様だ。俺もこれまでにシャルとしか会ったことが無い。


 シャルも自分以外で精霊が見える人間に会ったことがあるのは、自分の祖母だけであったそうだし、恐らく絶対数として少ないのだろう。


 ツオル王であるかどうかは置いておいて、精霊が見えるということだけでも、シャルの近くに居た方があの子供にとってもいいかもしれない――。



 次の日、シャルは四人を前にその考えを伝えた。


「その子は神子見習いとしてこの神殿で預からせて頂こうと思いますが、いかがですか?」


「「「え!?」」」


 村長と両親は驚いた様に目を見張った。


「なんだと、無礼者! 儂は王じゃ。神子になどならぬぞ! 早うツオル国へ連絡をし、儂を迎えに来るよう伝えるがよい!」


 ツオル王を名乗る子供が偉そうに指図してくる。


「お前は黙っていろ!!」


 ついに親父が我慢しきれず、ポカリと子供の頭に拳骨を落とした。そしてシャルに答える。


「我々としては大変ありがたいです。村で育てていくのにも限界を感じておりまして……な、お前?」


 父親が母親に同意を求める。


「え……ええ。でも……」


 母親が少し悲しそうに目を伏せる。


「もちろん、お子様にはいつ会いに来ていただいても構いませんよ。城下町に家と仕事も用意しましょう。……離れるのがお辛いということでしたら、神殿に住んでいただくということでも大丈夫ですが……」


 シャルが優しくそう言うと、母親はパッと顔を上げた。


「ほ、本当ですか?」


「ええ、もちろんです」


 シャルの言葉を聞いて母親が安堵の笑みを浮かべる。 


 ――へぇ、こんな胡散臭い子供でも、やっぱり離れるとなると母親は寂しいもんなんだ……と、俺は変な所で感心する。


「ありがとうございます……」


 母親が頭を下げるのを見て、子供が驚いた様に叫ぶ。


「は、母御殿! 勝手に決めないでいただきたい!! 儂はツオルの国王……」


「ツオル王。残念ながら、ツオル国は50年ほど前に我がアダマント王国との戦に敗れ、滅亡いたしました。その際にあなたも戦死されたのです。そのことは覚えておりませんか?」


 シャルがツオル王の言葉を遮って、冷徹に事実を伝える。


「……なんだと……う、嘘じゃ!!」


 ツオル王を名乗る子供が蒼白な顔で喚く。


「本当です」


 シャルはピシッと断言した後、厳しい声音で言葉を続ける。


「もしあなたが本当にツオル王であるならば、我が国としては本来は処刑すべき対象です。しかし、あなたはこの国で生まれ変わった。となれば、現在のあなたは我が国の国民であることもまた事実です」


「しょ……処刑だと……」


 ツオル王を名乗る子供がブルっと震えて呟いた。村長と両親もさっと顔色を変える。


「ええ。ですからあなたが前世などに囚われずに、この後の人生をアダマント国の一員として生きて頂けるのであれば、前世の罪を罰するなどということはするつもりはございませんが……どうされますか?」


 ツオル王を名乗る子供はみるみる内に、肩を落とした。


「……そうか、ツオル国は滅びたのか……。そうか……」


 子供だからなのか、元々ツオル王がこういう性格なのかよく分からんが、感情の起伏が分かり易い。


「レオ……」


 子供のひどい落ち込み方を見て、両親もとても悲しそうな顔をしていた。


 ――こんな胡散臭い子供でもこの両親はそれなりに大切に思ってるみたいだな……。俺はまたそんなことを考えながら、場のやりとりを観察する。



「レオではないと何度言えば……!」


そう言いかけて、子供はハッとした顔をして呟く。


「……いや、レオだからこそ儂は生かしてもらえるという訳か……」


 複雑な表情でツオル王を名乗る子供はシャルを見た。


 ――お、その辺をすぐに理解できるってことは、まるっきりのアホでは無いってことか。


「ええ。その通りです」


 シャルが冷たい笑みを浮かべる。相変わらずこの表情のシャルは怖えぇ。


「分かった……国が無くなってしまったのなら仕方あるまい。儂の王としての力が足りなかったということだからな。この屈辱は甘んじて受けようではないか!」


『命運握られてるって言うのに、偉そうだな……コイツ』


「本当ね……矯正のし甲斐があるわ」


 俺の独り言に答えるようにシャルがニッコリと笑って言った――。











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