28話 石だから基本的には受け身
『謎の声はやっぱり神様みたいだぞ』
リムシュの夢の記憶をシフから受け取った俺は、シャルに伝えた。
「ふーん。じゃあ、リムシュは神の存在を証明できたわけ?」
『まあ、そうなるのかな? 例の声の主は自分が『神だろう』って言ってたみたいだし』
「……だろう、って何よ? そこは断言しないんだ?」
『そんなこと俺が知るかよ』
「ま、これでリムシュも心置きなく成仏できたかしら……」
シャルが前に俺に説教を喰らわせたとは思えない程、不謹慎?なセリフを吐く。
『どうかな? 夢の中では「まだまだ知りたいことがたくさんある……」なんて、未練たらたらだったけど』
俺はリムシュらしい死に際のセリフだなと思いながら、シャルに伝える。
「リムシュらしいわね」
シャルもそう言った後、少しだけ声を抑えて聞いてくる。
「で、どうするの? 神様と戦うの?」
俺は少し考えて答える。
『さあ? 今後、向こうがどう出てくるかだろ。今の所、知り合いの夢に出てきて俺の存在が邪魔だって悪口言ってるレベルだからな』
「あら、随分やる気ないのね」
俺の気の無い返事を聞いて、つまらなそうにシャルが呟いた。
『どっちにしたって俺は動けねーからな。 ――ってか、お前いつからそんな過激派になったんだ? ……いや、お前は昔から過激派だな』
俺の言葉を聞いて、シャルは「うるさいわよ」とだけ言った。
◇
その後も『神』とやらの動きは特にないまま、月日は流れて行った。
それからあっという間に約二十年の歳月が経った。アダマント王国は変わらずシャルの治世の下、平和に発展していた。
そんなある日のことだった。シャルが神殿の俺の部屋で、書類を確認する仕事をしていた時だった。
宰相を務めるデュッセルがシャルを呼びに来た。
ちなみにデュッセルはデュークの子供でデュオルの孫だ。デュークが引退してデュッセルが宰相職を継いだのだが、決して親の七光りという訳ではなく、コイツもしっかりとした優秀な政治家だった。
「シャル様。辺境の村の村長がシャル様にご相談をさせて頂きたいと宮殿にいらっしゃいまして……」
「相談? ……どういった内容なの?」
シャルは読み掛けていた書類から目を離して、デュッセルの顔を見つめた。
「それが……三年前に村に生まれた子供が、自分のことをツオル王だと名乗っていると」
言い辛そうにデュッセルが告げる。
「ツオル王ですって?」
シャルが驚いた様に呟いた。デュッセルは頷くと言葉を続ける。
「両親が気味悪がって村長に相談し、村長が自分では判断できないからと宮殿へ訪ねて参ったそうです……いかがいたしましょうか?」
デュッセルはシャルの指示を仰ぐ。
「もちろんすぐにお会いしましょう。……アダマントにも同席してもらった方が良いわね。お客人を宮殿からこちらに案内して頂戴」
「はい。承知いたしました」
デュッセルは静かに退室していった。
そして約1時間後、神殿の俺の部屋に辺境の村の村長と、件の子供、そして子供の両親が案内されてきた。
「女王様……こ、この度は私どもの為にお時間を割いていただきありがとうございます」
部屋に入るなり、村長が恐縮したようにシャルに頭を下げる。
「良いのです。頭を上げて下さい、村長。ご相談、というのは……そちらの子ですね?」
シャルが穏やかな声で村長に話し掛ける。
「ふむ。其方が女王か。む、其方の顔は見覚えがある気がするぞ? ……どこかで会ったか?」
子供が急にその年齢に似つかわしくない言葉づかいで話し始めた。
その言葉を聞いた瞬間、シャルのこめかみがピクっと動く。
――お、この反応は。昔のツオル王にまつわるイラつく出来事を思い出したな。そういや、シャルの奴、ツオル王に求婚されたことがあったっけ。……俺は密かに思い出し笑いをする。
「こ……こら、レオ! 女王様に失礼な言葉を吐くな!!」
隣に居た父親らしき人が子供を叱る。
「儂はツオルじゃ! レオなどと言う名前ではない!!」
ふん、と言った感じで子供は父親の言葉に反論する。
――なんだ、このコントみたいなやりとりは……。俺はちょっと面白くなって場の様子を見守る。
「では、ツオル王。教えてください。貴方はどうして子供の姿になってしまったのでしょうか?」
シャルがツオルと名乗る子供に威厳ある声で訊ねる。
「ふむ。それについては儂もよう分からん。気付けば赤子になっておったのだ」
シャルの質問にも動じずに答えるところを見る限り、やはり普通の子供とは違うようだ。
「は、話せるようになった途端に、このような有様でして。なによりツオルと言えば、アダマント王国建国の際に敵国だった国……。村の者はこの子を奇異の目で見るようになり、他の村にも噂が広がってしまい、両親も私もすっかり困ってしまいまして……」
村長が本当に困ったような顔で子供の方を見て、シャルに説明する。そんな村長の言葉を遮り、子供がまた大声でしゃべりだす。
「無礼者が。アダマント王国など名も知られておらぬ小国が、我がツオル国の敵になる訳が無かろ……ムグムグゥ!!」
「い、いいから黙れ! レオ!」
父親が青い顔をして、子供の口を塞いで強引に自分の許へ引き寄せた。
「しかし、それでいて自分がツオル王だということ以外は覚えていないらしく、本当なのか嘘なのかも判別も出来ず……」
村長はほとほと困ったようにため息交じりで話す。
「なるほど……。成長過程でツオル国に関する情報にこの子供が触れる可能性はありましたか?」
シャルが質問をすると、その質問に対して母親が答えた。
「いえ……特に触れさせた記憶はございません……。アダマント国の建国史を習う年齢になる前ですし……」
確かに、ツオル国なんて50年前に滅びた国の名前に触れる事なんて、学校の授業で習うくらいだよなぁ……。
そして、その後もいくつか村での生活の様子を確認した後、シャルは言った。
「分かりました。……少し考えさせて頂いてもよろしいですか? ……ひとまず今日はもう遅くなって参りましたので、神殿の客間にお泊り頂き、明日またご相談させていただきましょう」
その後、シャルはデュッセルに「客人たちの不自由が無いように」とだけ指示し、部屋から全員を退室させた。
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