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27話 謎の声の謎


その日の夜、俺の許に一匹のシフがフワフワと近付いてきた。


ん? 俺、無意識に体でも光らせてるか? 思わず自分の体を見回すが、全く光っていない。


しかし、そのシフは明確に俺に向かってフワフワと寄ってきた。……そして、ピタッと俺にくっつく。


その瞬間、デュオルの『今際の際の夢』が俺の中に流れ込んできた。



・・・・・・



デュオルの最後の記憶を伝え終わると、役目を終えたシフはフワフワと飛び去って行った。


――なんだ、今の? 俺がデュオルの運命を狂わせた? 因果ってなんだ? あの声は誰なんだ?


けど……。あの声の主が何者かは分からんが、言動からして敵である可能性が高い。


だからこそ、デュオルが最後の力で俺に伝えてくれたのだろう。


最後まで世話掛けて済まねーな。俺は俺の中に残ったデュオルの魂の欠片に呟いた――。



次の日、俺はデュオルの夢の話をシャルとリムシュの二人に伝えた。


「一体、何者なのでしょうか? その声の主は……」


リムシュは随分と皺の増えた顔で更に眉間に皺を寄せて、口を開いた。


「アダマントもよく分からないって」


シャルが俺の言葉をリムシュに伝える。


「ふむ。正体不明の声……気になりますね。 しかし、今の話の内容的にはつまり私もシャルもアダマントと縁を深く繋いでいる者となるのではないでしょうか? ということは、我々が死ぬときもその謎の声が現れるかもしれないということですよ……なんだかワクワクしますね」


『……やっぱ、リムシュは変な奴だな』


「……うん」


俺とシャルの冷たい目にも気づかず、リムシュはなにやらぶつぶつ話し続けている。


「この場合の運命とは……因果とは……どういうことなのでしょうか? 乱れてしまった、ということは本来あるべき姿があるということなのでしょうか? そしてアダマントはそれを乱す存在となっている……では、その因果を乱されて困るのは……誰なのでしょう……」


ガタン、と突然リムシュが立ち上がる。


「こうしてはいられません。すぐに弟子たちを集めて、過去の文献を渉猟(しょうりょう)しましょう。そのような話が何かしら語られていないか……確認をします!」


リムシュは王国内に広く学校を作り、国中から優秀な人材を集めていた。特に優れた者はこのアダマント国の首都にある大学に呼び寄せ、様々な研究に従事させていた。


まあ、やってることは教師だから昔とは変わってはいないんだけどな。



「シャル様、公務のお時間です。宮殿にお越しくださいませ」


リムシュが出て行ったすぐ後に、宰相を務めるデュークが姿を現した。


コイツはデュオルの息子で優秀な執政官だ。デュオルの代から宰相を務めているから安定感抜群の政治家だ。シャルの補佐を完璧に勤めてくれている。


当初、デュークを王に推す声もあった。しかし、当の本人は自分は王の器ではないと言い切って、父親と同様にシャルを推挙したのだ。


デュオルに似ず、堅物な所があるのでシャルは居心地悪いと言っていたが。まあ、シャルの居心地なんて知ったこっちゃない。国が上手く治まればそれでいいんだ。


アダマント王国はその盤石な体制の下、さらに国中から集めた優秀な人材を登用・教育しその国力を更に強化していったのだった。



そしてその後、懸念していた敵からの襲撃がある訳でも無く、平和のままに十年の月日があっという間に過ぎた。


「リムシュが危篤だって……」


シャルが珍しく動揺したような顔をしてやってきたと思ったら、そう言って椅子に座り込んだ。


『おお、あの爺も遂に年貢の納め時か』


「……あのねぇ、アダマント。言って良いコトと悪いコトの区別もつかないのかしら。まったく」


シャルは貫禄のある女王らしく、俺に小言を言う。


『いや、お前が暗い顔をしてるから、雰囲気を和らげるためにだなぁ』


「そんな気の使い方なんてしなくていいから」


『まあ、けどさ。実際リムシュだって今頃ワクワクしてるはずだぜ、自分の持論を証明できるかもしれないチャンスだからな』


そう、デュオルが亡くなった時に見ていた夢の話をして以来、デュオルは夢に登場してきた『謎の声』に酷く執心していたのだ。


大学の人材や資産、コネ等々あらゆるものを総動員して、リムシュは『謎の声』について調査をしていたのだ。あの後のリムシュの人生はほぼそのことに捧げられていたと言っても過言ではないほどに。


結果、リムシュは一つの仮説に辿り着いた。


「『乱れてしまった因果の流れを整える』と謎の声は言った。因果の流れに干渉する者は何者か……それは『神』しかいない!」


「ふーん」

『ふーん』


シャルと俺の前で小一時間持論を捲し立てたリムシュの結論は、あんだけ調べた割に思ったより普通だった。いや、学者的にはその結論に辿り着くための理論の積み上げとかがあったんだろうけどさ。


俺達の薄い反応を見てリムシュはハァ、と溜息をつく。


「分からないでしょうか? 神は実在するかもしれないということですよ? 古今東西の文献でその存在を決定づける記述は見つかってはいませんが、存在を否定するものもまた、無い。デュオルの聞いた声が神であればそれは存在の証明となりうるのですよ」


なんだか分かるような分からんような話だな……。俺は途中途中聞き逃しながらそう思う。


そもそもそんな存在がいるんなら、俺がこの世界に来ちゃったときに返事して欲しかったぜ。神なんていたとしてもそいつは使えねー奴だ。きっと。と悪態をつきながらリムシュの話を聞いたのが数年前か。


その時、反応の良くない俺達をなじる様にリムシュは宣言したのだ。


「いいでしょう! 私が死ぬときにもきっと例の声は私に話し掛けてくるはずです。因果の乱れを修正するために。その時に声の主が『神』であるかどうかを確認しましょう!」


そんな訳で、ようやくリムシュの最後の実験『あなたは神ですか?と謎の声に確認する』ミッションが始まる訳だ(まあ、それが実験と言えるのかは敢えて言及しないぞ)。


「はあ……まあ、そうね。あの人ならきっとワクワクしてるはずね……。私が悲しむのもお門違いなのかも……。それで? アダマントはシフを飛ばす準備をしているの?」


シャルの確認に俺は当然とばかりに答える。


『おう、もちろんだ。アイツの結果を聞いてやらねーと末代まで祟られそうだからな』


「末代ねぇ……」


もはやツッコムことすらしてくれない。シャルの奴、変に老成しやがって……。












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